第83話

 殺ると決めたのならば少女たちの行動は速い。阿吽の呼吸で仮面の男を…ではなく、中ボスこと「ココア」へと全戦力を集中させ攻撃を仕掛ける。


「なっ…!?」


 ココアは焦る。彼女の武器は剣以外全て破壊されその能力も戦闘理論も敵に把握されている。魔力が回復したところで彼女自身には現状を打破できる手札は残ってはいないのだ。


「…いいね」


 不意打ちに気づいていた仮面の男こと「ミスターK」は一目でお助けモンスター達の行動理由を看破していた。


(やっぱりあの男は気づいていた。だけど、分かっていてもあなたは1歩引くしかない)

 

 「バッドステータス」という概念がある。内的、外的な要因に関わらず0の状態から100まで魔力を一気に回復した場合、個人差もあるがおよそ1分間、明らかに被術者の能力が低下するという現象だ。この事実を何度も死地を潜り抜けてきたお助けモンスター達はよくよく理解していた。そして迷わず攻撃対象をココアへと絞った理由。それは単純明快だ。つまりお助けモンスター達全員がココアを狙った場合、仮面の男はほぼ100%弱体化した少女を守るだろうと確信していたからだ。


「___‘プラント・ダブルパンチ‘」


 クラリアが植物を密集させ作り出した2つの巨大な拳を叩きつける。その拳の陰に潜んでいたラビとクロが挟み撃ちの形でココアを狙い追撃を仕掛けた。


「ふっ…!!」


「はああっ…!!」


 ラビはその脚力を生かした蹴りを。そしてクロは魔力を一点に集中させたパンチを叩きつける。


 ___だがその必殺の攻撃を、仮面の男は同時に受け止めていた。


「えっ…!?」


「マジかっ…!?」


「悪くはないな。だがまあ、50点というところか」


 ラビの足、そしてクロの拳は見えない何かによって阻害されていた。その事にいち早くラビが気が付く。

 

「これは……鋼線っ!?」


「似たようなものだ」


 ミスターKは魔力を流した「鋼線」を網状に展開しお助けモンスター達の攻撃を全て無力化していたのだ。


「んおお…切れないぞこれ!?ラビ!これ代わりに切ってくれないか!?」


 鋼線のトラップから脱出しようと四苦八苦しているクロを片目で確認しつつ現状の分析を進めるラビ。


(物凄い質量の魔力。しかもピンポイントで鋼線の部分部分に魔力を集中させてる。私の場合は単純に強度を。クロの方は強化部分を分散させて攻撃を受け流すような工夫がされてる…化け物ですかこの人は)


「…すみません。助かりました」


 ココアが率直に感謝をミスターKへと伝える。男がどれだけ規格外の「サービス」をしてくれているのかは火を見るよりも明らかなのだ。


「ココア。君にはいくつかやってもらいたい事がある。詳細は端末に送っておいたからよろしく頼むよ」


「いえ、私も戦います。「魔力酔い」も回復しましたし、あなたに借りは作りたくないですから」


「え?…いや…それだと俺が困るな……」


 ミスターKがお助けモンスター達を警戒しつつもどうしたものかと考えを巡らせる。ラビ、そしてクラリアはミスターKから一瞬たりとも視線を外していない。真っ赤に光るその危険な瞳は今この瞬間もミスターKの隙を狙っていた。


「うがああああ!!なんで壊れないんだ…!?こうなったら…全魔力を叩きつけて引きちぎる!!」


 もっとも、約1名の脳筋ドラゴンを除いての話ではあるが。


「君の気持ちだけ受け取っておこう。ちょっと手を出してくれないか?」


「え…?」


 何の予備動作もなくその草をココアへと手渡すミスターK。


「ちょ…ぎゃああああああああああ!?この草ってま、まま、まさか!?」


「___‘ドラゴンフルーツ‘」


 そのキーワードの詠唱と共にココアの姿は消失した。


「…転移草」


 見間違えるはずがない。その因縁の草の名をラビは呟く。下準備と即死の覚悟。それさえあれば瞬間的な移動を可能にする最恐の草。それが転移草だ。

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