第54話
途中何カ所か寄り道をしつつ、ついに目的地に到着した大助。
「よっしゃ!ついに来たぜ熱海によおお!!」
「うおおお!!」
阿呆が二人。金本大助とクロが熱海駅前でハイテンションで騒ぎまくる。
「お母さん。あの娘尻尾生えてるよ?」
「こら!思った事をそのまま口にしちゃダメでしょ」
「コスプレかな~?最近のやつって凄いよね~」
「だよね~」
そしてこの二人は自然と周囲の人の視線を集めていた。それは彼らの服装や容姿なども関係しているだろう。クロの服は普段と変わらない和服だ。黒を基調としつつも竜の刺繡が全体に刻まれている。夏限定の特別軽量仕様だ。そこまでなら特段気にする程でもないのだが、問題はその後なのだ。その背中からは黒い尻尾がブンブンと振るわれている。彼女が上機嫌な証だ。
(…ん?なんか注目されてんのか?)
大助が和服から器用に右手を出し顎に添える。中々に様になった格好だ。そう。今回はクロだけではなく大助も服装に和服をチョイスしたのだ。シンプルな藍色の和服。異様に鍛えられた肉体も相まって戦国時代の武士のような印象を人々に与えていた。
(俺を見てる人もいるにはいるが……)
そこまで考え、何気なくクロの背中付近を見る大助。
(げっ!?)
クロの尻尾に気づいた大助が事の深刻さに気付く。かと言ってこの場でそれを指摘するのは非常にマズい。どうしたものかと考える大助。
(とりあえず場所を変える必要があるな)
「…あ~それにしても和服ってのは良いよな。通気性が良いし意外と動きやすいからな~」
当たり障りのない言葉を口から出しつつ自然にクロの元まで近寄る大助。
「その通りだ!ついにマスターも和服の素晴らしさに気づいてしまったようだな!」
ガハハハと呑気に和服の素晴らしさを語り出すクロを呆れた目で見る大助。
(こいつ尻尾の事全然気づいてねえじゃねえか)
「この服は私が持つアイテムの中でも特別なやつでな~なんと魔力に対して50%も耐性を持ってるんだ!デメリット無しでこの効果の服は滅多に無いんだぞ~」
(…は、早くこの阿呆を黙らせないとダメだ)
周囲に聞こえないよう、限界まで声を押さえてクロに要件だけを伝える大助。
「クロ。おまえ尻尾が出てんぞ」
「え?…あっ!?」
慌てて尻尾を消そうとする手をガシッ!と掴む大助。
「落ち着け。このギャラリーの前でそれはアウトだ」
「どどど、どうすればいいんだ」
アワアワと動揺するクロに指示を飛ばす大助。
「俺に合わせろ。とにかく何でもいいから適当な理由を口に出してこの場から脱出するんだ」
「…分かった」
クロと大助の打ち合わせが終わる。阿呆同士二人の息はピッタリだ。
「さ、さあさあ我が番よ~次の場所に行こうではないか!」
どこぞの大根役者のようなぎこちない動きでクロが大助の前を先導して歩き始める。
(演技の才能は0だな。だが要点だけはしっかりと押さえてる。90点てところか)
とにかく場所を変えたいという大助の意見を見事に汲んだクロ。100点満点中90点と言ってもいい行動だ。
「ああ待ってくれい!およよ~と!」
その後を慌てて追いかける大助。そして人目から離れ、クロと大助が路地裏で再会する。
「クロ。もう尻尾消しても大丈夫だ」
「本当か。よし。ポンッ!とな」
クロが両手で尻尾に触れると、ポン!という音と共に尻尾が消えた。
「…マスター?その…怒ってる…よな?」
クロがちらちらと上目遣いに大助を見る。その姿を見て大助がにっこりと優しい表情を浮かべる。勿論内なる優しさなどない100%演技の顔ではあるが。
(笑顔ってのは便利だな。こういう状況で役に立つ)
「いいや?結構面白かったし何の問題もない。そんじゃ腹も減ったし飯でも食べに行くか?」
「もちろん行くぞ!」
ケロッと態度を変えるクロに呆れつつも感心する大助。
(良くも悪くもこの切り替えの早さはこいつの長所だ)
失敗を気にしないこと。自身の欲望を優先させる事。それは大助が目指す理想の姿そのものだ。
(…やっぱりこいつは面白い)
クロの成長を楽しみにしつつ、大助とクロは昼飯を求めて歩き出した。
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