第80話
「…ねえ、アンタ本当にそのデッキで戦うの?」
「本気だとも。いや、このデッキじゃないとダメだ」
デス4のチュートリアルを一通り終わらせた大助とミルフィーが100階層を目指し歩き始める。
「そのデッキ構成だと最初にキーカード引けないともう終わりよ?」
「というか何故ここまで「デス4」の準備を入念にしてるのか理解に苦しむんだけど?」
「安心しろ。その疑問は直ぐに解ける」
(さて、上手く事が運ぶと良いんだが…)
大助がやたらと豪華な扉の前へと到着する。
「ここが100階層への入り口よ。まさか私が開ける側に回るとはね…」
「行くぞ」
躊躇いなく大助が扉を押し開く。
「おお…」
大助がその豪華な内装に驚く。入口付近はパーティー会場のような華やか。そして奥の方には青白い水晶によって保護された数々の武具や魔道具が等間隔に展示されていた。
(…ボス部屋と言うよりも博物館みたいだな)
「ふんっ…!待っていたぞ人間…!!」
その部屋の中央部。複数のスポットライトによってライトアップされた玉座に一人の少女が腰掛けていた。人間離れしたその白い容姿に頭部から生えた二つの深紅の角。体格に釣り合っていない巨大な両手斧を片手で持つその姿は絶大なプレッシャーを放っていた。
「ほぅ…」
(こいつがここのラスボスか…だがこいつは……)
___大助の濁った瞳が一目で白い少女の本質を見抜く。
「シュガー様!寝ぐせ!寝ぐせがヤバいですよ…!!」
「シュガー様。ガントレットを忘れてます…」
「あっ…!?」
両脇に控えていたメイド服の従者が白い少女の致命的なミスをこっそりと耳打ちする。最もその会話内容は大助とミルフィーにも伝わっていた。
「…に、人間……仕切り直ししても良いか?」
___こいつは、間違いなく阿呆だと。
慌てて装備と身だしなみを整えた白い少女が何事も無かったかのように玉座へと座り直す。そして壊れたラジオのようにまったく同じセリフが白い少女の口から放たれた。
「ふんっ…!待っていたぞ人間…!!」
「お前がラスボスだな?」
何事も無かったかのように大助も完全スルーを決め込みドラマチックなセリフを口にする。大助は実利よりも楽しさを求める人間だ。些末な問題など気にはしない。
「ねえ…何でさっきのタイミングで攻撃しなかったの?というか何なのこのテイク2みたいな雰囲気は?」
ただ一人、ミルフィーだけはこの意味不明な展開について行けず困惑していた。
「細かい事は気にするな。もっと「今」を楽しめよ」
「いやいやいや!まったく意味分からないんだけど~!?」
ミルフィーの困惑を無視し、大助と白い少女は言葉を交わし始める。
「自己紹介をしよう。俺の名は金本大助だ。あんたの名前を教えてくれ」
その芝居がかったやり取りに白い少女の目が輝き出す。少女もまた大助の事を理解し始めていた。
___この男は、間違いなく面白い奴だと。
「シュガーだ。シュガー・カフェリア。それが私の名だ」
大助の濁った瞳とシュガーの真っ白な瞳が真っ向からぶつかり合う。化け物と化け物のプレッシャーのぶつけ合い。そしてその場に居合わせていたメイドやミルフィーも直感的に理解した。両者の戦いはもう既に始まっているのだと。
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