第97話

 同時刻。金本大助と佐々木一郎が本格的な対談を始めた中で、ある4人の男たちが闇の中に潜みつつとある民家の前に姿を現した。


「…ここだ。間違いない」


 やや古びた家の外観を確認した男が仲間にそう伝える。

 

「了解。___‘能力解除‘」

 

 小さな闇の中から男たちがゆっくりと這い出てくる。そして全員が速やかに配置に付いた。

 

(やはりこの男の能力は優秀だ。今回の作戦に引き込んだのは正解だったな)


 男が大金を払い雇った男、川田の能力は小さな闇を生成する能力だ。これ自体に攻撃性はないが、ある程度の質量のものを本人も含めて収納する事ができる。つまりは移動可能なアイテムボックスのような能力だ。弱点としては内部からの攻撃に非常に弱いということ。ハッタリには使えるが攻撃性は皆無。100%支援向きの能力だ。


「全員、準備はいいな?」


 隊長の川森が仕事仲間にそう問いかける。


「ああ」


「こっちもだ」


「問題ない」


 川田、川本、川西が川森にそう返答する。彼らは全員が全員殺しのプロだ。この手の汚れ仕事にも精通している。


「…よし。川本頼む」


「はいよ」


 川本の異能力が発動し家の瓦に半透明のロープが4本発射された。飛ばされたロープは泥のようにゆっくりと瓦の中に沈んでいく。


「‘変形‘と‘固定‘完了だ」


 川本の異能力、それは無機物を透過するロープを作り出す事だ。直接戦闘向けではないが、こういう暗殺任務には重宝する能力だ。


「相変わらず器用なやつだな。殺し屋よりも「正規組織」の方が向いてるんじゃないか?」


「「道具屋」としても単独でやっていけるレベルの芸当だよな…」


「前々から聞きたいとは思っていたんだが…覚醒した能力者で2つ以上の気術を使えるやつは少ない。色々と他の「組織」からもスカウトがあったんじゃないか?「協会」でもよくお前の名前が出るぞ」


「……」


 川森、川田、川本、川西は全員が長年殺し屋の世界を生き抜いてきたベテランだ。特に意識をしているわけではないが、重要な依頼となるとこの4人がチームを組むことが多い。腐れ縁とも呼べる関係だ。


「正直な話、色々とコンタクトはあったが…全部断った。とてもじゃないが正規組織は向いてない。あれは完全に法の犬だ。正義を謳いながら人殺しをする本物の異常者にしか向いてねえよ」


「それに道具屋も一見独立的な組織に見えるが…実際はマフィアよりも質が悪い。バックにヤバいやつらが付いてる」


「うわぁ…知らない方が良いような情報じゃねえか?これ全部……」


「隣りの芝生は青いってやつか?どこの組織も腐ってるみたいだな…」


 真っ青な顔になる川田と川西。だが隊長の川森の表情は少しだけ苦笑いを浮かべただけだった。


「いや、協会の中でも度々噂にはなってる話だな。「幹部会」でも最近議題に上がってる話だが…川本の口から出たとなると多分本当の話なんだろうな……」


「流石は殺し屋協会の幹部様だ。重要な情報は全て押さえてるみたいだな?」


 そう。川森は緊急の人事異動で幹部に格上げとなったのだ。その事に川森自身が驚いているのが現状だ。


「よしてくれ。俺は幹部の中でも間違いなく末端だよ」


 川森の口から自虐的な言葉が吐き出される。川森は知っているだ。「異能力」も「気力」も極めた人外魔境の世界のその一端を。


(研修とやらで副会長の「仕事」に同行した事があるが、あれは人間の戦いじゃない。命がいくつあっても絶対に足りない狂気の世界だ)


「末端でも幹部は幹部だ。頼りにしてるよ。川森隊長」


「ああ。…肩書の責務くらいは果たす予定だ」

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