第90話
互いに1撃。ただ1撃を与えれば勝敗が決まるこの戦い。共に近接戦を選んだことには理由がある。それは実力が拮抗する相手に対しての遠距離攻撃は自殺行為になるからだ。達人同士の戦いでは1秒2秒の隙が命取りになる。そもそも万全の状態の相手に遠距離での攻撃が当たるというビジョンが両者共に見えなかったのだ。となれば魔力を全力で纏った状態での近接戦になる事は必然だ。
「___‘白雷脚‘」
そんな定石の裏を描くようにシュガーの大技が突然発動。2秒程の硬直の後、シュガーの姿が雷鳴と共に消える。
「…やられた」
(発動に隙があるタイプの技。つまり間違いなく理不尽をこちらに押し付けてくる類の魔法だ)
視覚情報だけでは対応できないと大助は判断。聴力と勘を頼りに攻撃が繰り出される前に回避行動を起こす。
「___‘刃雷刺突!!‘」
「…っ!!」
(早っ…!?)
背後に回り込んでいたシュガーの突き技を上半身を逸らし躱す大助。
「くたばれええええ!!」
大助の体が硬直した瞬間を狙い、シュガーが追撃の前足蹴りを繰り出す。
「…っとと!?」
その蹴りに大助も蹴りを重ねる事でガードする。
「ちっ!なんでこの技を人間が対応できるんだ…絶対おかしいだろ!?」
衝撃を緩和し大きく距離を取る事に成功した大助が体勢を立て直し強化魔法を発動する。
「___‘四点強化‘」
両手両足部分にのみ魔力を集中。そのまま人間の限界を超えた速度でシュガーまでの距離を詰める大助。
「馬鹿が!私は遠距離もいけるんだよ!!」
片腕だけを一時的に竜形態へと変化させたシュガーが居合切りのような所作でその凶悪な爪を振るう。
「___‘白雷凶刃!!‘」
シュガーが大助の減速地点を狙い極大の斬撃魔法を叩き込む。
(先を読まれた…?このままだとあの白い斬撃が直撃するな)
「殺った!!」
その魔法が直撃する寸前に、大助が無理やり進行方向を変化させる。
「はああぁああ!?なんでこれが回避できるんだ!?」
(予測3、直感7て感じか?一番面倒なタイプだな…)
「それならよぉ…?この動きに対応できるかなぁ!?」
大助が魔法の「ON」「OFF」を繰り返し予測不能な動きへと行動を変化させる。やや直感に頼ったシュガーの技能ではこの動きに対処ができず大助の急速な接近を許してしまう。
「ふいいいいはっあああああああ!!」
「ぐっ!!」
互いが武器を片手に持ったままのインファイトに突入する。拳と剛脚がぶつかり合った後に打ち合う武器でも決着は付かない。痺れを切らしたシュガーが無理やり突破口を開こうと尻尾を使い攻撃を仕掛ける。
「ぬうう…!?ならばとっておきだ!!」
「うおっ!?」
予想外の位置からの攻撃に驚く大助。ギリギリで尻尾攻撃を弾くことはできたが、そこで僅かな隙が生まれてしまう。
「これで終わりだ!!___‘白雷脚‘」
少しの溜めの後、シュガーの体が再び雷光のように掻き消えた。
「この俺に対して同じ技を使ってくるとはなぁ…?」
(回避は無理だな。間違いなく対策されて今度こそ1撃を喰らっちまう。ならばどうする?答えは簡単だ。殺られる前に殺ればいい)
大助が少しだけ重心の掛け方を変更する。
(俺が狙うべきは後の先だ。カウンターで仕留める)
回避ではなく、攻撃のための動きを大助はとっていた。
(目で追うな。それだと対応できない。攻撃を誘導しタイミングを絞り込め)
シュガーの高速移動が終わる。その瞬間を狙って大助は背中越しに十手を付き出していた。
「なっ…!?」
頭部を正確に狙った突き技をシュガーは慌てて剣を切り上げる事で回避する。
「おまえ!?後ろに目でも付いてるのか!?」
「そんなわけねえだろ。ただの予測だよ」
「ぐっ…!?」
牽制で振るわれたその甘い剣を大助が左側に弾き間合いへと踏み込む。ここで大助が勝負を決めにかかった。
「___‘裏打ち‘」
魔力を込めた十手を回転させながらシュガーの喉元を狙い大助が突きを繰り出す。
「いっ!?ならばこうだ!!」
その必殺の突きをシュガーもまた上半身を逸らす事で回避する。武器で防御すれば武器ごと持ってかれる事をシュガーはしっかりと学習していたのだ。
「うははは!その手には乗らん!!」
「いや、これで詰みだな」
「なにっ!?」
シュガーが感じた小さな違和感。それを確認するために視線が下を向く。そこには鋼鉄のような硬さで自身の靴に巻き付く草が見えた。それは大助が突き技と同時にこっそりと地面に仕込んでいたズク草のトラップだ。
「なんだこの魔草は!?ぐっ…こんな雑草で私を止められるとでも…!?」
そこで意識を大助から逸らした事がシュガーの命取りとなった。
「残念だがこれで終わりだ」
手前に傾いた軸足を大助が足で刈り取る。
「がっ!?」
シュガーの右側の腕橈骨筋と上腕筋の上に十手を差し込み関節を固定。そのままその体を地面から空中へと投げ飛ばす。驚くほど鮮やかに宙を舞う少女の腕を引き戻し、地面へと叩きつけた。
「ぐっはあああああああ!?」
その技は十手術の基本にして奥義。相手の体重を奪い制圧する古くからの捕縛術。
「___十手術、左入り身」
シュガーのライフが砕け散り、彼女のライフが0になる。そして結界内に大きなメッセージが表示された。
★勝者 金本大助★
唖然とした表情を浮かべるシュガーの前で、大助は天高く右腕を突き出した。
「俺の勝ちだ。文句はないだろ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます