第53話
20分後。飛行中のクロの背中越しに見覚えのある景色が見えてくる。広い海、そしてその場所をぐるっと囲む数多くの観光ホテルが立っている。今回の目的地、熱海市に到着したのだ。
「クロ。ストップストップ。着いたぞ熱海に」
「んおお?」
クロの背中を軽くバシバシと叩き飛行を停止させる。
「ここで降りればいいのか?」
「ちょっと待ってくれ。…そうだな」
(転移草をどこかに設置しておきたいな。かと言って数もそんなに多くはない。分かり易くて目立つ場所と言えば)
「熱海城に向ってくれ」
「んん?どこだか分からないぞ?」
(しまった。そういえばお助けモンスターは現代の知識をある程度持ってるが、こういう細かい情報に関しては知らないんだったな)
「…ああっと、あの大きくて白い立派な城が見えるだろ?あれが有名な熱海城ってやつだ。そこの天守閣に向ってくれ」
「分かった!」
1分もしない内に熱海城に到着。
「うっし!そんじゃ行きますか!」
クロの背中から屋上の天守閣に飛び降りる大助。華麗な四点着地を決めた後、シャチホコの下に転移草を仕込んでいく。
「マスター何やってるんだ~」
人間形態に変化したクロが興味深そうに作業中の大助を覗き込む。
「ん~まああれだな。保険とでも言えばいいのか…」
「?」
全てを説明する気は大助にはない。適当で曖昧な言葉をチョイスしつつクロの疑問を捌いていく。
「…よし。こんなもんかな」
んん~と背中を伸ばす大助。強力な接着剤で固定した転移草はそう易々と剥がれる事はないだろう。これで大助は長距離のワープが可能になったという事だ。
「おお~!良い景色だな~」
「ん?」
クロの方を見て見ると、彼女は天守閣から一望できるその絶景に魅了されていた。
「…ああ。確かに絶景だな」
(春に見れる桜景色や冬の雪化粧ってのも悪くないんだが、真夏に見えるこの緑の景色もいいもんだな)
微かに遠くから聞こえる渚の音。熱海市街、そして房総半島を一望できる場所としてここは一番の名所だ。初めてこの場所に訪れた者はその圧倒的な展望に心を奪われることだろう。
「なあなあ!あの右側に見える大きな島は何て言う名前なんだ?」
「伊豆半島だ。あそこは釣りの名所だからな~美味い魚がたくさん釣れるぞ」
「本当か!?」
「ああ。そう遠くはないし帰りに寄ってみるか?」
「絶対行く!よし!たくさん乱獲するぞ~」
「それはダメだ」
「え~」
あ~でもないこ~でもないと他愛のない会話が続く。以前の大助ならばそうそうに打ち切るような無駄な会話。だが今の彼は不思議とこんな時間も悪くはないと感じ始めていた。この絶景がそうさせたのか。それとも大助自身の何かが変わったのか。それは誰にも分からない。
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