第92話
「なる程。つまり青年の目的はダンジョンの殲滅ではないということか」
「ああ…というか殲滅ってどう飛躍したらそんな考えになるんだよ」
3分間の短いやりとりで大助とミスターKはお互いの行動理由を既に把握しかけていた。互いに重要な情報は伏せた上で現状を平和的に切り抜けられるよう必要最低限の情報を事務的に話していく。その真偽について問うような事を二人はしない。結局のところ情報というものは言語というフィルターを通した時点で加工されたものになる。そこから何が真実で何が虚偽かを考えることこそが会話だという事を互いに深く理解していたからだ。
「青年…客観的に考えて見ろ。ただでさえ化け物みたいなヤバいやつが愉快な仲間たちを引き連れてダンジョンの最深部一歩手前まで転移してくる。どう考えても殲滅作戦としか思えんだろうが」
「まあ、そう考えるとそうとも言えるな」
「だろ?」
大助がミスターKの皮肉に満ちた答えを肯定する。
(不思議な感覚だ。この男の口からは参考にしても良いレベルの面白い答えが出てくる)
大助の言葉は意識しなければ機械的でどこか無機質なものになる。だがミスターKの言葉は機械的でありながらもどこかユーモアが漂う人間的な味付けがされたものだ。それはある意味大助が目指す話術の完成形とも言える。
「本題に入ろう。青年も理解はしているだろうが、俺はまあ…言うならば「運営側」の存在だ」
「……」
(これだ。俺が話を切り込むよりも早く踏み込まれる。どうしても一歩先を行かれてるという感覚がぬぐえない)
「青年も一度は考えたことがあるだろう。「この魔草達はいったいどこから湧いてくるのか」とな」
「まあな」
それは大助も当初考えていた疑問だ。だがその疑問を大助は早々に放棄していた。考えたところで世界の常識から逸脱した現象を理解する事などできはしない。それよりも今を楽しむ事を大助は優先していたのだ。
「詳しく説明しよう。そもそもあのアプリは……」
「待て待て!ちょっとストップだ!!」
「ん…?どうした青年」
ミスターKの言葉を慌てて遮る大助。
「ネタバレ禁止で頼む」
「え?」
大助のその言葉にミスターKの動きが止まる。そしてその口から妙に楽しそうな笑い声が発せられた。
「うははははは!悪い悪い!そうだな!…そこが一番重要だよな。分かった。その点は配慮して話そう」
そしてミスターKの口から断片的な情報が語られ始めた。
「労働の対価として賃金が出るように、おまえが魔草を育てたり商品を買ったりすると得をする者がいる。だからこそあのアプリは今も機能している」
「そうだな。それが道理だ」
「ああ。そして物資や金銭が動いている以上、その取引を監視監査する者は必要だ。それがつまり俺のような存在というわけだ」
(…ん?その考えだと辻褄が合わないことがある)
「待った」
「ん?」
ミスターKに対して大助が率直な疑問を投げつける。
「それだとあんたの行動理由が分からない。あのガイド嬢も言っていたが、運営とやらは基本プレイヤーにはノータッチだろ?」
「ああ。その認識で間違いないが…なんだ?そのガイド嬢というのは?」
「え…?ほら、チュートリアルとかを担当してたあの妙にハイテンションな少女だよ。あんたも運営側なら知ってるんだろ?」
「そもそもあのアプリにチュートリアルなんて存在しないはずだが……」
今度は大助がその発言に驚いていた。
(情報の共有が出来ていない?それともブラフか?…あの仮面のせいで表情が分からない。今判断するのは危険だ)
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