第2話 白銀の令嬢
『「よい出会いがあるかもしれませんよ」とは言われたけど…まさか、第二王子の婚約者探しの茶会だったなんて…』
令嬢たちの会話で何となく茶会の意図を察したセシーリアは、庭園の隅でため息をついた。
まだ第二王子は姿を見せていないが、令嬢たちはすでに色めき立っている。
第二王子は太陽の光を映した髪に、晴れた空のような瞳を持つ美青年らしい。
長年婚約者を決めずにいたが、第一王子の結婚でついに婚約者を決めるらしいと緊張に包まれている。
『巻き込まれないうちに逃げよう』
セシーリアにとって、第二王子の婚約者などどうでもいいことである。
セシーリアは慣れないドレスを引っかけないようにしながら、茶会が行われている庭園を離れた。
しかしそのまま帰るわけでもなく、王城の奥へと向かう。
廊下に立つ衛兵の前を通っても、衛兵たちはセシーリアの姿に気付かない。
王城内の入り組んだ廊下を迷わず進み、大きな扉の前で立ち止まる。
「!」
その部屋の扉に手をかけようとした時、強い魔力の源を察知した。
『どうしてこんなところに…』
それは、茶会が行われている庭園の方からだった。
すぐに、甲高い悲鳴が聞こえてくる。
「………」
セシーリアは前に伸ばした手を引くと、扉に背を向けた。
茶会が行われていた庭園には、1匹の魔物が現れていた。
うさぎのような見た目だが、耳が長く口には鋭い牙が見える。
最初はうさぎが迷い込んだのかと思っていたのだが、1人の令嬢が撫でようとしたところ目が赤く染まり、牙を見せたのだ。
今もこちらを威嚇するようにシャーッと牙を見せている。
それを制するように、アルノルドは剣を向ける。
「殿下、お逃げください!」
「令嬢方は?」
「衛兵が避難させました。殿下も早く…」
「騎士団もすぐには来ない。ここで引き留めておく人間が必要だろう」
「それは私がやります」
「じゃあ、俺たちでやるか」
てこでも動かない様子のアルノルドに、ユーリーンは諦める。
「また陛下に怒られますよ」
「謹慎すれば、婚約者探しも先延ばしにできるな」
ユーリーンも剣に手をかける。
魔物が興奮したようにこちらに飛びかかり、アルノルドは剣を持つ手に力を入れる。
「
澄んだ声が聞こえた瞬間、アルノルドの手足が凍り付いて動けなくなった。
『…氷?』
「殿下!」
ユーリーンの声に意識を戻すと、目の前に魔物の鋭い歯が見える。
「
巻き上がるような風が起こると、風が魔物の体を包み込んで止まった。
声の聞こえた方に視線を向けると、白銀の髪の令嬢が立っていた。
令嬢はアルノルドに目をくれることなく魔物に近付くと、近くに落ちている赤い花を見て眉をひそめる。
「
赤い花を魔法で燃やすと、風を少し緩める。
「もう大丈夫よ」
優しく声をかけると、興奮していた魔物が少しずつ大人しくなっていく。
「迎えが来ているわ」
何を言っているのかと思えば、林の奥から見上げるほど大きなうさぎに似た魔物が現れた。
真っ赤に染まった丸い瞳が、セシーリアをじろりと睨む。
「人に見つかる前に、山に帰った方がいいわ」
セシーリアが小さい魔物を渡すと、魔物の瞳が青色に戻る。
大きな魔物はセシーリアの言葉を理解したかのように小さい魔物の首を咥えると、長い耳で空に羽ばたいていった。
セシーリアは2匹の姿が見えなくなってから、2人を拘束していた氷を解かす。
側近らしき男がもう1人の男を守るように立ち、セシーリアに剣を向ける。
もう1人の髪色と瞳の色を見て、セシーリアはこの男が誰なのかを理解する。
太陽の光を映した髪に、晴れた空色の瞳。
澄んだ色の瞳がセシーリアを映し、その口を開く。
「…あなたは、何者だ?」
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