スプーキーナイトメア・ぷうけえ! 2

 ここ、ゴミ捨て場か。

 ん、なんか落ちてる、これが足に当たったみたい。

「……ゲームのパッケージ?」

 ゴミはもう、回収されたみたいなのに。

 ゴミ袋から落ちちゃったのかな。

 表面には、おどろおどろしい雰囲気の紫色のフォントで【ぷうけえ】と書いてある。

「ぷうけえ? 聞いたことない言葉だなー」

 ケースをひっくり返すと、ゲームのあらすじが書かれていた。


 ―――――


 ××郡明日手村でたて続けに起こる、子どもの誘拐事件!

 その真相は……?


 オープンワールド型のマップに散らばるヒントを見つけ、怪事件の謎を解け!

 ―――――


「謎解きゲームか。ティオティワカンほどじゃなさそうだけど、なかなか面白そう。でもなあ」

 あたしはパッケージをじっと見つめた。

「ぷうけえなんてゲーム、聞いたことないんだよなー」

 常日頃から、あたしはネットで、新作のゲームタイトルを調べあげているのだ。

 もちろん目的は、面白そうなゲームに出会う確率をあげるため。

 家庭用ゲームやモバイルゲーム、フリーゲームなど、イマドキは色んなゲームがある。

 それをひとつでも見逃したくないし、すでに持っているゲームでも追加コンテンツが配信されたら、やらなきゃ損だもん。

 しかし、【ぷうけえ】かあ。知らないな。かなり昔のゲーム、とか?

 でも、現行ハードのソフトなんだよなー。

「まさか、つまらなさすぎて、すぐに生産中止になった幻のソフトっ? だとすると――逆に興味がわいてくるんですがっ? そんなにつまらないかーっ! んふふふふ」

 いけない、いけない。ついひとりごとをいってしまった。はずかしー。

 でも、これはゲーム好きのサガなのだ。面白そうなゲームを見つけたら、わくわくせずになんていられない!

 さっそく、パッケージをチェック。

 ケースのなかも外も、特に汚れているようすはない。

 今まさに、捨てられたってかんじ。おー、かわいそうに。

「よしよし、どれぐらいつまらないか、あたしがチェックしてあげるからね!」

 あたしはパッケージを大事そうに抱きしめながら、家へとダッシュしたのだった。


 家に帰ると速攻で、【ぷうけえ】を起動させた。宿題なんてやってる場合じゃないっしょ。

 だってせっかく手に入れたソフトだよ。立ち上がらなかったら、ショックすぎる。

「ちゃんと動いてよー」

 拝むように、テレビ画面を見つめる。

 問題がなければ、遊んだゲームのアイコンが並ぶ、その一番上に、ぷうけえのアイコンが浮かぶはず。

 すぐに、ふぉん、と音がした。

 横に並んだゲームアイコンの最新位置に、ぷうけえのアイコンが現れた。

「やった、遊べるみたい。いくぞっ、新たなゲームの世界へ、スイッチオーン!」

 ポチ、とコントローラーのAボタンを押す。

 いよいよゲームがはじまる――その時だった。

 テレビ画面が、白に染まっていく。

 そして、ずずず……という何かを引きずる音がどこからともなく聞こえてくる。

「な、なにっ? この音……!」

 ずずず……ずずず……

 まるで、重そうなものを少しずつ、少しずつ、こちらへ向かって運んできているみたいな。

 それは小動物よりも重く、本棚よりも軽そうな音だ。

 そう。ちょうど、ニンゲンくらいの重さの……。

「ひい……ッ!」

 影が見えた。

 遠くのほうに黒い影が、ぼんやりと浮かんでいる。

 それは、何かを引きずってきていた。

 ゆらゆら、ゆらゆらと揺れながら。

 今、自分の身に何が起きているのか、わからない。

 叫びたいのに、声が出ない。

 突如、目の前に

 ―― ぷ う け え ――

 という文字が浮かんだ。

 文字とともに、自分の意識も、まぶしい光のなかに消えていった。

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