第82話
スイーツ・ダンジョン 50階層 「カフェテリア」 そこでは1つの激闘が終わろうとしていた。
「ぐっ…強い……」
満身創痍状態の中ボスが地面に片膝を付く。竜族特有の捻じれた角に太い尻尾。燃えるような真っ赤な髪が特徴的な少女だ。綺麗に仕立てられたそのメイド服はボロボロの状態に。そして彼女の持つ武器は剣以外全て破壊され魔力も完全に枯渇している。それでも彼女は中ボスとしての意地の為に限界を超えて立ち上がろうとしていた。
「……まだ動けるんですか。凄い生命力ですね」
油断なく驕りなく、端的かつ速やかに赤髪の竜に止めを刺そうとラビが歩き始める。
「…ハア…ハア……」
赤髪の少女は地面に刺さった剣に寄りかかるので精一杯の状態だ。つまりはゲームオーバー。彼女にとってはここが終点地。そしてその終点地に、3体の死神達がゆっくりと近づいていく。
「…竜の相手は本気で大変。…だけどそれは1人で戦った場合の話」
「ああ。連携の力というやつはときに個人の力量を凌駕するからな」
(…無茶苦茶な戦い方をする二人のサポートで私はもうフラフラの状態なんですけどね……)
赤髪の少女の手前まで近づいたラビ。そして両者の瞳が交差する。
「あなたは強い。ですが、私達には譲れない目的があります。それを阻むと言うのなら…」
「始末するだけです」
ラビが躊躇わずに剣を振るう。
「ぐ……」
ラビの剣が強敵の首を跳ねようと迫る。
「悪いね。ここでその子に死なれるとちょっとだけ困る」
その剣が首元に届く事はなかった。
「っ…!?」
ラビの剣。それを突然目の前に現れた仮面の乱入者が木材一振りで弾き返す。見た目よりも遥かに重い一撃に堪らず剣を落としてしまうラビ。
「……何者ですか?」
痺れ続ける右腕には目もくれず、仮面を付けた怪しい男から視線を離さずにラビがそう問いかける。やけに演技じみたポーズの後に、仮面の男は簡素な自己紹介を始めた。
「ミスターKだ。よろしく。兎人族のお嬢ちゃん」
ランクSSS相当の怪物3体を前にして一切の動揺を感じさせない仮面の男。それどころか新しいオモチャを見つけた子供のように、手元の木材を楽し気にクルクルと男は回し始める。
「…鬼の…仮面…?」
(あの木材から特別な力は感じない…)
(何故木材を武器に…?心的動揺を誘う手口…?…断定不能。というか理解不能です。ですが…1つだけ分かる事はあります)
(この人は…絶対にヤバい……)
ラビの脳内ではガンガンと警鐘が鳴り響いていた。本能的に直感する。目の前の奇妙な男の、その危険性を。
「……」
「あれは…強いぞ。とんでもなくな……」
「…ぶっちぎりでヤバい」
その場から動けないラビ達を一切気にせず鬼仮面の男は赤髪の竜人へと近づいていく。
「ココアちゃん生きてるか~?む…?瀕死だがギリギリ生きているな。良かった良かった」
「……ミスター…K…?」
「ふむ…まあ緊急事態だしな。今回は特別大サービスということでこいつを無償提供してやろう。感謝するんだな」
「もがっ…!?」
仮面の男が懐から虹色の草を取り出し瀕死の赤い竜の口元へと無理やりねじ込む。するとその傷や毒が瞬時に回復を始めた。その光景には流石のラビも驚きを隠せない。
(…エリクシールに匹敵する回復効果。あの魔草はいったい……)
「ゲホッ…!マ…マズい…!!」
「そりゃ当然だろう?良い薬ほど味は苦いとも言うしな。回復効果自体は俺が保証するから安心しろ」
あまりの魔草のマズさに真っ青な顔でのたうち回る赤髪の竜。その姿を楽しそうに仮面の男は観察していた。
(あ…やっぱりあの魔草マズいんだ…虹色の魔草の味とか絶対にヤバそうですよね……)
「…っ!……何をしに来たんですか?また勧誘にでも来たんですか?帰ってください。あなたは信用できません」
「あらら…これは中々に手厳しいな?」
気安い感じで対話を続ける仮面の男と赤い竜人をジッと観察し続けるラビ。
(ダンジョンの関係者?口では拒絶しているような感じですが…緊張感は感じない。つまりそれだけ信用がある存在という事…もう少し情報が欲しい)
「俺は君を評価してるんだよ。君に死なれるとこのダンジョンにとっては大きな損失になる。無償で助けるだけの価値が君にはあると俺は判断した」
「…私にそこまでの価値はありませんよ」
「いやいや。実際問題、君みたいに「そこそこ」強くて「そこそこ」頭も良い竜種は貴重なんだよ。簡単に変えは効かない。君は非常に優秀な人的資産だ」
「喧嘩売ってるんですか…?」
(……チャンスですね)
「……」
「…ん」
「んお…?」
目の前の痴話喧嘩を尻目にお助けモンスター達3体が互いに目配せを始める。狙うは意識外からの攻撃。すなわち奇襲攻撃だ。
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