被占領国のデモクラシー

「消費税のことが話題になっているわね」

「そうですね。資源の安定供給への不安と物価の高さから一番影響を受ける個人消費に負担がかかるのだから無理もありません」

「ちなみにあなたは消費税を減らした方がいいと思う?」

「もちろんそう思う、と言いたいところですがそう聞くということは何かあるんですね?」

「わかってきたわね、じゃあなんで統治者は消費税にこだわるのか答えてみて?」

「ええと、とりあえず浮かぶのは公的費用の捻出ですね。インフラ整備、保険や年金、司法制度、大学運営から軍事予算と政治資金までいろいろあると思いますが」

「それなら所得税や法人税などで賄ったり住民税などの地方負担でやればいいと思わない?」

「それだとインフラ整備や地方管轄の運営などはある程度融通できるところがあるかもしれませんが他のものは賄えませんよね?」

「そうね、それにインフラや運営の機能は商業サービスと重なる部分もあるからその部分だけだと消費税の負担を多くするということの論旨に逆らっているわけではないわね」

「では基本に忠実に消費税は需要を下げる効果があるというのはどうでしょうか。なんで需要を下げる必要があるのかはわかりませんが…」

「イイ論点ね。需要を下げる必要があるのは物価高を引き留めるためよ」

「え?でもそれって物価と見込み期待との間に相関性がないと成り立ちませんよね。なのに単に需要を下げたら経済が停滞しませんか」

「もちろんそうよ。でもここで問題なのは物価の名目的価格と金融取引との相関であって、実体経済との取引相場の相関が問題になっているわけではないの」

「いやいや、いま問題にしているのは消費税の話ですよね。なのになんで実体経済が問題じゃなくて名目価格の物価が問題なんですか!」

「それはね、金融商品の金利がに敏感だからよ」

「は?」

「国債は国家の信用創造に関わる基幹性だわ。融資の基準を緩和するにしろ引き締めるにしろそれは国家的な尺度での評価基準を受け入れる必要がある。だから国債の価格が秩序の変化につられて動いてしまうことは取引の過剰を生み出し物価の見込み収益と投資の経済的信用を下げてしまう。そこで国家は自国通貨が安全ですよということのアピールを治安維持活動に向けなければならないの。当然だけどこれは金融商品と公的な資金活用の利潤の捻出という国民経済の実体性に関わる基底を信じていなければ成立しない議論よ」

「え、でもそれって消費税を使ったら逆効果なのでは。だって現実に自分の国の経済を停滞させてしまうんですよね」

「重要なのは一部の上場企業の株式とその金融商品の名目価格が輸出入でどうなるかを予想しやすくするという意味での安定であって、経済的規模が小さい活動領域が停滞しても労働力が安くなるだけだからいいのよ」

「それ労働者の不満たまりますよね?」

「だから治安維持をするために費用が必要なんじゃない。もしそれを消費税で賄えれば、労働者の賃金を低く抑えられ、かつ暴動が起きても鎮圧しやすくなるという二重のメリットが得られるわ」

「そんな非道なことに誰が協力するんですか!」

「税金をつかって運営資金援助の公的名目を建てること、つまり飴を与えることによってに決まっているじゃない。地方流通に対しては消費の喚起という名目で管轄権の要諦を押さえ、一般大衆には政治的な団結を生まない程度の一定の補助金を自分たちの生活の当然の権利として受け取らせる。他方投資の援助の名目は海外インフラ支援の技術開発協力とでも名付けておけば間違いないわ。人道平和の民主主義的軍備よ」

「見事な社会主義者弾圧法じゃないですか」

「いいえ、社会主義者達には政府に反対して民主主義と憲法の権利を守れという宣伝をボランティアで叫ばせる必要があるわ。そうしてこそ政府が必要悪として暴力の裁定に乗り出し国民には憲法以上の規定で団結したり立法権を行使しないように弾圧する名分を司法に与えられるのよ。ここで大学の学問を『平和のために』利用することは公共の福祉としてとても理にかなっているし」

「独裁、独裁です」

「我が国は『残念ながら』大国の横暴と無茶な要求に挟まれて右往左往するしかない運命なのしくしく。だから国が例外措置を積極的に考え出して対処しないといけないわけです、いぇーい。ただし占領国なので緩やかで穏便に理知的に物事を片付けようと努力しているわけです。もちろん他国の独裁の目に余る横暴は見過ごすわけにはいかないのでお金頂戴♡」

「しょ、消費税…」

「うんうん、言っても出してくれるわけないしね。信用されてないし。なので生かさず殺さずの精神で現場の人々の尊い努力を称えましょう。現場の人が頑張っているのに横から文句を挟む筋合いはないよね」

「おおう、もはや…民主主義万歳ですね」

「いいえ皇帝陛下万歳!よ。私たちは皇帝とA国のお気持ちに配慮しなければならなないのだから、その名義を思う存分利用しなければならないわ。わが国とA国は公共投資や土地分割を基に憲法を起草した仲として十分に親和的なのだから戦争に抵抗ものめり込みもせず平和と安全を守り抜きましょう。そうしてこそ敗戦の亡霊の戯言を聞き流すことができるのだから」

「あのちなみになんですけど、この状況を打開する方法ってあるんでしょうか」

「ない、といいたいところだけどやっぱり原発事故と核兵器のことは気になるわね。これらは科学的分割の問題で象徴的な名義人を空白にしてしまう影響があるからね。だから核兵器反対、人道的な立場からの核共有反対は当然としてでも核兵器の欲望を存在として規定しないようにしなければならない。そうじゃないと…」

「そうじゃないと?」

「政治的な亡霊が召喚されるわね。今はまだ亡霊だけどそれに創造の衣服が着せられると…その影響は未知数ね」

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