第49話

「…反応なし。やっぱこいつにも見えてないか~まあ見える方がおかしいんだけど」


(ふむ)


「やっと封印から解放されたと思ったら何か家とか建ってるし。こいつが住んでるのかな?」


「ボンクラそうに見えるけど以外と金持ってるのかな?…なんかムカつくしブッ殺しちゃおうかな。ふん!……てあれ?なんか力が弱ってる?」


 えいえい!と、ひたすらに腕を前に突き出している少女を観察する大助。その視線はジッと頭部に固定されている。


(面白くなってきたな)


「そういえば最近は人間共もお供え物とかしなくなってたからな~まったくあいつらは定期的に恐怖を教えてやらないと直ぐに調子に乗る」


「これだと「能力」はほとんど使えないや……いや待て、「言霊」なら使えるんじゃない?」


「よし。しばらくはこいつを操って力を回復させよう!」


(何かするつもりだな。どうする?殺るか?)


 大助が悩む。せっかく面白そうなイベントが起きたのにこのまま刈り取っていいのかと。


(ダメだ。こんなチャンスは滅多にないぞ。我慢だ。我慢しろ金本大助)


 少女が大助の耳元まで近づき、そっと言葉を吹き込む。


「聞け。‘お前は毎日私の祠に油揚げを供えたくなる‘」


(あぁ?何言ってんだこいつ?)


 ビリビリと小さな静電気のようなものを感じたがそれだけだ。大助の強靭な精神力が無意識の内に言霊をレジストする。そうだ。例え相手が何者であってもこの男の精神を操る事などできはしない。


「久々だし一応確認しとこ。聞け。‘お前は油揚げ最高と叫びたくなる‘」


(…たく仕方がねえな)


「うおおおおあああああああ!!油揚げ最高!!油揚げ最高!!油揚げ最高!!ふおおおおおおおおおお!!」


「っ!?な、なんだ!?俺はいったい何を言って!?」


 大助が渾身の演技を披露する。その姿を見て少女は満足そうにケタケタと笑い声を上げていた。


(大サービスだ。せいぜい油断してくれ)


 少女は気づかない。その濁り切った瞳だけはジッと観察を続けている事を。


「きゃひゃひゃひゃひゃ!いつ見ても笑える!愉快愉快!しっかりと言霊は効いてるみたいだし、この場所から動けない私の代わりにせっせと働いてもらおうかな~」


(ほらな。こうすると聞いてもない重要な事をペラペラと話す)


(言語を介する動物は自身が有利だと思うと途端に口が軽くなる傾向があるからな。この手の情緒に関してはファンタジー的な存在でも変わらないか)


(「能力」「言霊」「この場所から動けない」ね)


(油揚げ1つでこんな体験が出来るならいくらでも喜んで貢いでやるよ)


 少女の姿がどこぞへと消えた。2分ほどジッとしていた大助がスッと立ち上がる。


「ヤベえな。なんかクセになりそう」


(漫画とか映画の悪役はこんな気持ちだったんだろうか)


 自身が実験用のモルモットである事に気付いていない。そんな哀れな存在がわけのわからない勘違いしているのだ。これが面白くないわけがない。


「まあ、サイドクエスト開始ってところか」


 獲物は丸々と太らせ、油断した所を一撃で仕留める。面白少女の勘違いが何処まで続くのか楽しみでもあった。これもまた大助からしてみれば暇つぶしの1つ。けれども命を懸けるだけの価値がある大切な暇つぶしだ。


「とりあえず油揚げ買いに行かないと」


 大助が買い物に出かける。その足は非常に軽快だ。


「~~~♪」


 そうやって今日も、金本大助の暇つぶしは続いていく。

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