第77話

 物語は金本大助がダンジョン突入のメッセージを送信する前へと遡る。


 放置モードの菜園世界。そこでは今まさに命懸けの死闘が行われていたのだ。


「…ふう…ふぅぅ」


(落ち着け、落ち着けわたし!)


「みんな!準備はいいですか…!?」


 ラビが最終確認を兼ねてクラリアとクロに呼びかける。


「大丈夫!だから早く抜くんだ!!」


「…くわばらくわばら」


 クラリアとクロが十分過ぎる程の距離を取ってラビを応援する。彼女たちは今、転移草の収穫を行っている最中だ。


「……えいっ!」


 スポッ!という音と共に転移草を引き抜くラビ。


「やった…!やりましたよ!?」


「んおお…!!」


「…パチパチ」


 自慢げに転移草を見せつけるラビ。その姿を純粋に褒めたたえるクラリアとクロ。それも当然。他の草ならまだしも、ものが転移草となると全ての工程が命懸けの作業になる。その事を彼女たちはしっかりと理解しているのだ。


「…あっ」


 油断したラビの手からポロッと転移草が地面に落ちる。


「んぎええええええ!?」


「…ラビはもう助からない。逃げるべき」


 猛スピードでラビから離れるクラリアとクロ。その姿を泣きそうな顔でラビは見ていた。


「酷いですよ!?……こうなったら全員道連れにしてやる!!」


「ぎゃああああ!?ここ、こっちに来るなあああああ!?」


「…ヤバいヤバい」

 

 ブチ切れたラビが転移草を拾い二人を追いかけ回す。これもまた菜園の日常だ。時折口論になりつつもしっかりと魔草の手入れを行い、その日の彼女達の業務は終了した。


「…は~。疲れた……」


 クタクタになったラビが布団に潜り込む。


(やっぱり転移草の栽培は難しいですね)


 お助けモンスター達全員が大助から優先的に転移草を育てて欲しいというオーダーを受けている。その為に日々命懸けで彼女達は特級魔草を育てているのだ。


(育てた転移草を抜こうとしたら消えてたなんて事もあったし…)


「あの魔草、怖過ぎですよね……」


 ゴロゴロと布団の上を転がるラビ。


(収穫のときに結界を部分的に展開するのが一番なんだけど、あれをやると凄く疲れるんですよね~)


「困ったな~。もっと気軽に収穫する方法とかないかな~…」


 ラビのローリングは止まらず加速する一方だ。


「こんなときは…アレをやるしかないかないですよね?」


 ガバッ!とラビが体を起こす。寝巻のまま少女は部屋を飛び出した。


「あれ…?」


「んお…?」

 

「…ん?」


 食堂前のドアに3体のお助けモンスターがばったりと鉢合わせする。全員が全員寝巻の状態という奇妙な状況だ。


「なる程。みんな考えている事は同じという事ですか…」


「まあ、そういう事みたいだな?」


「…ん」


 ラビの発言に全員が同意する。夜中にこっそりと食堂を訪れる理由。そんなものは1つしかないという事だ。


「___夜食ですよね?」

 

「___うっ…」


「___…大正解」


 全員が揃って食堂に設置してあるアイテムボックスへと移動を始める。


「せっかくですし…やっちゃいますか?ナイトパーティー的なやつを!?」


「おお!いいじゃないか!やろうやろう!」


「…お腹空いた」


 3人が仲良くテーブルの上に好みのおやつを置いていく。最初こそ敵対していた彼女達だったが、今では無二の親友とも呼べる信頼関係を構築していた。日々命懸けの仕事をして同じ釜の飯を食べる。あまりにも濃厚で刺激的な毎日。それが彼女達に確かな結束感を与えていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る