マスク男子との出会い②

先生が教室を出ていって数分後。

突然ドアが空いたと思ったらマスクをかけた男子が入って来た。

後ろに先生もいる。

この人が転入生なのだろうか?

「えー、彼がさっき言っていた転入生だ」

春夏秋冬ひととせ さくらです。よろしく」

春夏秋冬……

珍しい名前だな。

聞いた事がない。

けど、どこかで見た事がある気がする。

「春夏秋冬の席は海風うみかぜの後ろな」

先生が指をさしながらそう言うと、春夏秋冬は少し下を向いて席に着いた。

「よろしくね、春夏秋冬君!」

「よろしく」

クールに答える。

この時俺は思った。

顔はマスクで見えないけどきっとモテる……と。

「こら、海風。前を向きなさい」

そう言われたしずは渋々前を向く。

もう少し話したかっただろうな。


話が終わり、先生が居なくなると教室の中は一気に騒がしくなった。

「ねぇ、前の学校ってどんなだったの?」

「なんの部活入るつもりなん?」

クラスの陽キャと思われる人達が質問攻めをする。

俺は近くにいたくなくて教室を出ようとした時、春夏秋冬と一瞬目が合ったと思ったら大きめの声が聞こえた。

「うっせぇんだけど。なんで言わないといけない訳?」

声のした方を見ると、春夏秋冬が周りを睨んでいた。

それを見たクラスメイトは少し後退する。

「うわー、何あれ」

「あいつと仲良くやれる気がしねぇ」

などと本人がいる前で色々言っている。

ある意味尊敬するな。

春夏秋冬は居心地が悪くなったのか俺の方に歩いて来た。

そのまま通り過ぎると思っていたが、何故か手首を掴まれた。

「え、あの……」

「ちょっと付き合って」

えぇ〜!

手首を掴まれたと思ったら何処どこかに連れていかれるし、謎なんだけど!?

春夏秋冬は俺をぐいぐい引っ張る。

無言で気まずいなと感じた時、急に声をかけられた。

「俺の周りにいた人たち、邪魔だったんだろ?」

「まぁ……あぁいう人たちの近くに居たくないから」

「ふーん」

「もしかして、俺に気付いてあんなこと言った?」

思ったことをそのまま口にしてしまった。

考えてから言うべきだったと反省しても遅い。

言ったことは取り消せない。

「別に。本当のこと言っただけだし」

春夏秋冬はそっぽを向いて言った。

これは図星なのか?

思ったよりも分かりやすい。

少し可愛いとさえ感じてしまう。

「ありがとう」

「……」

ポツリと小さな声でお礼を言っておいた。

聞こえたのかは分からないけれど、マスクでよく見えない顔が少し赤くなった気がしたから、きっと聞こえていたんだろう。


しばらくして、桜の木の下につれてこられた。

「なんでここに連れて来たんだ?」

「なんとなく」

すると春夏秋冬が桜の木を見上げた。

その姿を見た瞬間、朝見かけた男子生徒を思い出した。

気になったので本人に聞いてみる。

「ねぇ。今日の朝、桜の木見上げてた?」

「え、見上げてたけど……それがなに?」

「いや深い意味は無いんだけどさ。桜の木見上げてるのが綺麗だったから描きたいなと思っただけ」

「絵、描けんの?」

「うん。一応美術部だから……」

そう言うと、春夏秋冬は黙ってしまった。

変なことを言っただろうか。

「描くなら上手く描けよ」

俺が心配していた事を呆気あっけなく壊されてしまった。

驚いて言葉が出ない俺を見て、怪訝そうな顔になると無言で来た道を戻って行く。

時計を見ると数分で授業が始まる事に気が付いた。

早く戻らないと……

「あ、お前の名前、なに」

唐突にそう聞かれた。

言っていなかっただろうか?

月雲 唯叶つくも ゆいか。呼び方は何でもいいから」

「ふーん……じゃあ月雲で」

おぉ、結構無難だ。

そりゃそうか。

俺とは初対面だもんな。

無難が一番じゃないか。

変なあだ名付けられるよりはマシだと思うし。

俺が自己紹介をすると、予鈴が鳴った。

急がないと先生に怒られる。

春夏秋冬に急いだ方がいいと伝えようとしたら、既に走り出していた。

しかも結構速い。

俺は運動苦手だけど、春夏秋冬に追い付けるように走った。

多分教室の場所をまだ覚えていないと思うから。

迷子になったらそれはそれで面倒になる。

そうならない為に、オレは全速力で走った。

追い付けるかも分からないのに走った。

そして途中で見失い、一人で教室に戻ると春夏秋冬の姿はなく、迷子になった事を悟った。

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メガネ男子はマスク男子に恋をする 柳 柚葵 @story4

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