スプーキーナイトメア・ぷうけえ! 4

 それは百センチほどある長い棒で、先には丸い輪っかがついていた。

 付け根の部分にある小さなボタンを押すと、輪っかから、白い紙がぶわっと飛び出す。

「な、なにそれ」

「『電動ハラエグシ』、かっこいいでしょ」

「……ハラエグシ? かっこいい……のかな」

 あ。でもこれ、マンガか何かで、見たことある。

 神社の神主さまが、お祓いのときに使っているやつ。

 バッサバッサって、左右に振ってるやつ。

 あれ、ハラエグシっていうんだ。

「それが、電動ってどういうこと?」

 チッチッチ、と指を左右に振り、タタラは得意げに口角をあげた。

「〝即起動、即祈願、即浄化。これが、ぷうけえ案内人の三箇条。ゲームをスムーズに進行していくための、心構え〟……って、ぷうけえに口酸っぱくいわれてるからね。電動イコール速さってワケ」

「いや、何その理屈」

 ゲームのスピード感のために、ハラエグシを電動にしたっていう話らしいけれど。

 悪いけどあたしには、何もかもがハテナですわ。

「まあ要するに、これから、ああいうのがたくさん出てくるってこと。きみを怖がらせるためにね」

「要しないでよ!」

 ゾッとした。これが、ホラーゲーム。

 こんなのばかり出てくる世界なんて、冗談じゃないよ!

「あたし、ゲームは好きだけどさ、ホラーゲームだけはやってこなかったの。怖いゲームって……怖いでしょ? むり!」

 あたしが顔を真っ青にしていってるのに、タタラはおだやかにうなずくだけ。

「うん、知ってる。だから、ぷうけえはきみを選んだんだろうね」

「はあ? なにそれ……ホラーが苦手なプレイヤーを探してたってこと? サイアクなんだけど!」

 タタラはあたしの声に応えず、スッとハラエグシをかまえた。

「まあ、安心して。ぼくが仕事をしているうちはそう簡単にはゲームオーバーにはならないよ。ぷうけえから、そう設定されているからね。それに、ぼくのハラエグシは強いから」

 タタラは高らかに、ハラエグシを天にかかげ、ぶつぶつと何かを唱えだす。

 ——これ、呪文?

「名前ある呪いから生まれしものよ。今こそ清められ、空に還らん!」

 すると、電動ハラエグシがゴオオオという音とともに起動する。

 細長いボディからまばゆい光があふれ出し、辺りを照らす。

 タタラは黒い影に向かって、それを一気に振り下ろした。

 影がうめき声をあげながら、光のなかに消えていく。

 しばらくして目を開けると、さっきまでいた黒い影は、跡形もなく消え去っていた。

「やっつけた……?」

 ホッと胸をなで下ろしていたら、タタラが手を差し出してくれる。

「大丈夫?」

「げ、ゲームを拾っただけなのに……こんなことになるなんて」

 ——ぴこーんっ!

 まぬけな音がして、さらに気が抜ける。顔をあげると、空中にディスプレイが浮かび上がっていた。

 何これ、マジでゲームみたい。


 ——————


 イッタイメノ

 ノロイヲ タオシタ!

 オメデトウ!


 ——————


「だ、誰?」

「ぷうけえだよ」

 空中ディスプレイの主が、例の呪いのぷうけえ……!

 あたしの眉間に、シワが深く刻みこまれた。


 ——————


 クツデ ビビルノ

 オモシロ スギテ

 ハラ ヨジレタ~!


 ——————


「はあっ? うざっ、何こいつー!」

 どうやらさっき転がっていた靴は、ぷうけえがわざと仕掛けたものらしい。

 恐怖でビビりまくるあたしを見て、どこかで笑っていたようだ。

 シュミわる過ぎでしょっ?

「はは。呪いは、人の恐怖が大好物なんだ。こいつのいっていることなんか、気にしないのが一番だよ」

「くそーっ。ムシだ、ムシ!」

 どうしても悔しがってしまうあたしの目の前で、空中ディスプレイの表示が変わった。


 ——————


 キミタチハ

 コノ ムラニ イル

 ヨンタイノ ボスヲ

 タオセル カナ?


 ・ツギノ ミッション・

 →ガッコウデ

 「カラス」ノ クジョヲ セヨ! 


 ——————


「……次の目的地は、あの学校みたいだね」

 後ろにそびえる、××郡立明日手小学校をあたしたちは見上げた。

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