第81話

(さて、どうやって事を運ぶか…)


 大助が次の一手を考えていると、会話の内容はいつの間にかミルフィーに関するものへと変わっていた。


「ミルフィー。お前はなんでその人間側に付いたんだ?」


「もちろん金のためよ…と、言いたいんだけどね~」


「むぅ…?」


「ふっふっふ……正直そっちの方が面白いと思ったのよ!妖精の福音とでも言うのかしら。こいつは何かとんでもない事をやらかすと私の魂が直感してるというわけよ!」


「……あと、私の借金は全額この人間が肩代わりしてくれるから。今後の請求は全部「金本大助」宛にお願いするわよ!」


「……こいつの借金額は半端じゃないんだが…本当に大丈夫なのか人間?」


 ミルフィーの予想外の回答内容にシュガーの表情がコロコロと変わる。そして今がチャンスだと大助が本題に切り込む。

 

「心配するな。この戦いが終われば俺がミルフィーの債権を全額買い取ってやる。それよりもだ…」


「シュガー。俺はあんたに「デス4」での対戦を申し込むぜ!!」


「むっ…!?」


 シュガーの表情がピクピクと反応する。自らの主人が余計な事を言う前にメイド達が端的かつ的確な助言をシュガーに伝え始める。


「シュガー様。受けちゃダメですよ!絶対罠です!!」


「…何か対策をしてるのは確実」


「ぬぐぐぅ……」


 シュガーが本能と理性の間で苦悩する。彼女も理解はしているのだ。このタイミングでの「デス4」の提案。この人間にはほぼ間違いなく何か勝つ算段があるという事を。

 

「ぬうう…そ、そうだな…今の私はダンジョンマスターだ。個人の利益よりもダンジョン全体の利益を優先させないと……」

 

(そうはさせるかよ)


 火照ったテンションを0にはさせないと大助がここぞとばかりに煽りまくる。

 

「ほう…逃げるのか?」


「何っいいい…!?」


「別に逃げてもいいんだぜ?わざわざダンジョンの最深部にこちらから出向いたってのに、デス4での決着にすらブルッちまうようなチキンちゃんに用は無いからなぁ?」


「……チキン…だと…?」

 

 ブチッという音と共にシュガーの最後の理性が焼き切れる。ダンジョンのラスボスとして、いや、一人のゲーマーとして断じて「チキン」などと舐められるわけにはいかないのだ。それだけは彼女のプライドが許さない。

 

「くはははは!!いいだろう!!その挑戦受けてやる!!」


 シュガーが大助の挑戦を了承。これでデス4での対決の前提条件は満たされた。


(よし…これでいい)


 大助がちらりと自身のスマートフォンを見る。そこにはダンジョンのクリア条件が更新されていた。


<クリア条件その1→〇〇〇〇〇〇〇>


<クリア条件その2→シュガーをデス4で倒せ>


(やっぱりな。ダンジョンのクリア条件は1つじゃない)


 大助が今回実験していた事。それはどうすればダンジョンをクリアしたという事になるのかだ。アプリのガイド嬢の意味深な発言からボスを倒す=殺すという事だけではないと大助は判断していた。


(どんな方法でもいい。要は相手に負けを認めさせればいいわけだ。いいね。楽しくなってきた)


 ゲームでの決着。それもまた大助の「楽しさ」を刺激してくれる最高のスパイスだ。テンションが上がっているのはシュガーだけではない。大助もまた最高潮に気分が上がっているのだ。


(…ん?)


 大助がアプリに表示された別の情報に少しだけ驚く。それは置いてきたはずのお助けモンスター達と正体不明の敵がスイーツ・ダンジョン内50階層で交戦しているという情報だ。


(あいつらもこのダンジョンに来てるのか。てことはあいつらの持ってるスマホに俺を追跡する「機能」があるのはこれで確定したな)


(にしてもだ……なんだこいつは?)


 通常、お助けモンスターが戦闘を始めた場合、簡易的ではあるが相手の情報や映像が大助のスマートフォンに表示される。それは戦闘の進行具合によってより詳細な情報へと更新されていくのだが、今回は様子が違った。


(映像も音声もなし。相手の情報に関しては名前以外文字化けを起こしてる。分かるのはあいつらの残りHPだけか…)


(…まったく。今日は最高に愉快な日になりそうだな)


 未知を開拓する喜び。そして予定調和を破壊するかのように表れた「イレギュラー」な存在。大助が絶頂と幸福感に意識を飛ばしそうになりながら、シュガーに言葉を返す。


「最高だよあんた……さあ、素敵なパーティーを始めようぜ!!」

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