第50話

「うへへへへ!良い匂いがしてきたなぁ!?」


「んおおお!美味そうだな~」


 翌日、巨大なフライパンを片手に庭で料理をする大助の姿があった。その姿を興味深そうに覗き込むクロ。その口元からはダラダラと涎がこぼれていた。


(まさかこんな巨大な卵を焼く日が来るとは思わなかったな)


 事の始まりは30分前、クロが突然巨大な卵をお土産だと大助に押し付けてきたのだ。時刻は12時を少し回った頃、こりゃ面白そうだと判断した大助がこの巨大な調理器具をフリーマーケットで購入。テストも兼ねて庭で卵を焼いているという状況だ。


「それで?この卵いったい何なんだ?」


「えっ?…いや…まあ…レアな卵だな。…そう!とってもレアな卵なんだぞ!!」


(なんか隠してる感じの顔だな。同族の竜でも倒して強奪してきたのか?)


 規格外のサイズの目玉焼きを作りながらそんな事を考える大助。


(まあどんな事情があろうとも、俺がこのBIGな卵を食べる事に変わりはないんだが)


 それから3分程で卵の黄身はこんがりと焼き上がる。巨大な目玉焼きの完成だ。


「よし!できたぞ。そんじゃこいつを2つに分けてと…」


 大助がヘラを使い器用に目玉焼きを2つに分割する。


「右側は俺が食べる。クロは左側な」


「了解だ!」


「よろしい。さて、ご飯と醤油の準備も完了と…」


 皿に目玉焼きを乗せ合掌する大助。これで全ての準備が完了した。


「いただきます」


 もぐもぐと咀嚼を始める大助。


(…お?確かになんか新鮮な感じがするな。ジューシーというか何というか)


「どうだマスター?美味しいか?」


「ん?そうだな~…かなり美味しいと俺は思うぞ。少なくとも市販の卵よりもイケるな」


「お~!!そうかそうか!それは嬉しいな。私も生んだ甲斐があった」


「………はぁ?」


 クロの不穏な言葉を聞いた大助の手がピタリと止まる。


「その…なんだ?マスターが美味しい美味しいと私の卵を食べていると思うと、こうお腹がキュッとしてくるな」


 んきゃーとでも言いそうな表情で首を振り出すクロ。その顔を唖然とした顔で見返す大助。彼にしては非常に珍しい素の表情だ。


「…え?……はぁ??」


(新手の嫌がらせか?いや、これはそんな感じの表情じゃない。これは自分の行動を善意だと心から信じているやつ特有の顔だ)


 大助には理解不能な行動だ。そして何故顔を赤らめているのかも理解不能。未確認生物を見るかのような目でクロをジッと観察する大助。


「…ドラゴンって普通に卵産むんだな。ビックリしたよ」


「んお…?竜種は魔力が過剰に体内で累積すると卵という形で対外に排出されるんだ。余らせておくのも勿体ないしジャンジャン食べてくれ!栄養満点だぞ!!」


「…あ、ああ…そうだな?」


(こいつぱっと見は頭良さそうに見えるけど中身は阿呆だな…特殊な変態プレイに巻き込まれたのかと勘違いしちまったよ)


「まあ、確かにそれなら食べないと損だな。有難く食べさせてもらおう」


「おお!マスターもそう思うか!」


(よくよく考えれば人間も日々何かの肉を食べてるわけだしな。その辺を気にし過ぎたらキリがない)


「さあさあたくさん食べてくれ。まだ卵は倉庫に有り余ってるからな~有難く受け取るといいぞ!!」


「まあ…貰えるなら貰っておくが」


 げんなりとしながらも追加の卵を4つ受け取る大助。その全てを即座に倉庫へと収納した。


(しばらくは卵料理パラダイスかな)


 異種交流会とはとかく難しい。それを再認識した大助だった。

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