第52話

「うはははは!いいねいいね!最高だよ!!」


 前傾姿勢でクロの背中に掴まりつつ大助が歓喜の声を上げる。ここは上空300メートル。凄まじい風圧や雑音すらも彼にとっては最高のBGMだ。


「んはははは!マスターこっちの方角でいいのか!?」


「ん~?」


 巨大な背中越しに方向を確認する大助。


「おう!そのまま真っすぐに飛んでくれ!道に関しては適宜指示するから余計な事は何も考えなくていい!お前はただ真っすぐに飛べばいいからな!」


「分かった!」


 クロの飛行速度が上がる。それに合わせて大助も身に纏う魔力の出力を上げた。


(魔力ってのは凄えよな。全身に展開するとあっと言う間に防護服の代わりになる)


 大助が軽装で上空300メートルに耐えている理由がそれだ。大助は既に基本的な魔法全般をこの4か月でマスターしていた。今彼が使用している魔法は最も有名な無属性魔法「強化」だ。強化の魔法は術者の技量やセンスが100%反映される。魔力のコントロールを極めた者が使用すれば凄まじい効力を発揮するのだ。


「マスター?本当に私達の姿は誰にも見えてないのか~?」


「ああ。ただし5分間だけだけどな。…そろそろ時間だな。ほら口を開けろ」


「んおお。ちょっとだけ恥ずかしいんだが。…んああ~」


 大きく開かれた口に特殊な草を投入する。ムシャムシャと咀嚼を始めたのを確認してから大助も同じ草を口に含む。


(透明草。効果時間と定期的な補給は面倒だがかなり使えるな)


 大助が食べている透明草。これは彼がフリーマーケット経由で入手した物だ。在庫処分キャンペーンとして出品されていたその草の値段は10個セットで1万コイン。透明になるという効果を考えると破格とも言える値段だ。


「…うぬぬぬ。マスターやっぱりこの草不味いぞ」


「うっ…まあ確かにクソ不味いよなこれ」


 大助が吐き気を堪えながらも無理やり胃袋に流し込む。この強烈なレベルのマズさがこの草の最大のデメリットなのだ。


(失敗したかな。片道20分と考えると4つ消費して4000コインか。公共交通機関の値段とそんなに変わらないような気もするな)


「マスター、こんなクソ不味い草を食べるくらいなら新幹線とか乗った方が良かったんじゃないか?」


(ぬっ!?珍しく正論を言いやがる)


 どう返答したものかと大助は考えた。そして出した結論がこれだ。


「何言ってんだ。俺はお前の超カッコいい背中に乗りたかったんだよ。おかげで最高の気分だぜ!クロには感謝してるよ」


(とりあえず褒めてごまかしとくか)


「カッコいい…そうかそうか!それなら仕方がないな!!」


 長い尻尾がブンブンと横に振られる。


(ほんとこいつ分かり易いよな)


 良いコミュニケーションのサンプルになる。大助はクロの愚直な素直さに期待していた。

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