第57話
時刻は午後20:15分。温泉で疲れを癒し豪華な食事を楽しんだ大助とクロが夜のサンビーチをのんびりと歩く。
「おお~なんか水面がピカピカしてるな」
「そうだな~…」
昼間この場所は南国のような雰囲気だが、夜になるとライトアップされ雰囲気が一変する。その海面は今や幻想的に光輝いていた。
(そろそろか)
大助の今の意識はクロに1、他に9という感じだ。周囲の雑音に耳を傾けつつ、約束されたその瞬間を待ち続ける。
(俺なら間違いなくこのタイミングで仕掛ける。あんたもきっとそうなんだろ?)
思わぬ幸福の到来に胸を弾ませる大助。
(何で来る?銃か?それとも鈍器か?できれば素手だと嬉しいんだが)
「おおお!」
「…ん?」
ドン!という音と共に夜空に赤い花が咲き始めた。そうだ。花火だ。今夜のメインイベント。真夏の花火大会がついに開始したのだ。
「ピカピカしてて綺麗だな~♪」
「…ああ。一瞬の輝きに全てを注ぎ込んだ結晶。儚くも美しい終わりの美学。実に美しい散り様だ」
「___なあ、あんたはどう思うよ?」
「……」
大助は振り返らず、いつの間にか背後を取っていた女の返答を待つ。
「なんだぁ?大助の知り合いか?」
能天気なクロだけがその場の空気についていけない。あの花火が打ちあがった瞬間にはもう、大助と女の戦いは始まっていたのだ。
「___‘結界形成‘<制約>対象を金本大助1人に限定。それ以外はどうでもいい」
女の体から赤い魔力のようなエネルギーが放出される。そして一瞬の内に市街地に金本大助だけを対象にした結界が展開された。
「結界魔法!?マスター下がってくれ!!」
クロが大助を庇うように一歩前に出ようとする。
「あ~その位置じゃダメだな」
「…え?」
「それだと盾にならないだろ?」
普段の声とはまったく違う無機質で乾いた声。そのまま事務的にクロの襟もとを掴む大助。そして自身の頭部を庇うように持ち上げた。
___クロの首が微かな風音と共に切断される。
「あ」
コロコロと人形のように首だけが大助の足元まで転がってくる。その姿をジッと無言で観察する大助。
(一撃でクロの首を落とせるレベルの「能力」それとあの動作と音。能力の系統は風ってところか)
「おお怖い怖い。優秀な「盾」があって助かったよ」
(さあ見せてくれ。この行動にあんたはどう反応する?)
他者を物として扱う大助の態度。仲間の死に何の反応も見せないその極悪非道な姿に思わず女の口から言葉が漏れる。
「…お前…頭おかしいんじゃないか?」
「そりゃあんたにだけは言われたくねえな。こんな危険な「能力」を躊躇いなく人間にぶっ放せる狂った倫理観。100点満点をプレゼントしたいくらいだ」
「ふざけるな。これはあくまで仕事だ。お前のような狂人と一緒にされたくはない」
「…いや、それはそれで十分ヤバいと思うんだが」
(ある程度の犠牲は許容するビジネスタイプの殺し屋か。…ん?冷静さを装ってるが怒りの感情が顔から読み取れる。俺の言葉にもわざわざ返答してることから考えると律儀で義理堅い感じがするな。言葉での揺さぶりは有効っと)
大助の脳内プロファイリングが進んでいく。
「「制約」の内容は聞こえただろ?市街地全域に結界を貼った。逃げられるなんて思うなよ」
「逃げる?とんでもない。……大歓迎だよ」
両者共に動かないのではなく動けない。初撃を外した女からすればこれ以上手の内をみせたくはないのだ。そしてクロを肉の盾として使った大助からすればもう少しこの女の情報が欲しい。互いに相手の一手を待つ状態。そしてチャンスの機会は大助の元にやってきた。
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