第87話

「や…やるじゃないか人間……まさか扱いが難しいフェアリーデッキをここまで使いこなせるとはな…」


 シュガーは鮮やかな大助のカード展開に関心していた。小さな効果から連鎖して強力なカードを召喚する。それは言わばカードゲームの王道のようなプレイングだ。


「小さな積み重ねこそカードゲームの醍醐味よ。そしてバーストモード発動だ。ここで決めるさせてもらう」


 バーストモード宣言によりプレイヤーへの直接攻撃が再び解禁される。大助は迷う事無く勝負を決めにかかった。召喚した呪いの妖精王女を盾代わりにシュガーへの距離を詰める。


「甘いな人間!私には大量のカードが手元にある事を忘れていないかぁ?」


「…ん?」


 先行していた呪いの妖精王女の攻撃を躱したシュガーがあるカードを発動する。

 

「お前がバーストモードを発動するのを待っていたんだよ!!」


「手札から「悪魔のギフト券」を発動だ!手札を4枚捨てSPデッキから「クランプス」を特殊召喚するぞ!」


「何だって…?」


(2体目のSP魔物。あまり強そうには見えないが…何か面倒な効果を持っているタイプか?要注意だな)


「呪いの妖精王女。攻撃を中止して俺の後ろに回れ」


「それは無理だな~?お前の魔物は必ずこのクランプスを攻撃しなければならない!そういう効果だからな!!」


「強制ターゲット!?また面倒な能力を…」


「……いや、違う。本質はそこじゃない」


 大助の脳がガンガンと警鐘を鳴らす。つまり警戒しなければいけないのはあの魔物ではないという事だ。現状で最も警戒しなければいけない事象を大助の脳がピックアップしていく。


(なる程。こいつは正真正銘の囮だな。本命は……)


 大助の目が背後のライフカウンターへと移る。そう、答えは明白だったのだ。


(俺のライフカウンターは残り1つ。あと一撃入れれば勝ちだもんなぁ!?)


 背後にいつの間にか出現していたシュガーの両手斧。それを大助の両目がしっかりと捉えていた。


「そうはさせねえよっ!!」


 それを十手で弾き飛ばす大助。無理な力を加えた影響で十手はヒビ割れ使いものにならなくなる。壊れた十手を破棄しすぐさま大助は予備の十手をスマートフォンから引き抜く。


「ちっ!!防いだか!!」


(武器だけの遠隔攻撃。意外と器用なやつだな。そうすると本体は……)


「せいやあああああああああ!!」


「また上かよ!?」


 振り下ろされた中空からの斧を大助がジャストタイミングで受け止める。


「ふははは!この攻撃に対応できたのはお前が2人目だ。やはり強いな人間!!」


「そりゃどうも!」


(こいつの攻撃は1撃1撃が重いんだよ。正面からまともに攻撃を受けてたら十手の買い替え費用だけで破産しちまうぜ)


「仕方ない…こうなると俺からも何かサプライズをしないといけないなぁ!?」


 大助がシュガーの斧を素手で掴み固定、引き戻した十手をコンパクトに手元で回転させる。


「な…なんだこの馬鹿力は!?私でも引きはがせない!?そんな馬鹿な…!?」


 シュガーが武器を引こうとするがピクリとも動かない。さながら万力で固定された木材のようにだ。


(回転の力、重力、そこに魔力を纏わせるだけでいい)


 地面がひび割れる程の踏み込みと共に、大助が回転する十手を叩きつける。


「___‘魔操十手術 裏打ち‘」


「がっ…!?」


 蒼色に昂る十手がシュガーの持つ斧にめり込む。


「ぐっ!?これはダメだ…武器を犠牲にしないと私ごと殺られる!!」


 手にしていた武器が粉々に粉砕されるのと同時にシュガーの体は後方に大きく吹き飛ばされた。


「ゲホッ…馬鹿な…あの小さな武器の何処にこれ程の力が……」


 短刀類の武器には「裏打ち」と呼ばれる技術がある。回転の力とタイミングを合わせる事で部分的かつ一瞬ではあるが、真剣での全力抜刀に匹敵する威力を出す事が出来るのだ。


「おお?やっぱおまえ強いな。正直今ので始末する予定だったんだが…ライフカウンターも減ってないし、しっかりとガードされちまったか」


「…ふざけた人間だ。だが気づいているか?お前はもう詰んでいるという事を!!」


 シュガーが大助から距離を取る。


「……」


 大助の注意は今、シュガーよりも特殊な魔物へと向けられていた。大助の目に呪いの妖精王女がクランプスを破壊するシーンがスローモーションのように映り込む。


「これで準備完了だ。覚悟しろ!おまえにはもうチャンスなどない!!」


「破壊されたクランプスの効果発動だ。悪魔ってやつはプレゼントが好きでな。いつもろくでもない物を残すんだ。そう、とんでもなく極悪なやつをな!!」


「「クランプスの宝箱」を召喚だ!」


(なんかヤバそうなカードだな。こういうときは専門家に聞くか…)


 大助がシュガー対策の1つを使う。それはミルフィーとの極秘会話だ。実はこの戦いで何度も大助は外部のミルフィーからアドバイスを得ていた。デス4に他者との会話を禁止するようなルールはない。それは通常なら結界の外側と会話する事など不可能だからだ。だが大助のアプリは登録した魔物となら空間も時空も無視して会話をする事ができる。これが大助の用意した作戦の1つだ。


(‘あ~こちら大助。ミルフィー、クランプスって何だ?‘)


■金本大助 残り手札5枚 残りライフカウンターは1つ。


■シュガー・カフェリア 残り手札2枚 残りライフカウンターは4つ。

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