第79話
スイーツ・ダンジョン最深部。100階層の豪華な広間。その奥に設置されている小さな事務所内で少女がスマートフォンを手に取りダラダラゴロゴロと転がっていた。
「あ~…言いたい事はいろいろとあるが…とりあえずこの話からにしよう。お前、ちゃんと仕事してる?」
「もちろんしてるぞ~」
真っ白な髪に白い瞳。全体的に白が目立つ少女だが、頭部に生えた二つの立派な角だけは深紅に光り輝いていた。最もそんな神秘的な雰囲気もそのなまけ癖が全てを台無しにしているのだが。
「メインモニターはチェックしているか?そのサブ端末で表示される情報には限りがあるって前に伝えておいたはずだよな?」
「大丈夫大丈夫。何かあっても最終兵器のミルフィーが待機してる」
「……」
その姿を見て黒スーツを着た男が頭を抱える。その表情は鬼の仮面により隠されていた。男はこのスイーツ・ダンジョンに所属している者ではない。言うならばビジネスパートナーとも言うべき存在だ。そんな男が自分から少女の事務所へと顔を出し遠回しに警戒をしろとアドバイスを送っている。もうその時点で異常事態なのだ。
「そうか…それで?「デス4」のランクマは順調か?」
「おお~!今バフを積みまくって相手を嵌めてる最中……」
「お前は阿呆か何かか!?侵入者が来てるのに呑気にゲームやってるラスボスがどこの世界に存在するんだ!!」
「ふぎゃあああ!?頭が割れちゃうよおおお!?」
少女の頭を男が鷲摑みにし巨大なメインモニターの前へとぶん投げる。
「シュガー、仮にもダンジョンマスターならメインモニターは定期的にチェックしておけ。緊急事態発生だ」
「痛たたた…いったい何だっていうんだ……てげげっ!?」
モニターの情報を見た少女の表情が青ざめていく。それも当然。モニターには4体の侵入者の恐るべき情報が表示されていたからだ。
「ふむ…俺の見立てだと全員SSレート以上…いや、SSS相当ってところか?特にこの竜のお嬢ちゃんは突出して強いな。こりゃ相当厄介な相手だと言っておこう」
「…うっぷ。気持ち悪くなってきた。……逃げてもいい?」
「ダメに決まってるだろ。ほら。まずは最も警戒しないといけない相手の情報を確認しておくんだ」
「警戒と言ったって…全員ヤバいだろこれ?」
白色の少女こと、シュガーの目の前には猛スピードでダンジョンを侵略する3体の魔物の姿と99階層の人間の姿が表示されていた。
「マスター!!今行きますよおおおお!!」
「…今日はご馳走パーティー」
「次は50階層。たぶん中ボスが待機してるはずだな。気を抜くなよ二人とも!」
「「おー!!」」
「何なんだこいつらは……」
シュガーの瞳が3体のモンスターから99階層の様子へと移る。
「ぎゃはははは!また私の勝ちよ!!」
「お前…特殊勝利の条件について黙ってやがったな?」
「きゃっはっ!その顔が見たかったのよ!!」
「…ていうのは冗談で……ね、ねえ?何で黙ってるのよ?ここ、怖いんだけど…?」
そこには味方であるはずのミルフィーと一人の青年が仲良くゲームで遊んでいる姿が表示されていた。
「こいつら…遊んでやがる…!ボス部屋の目の前で…!!」
「……ふむ。意外だな。先にミルフィーを懐柔したのか」
ボイルされたロブスターのように真っ赤な顔になるシュガー。それとは対照的に興味深そうな雰囲気で男はモニター越しの青年を観察していた。
「強制的に従っているわけではなさそうだ。…どんな材料を使ったのか非常に気になるが…まあ今はこっちが優先か」
「さて、シュガー。どうする?このままだとお前は5体の怪物を相手にする事になると思うが?」
「むぅ……」
シュガーが悩む。彼女は強い。だがそれは同格の相手が2体か3体までの話だ。流石に5体も同時に相手をするとなると、どうなるのかは本人にも分からない。
「…ミスターK。どどど、どうすればいいと思う?」
悩んだ末、彼女は自身よりも強いと確信している男に意見を求めた。
「このままだと本気でヤバいから力を貸して欲しい…というか貸してください!!私一人じゃ絶対無理だから!!」
「ふむ……」
男は悩む。助けるか助けないか。男の選択次第で文字通り運命が変わる。それでも手を貸すだけの価値がこの少女にあるのか。それを男は自問自答する。
「…いいだろう。条件付きでいいなら手を貸してやる」
「ヤバいよ~…このままだと私はたぶんバラ肉に……て…え?本当に!?」
きょとんとした顔でシュガーが鬼仮面の男を見つめる。
「一週間だけでいい。マジメに仕事をして溜まった案件を片付けろ。それが約束できるのなら手助けをしてやろう」
「おお!勿論約束するぞ。この名に誓ってな!!」
「…なあなあ。前から聞きたかったんだけど、なんでいつもお前は私を助けてくれるんだ?思い返すと迷惑ばかり掛けている気がするんだが」
シュガーの疑問にミスターKが楽しそうに答える。
「昔、お前にそっくりな性格の友人が居てな。お前を見てるとどうにも放っておけないんだよ。…いつかとんでもないトラブルを起こすような気がしてな。まあ結果的にそれは大正解だったわけだが」
「…??」
「さてと、それじゃあ少しだけ状況を変えるとするか」
疑問符を顔に浮かべるシュガーを尻目に早速ミスターKが行動を起こす。緩めたネクタイを締め直し仮面を深く被り直す。これは彼が仕事モードに入るときの癖のようなものだ。
「順風満帆で気分はノリノリ。有頂天になっているやつの前に絶対に勝ち目のない強敵が立ちはだかる。どうだこの脚本は?」
「いや、二人掛かりで倒せばいいだろ?私とお前なら楽勝じゃないか」
「ダメだな。お前は何も分かっていない。一方的でワンパターンな戦いなんぞ面白くもなんともない。互いの手札も切り札も全部使い切った後の泥仕合。それを俺は見たいんだ」
「お前、ときどき妙にシチュエーションに拘るときがあるよな~……」
ヤバいやつを見る目でシュガーは男を見ていた。
「舞台には相応しい時、相応しい場所、相応しい役者ってのが必要だ。実を言うと…この状況は流石に反則だと俺も思ってはいたからな」
「50階層付近の3体の侵入者は全部俺が受け持とう。お前は安心してあの男がここに来るのを待ってるといい」
「それでこそ、ダンジョンのラスボス戦として相応しい展開だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます