第48話

「というか、やっぱり住み着いてやがったかゴ〇ブリ共が」


 人間の生活と切っても切れないのがゴ〇ブリという衛生害虫だ。その生命力は凄まじく排水溝や通気口からどこからともなく自宅へと侵入してくる。その特徴的な外見から恐怖を感じる人間も少なくはないだろう。


「…心配無用。やつらの卵も含めて全部捕食した」


「マジで!?普通に助かるわ。ありがとな」


「…んふふふ」


 大助がクラリアの頭を撫でまくる。これが今回彼女から提示された報酬だ。


(こんなんで労働してくれるなら安いもんだ)


「中古物件は害虫対策が必須ってところか。何か良いアイデアがあればいいんだが……」


「…それならこの子達を庭に植えたらいいと思う」


「うお!?」


 ポンポン!と、クラリアの両手から巨大な食虫植物が召喚される。


「…ハエちゃんとウツボちゃん。…この子達は食欲旺盛でとっても良い子。…害虫どころか人間だってペロリと一飲みで消化してくれる」


「ぐぎぎゃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 早く何か食べさせろと言いたげに根っこの部分をブンブンと振り出す2体の食虫植物達。当然こんな見るからに危険な植物を日本の民家に植えられるわけがない。


「却下却下。気持ちだけ有難く受け取っておくよ」


「…ん。それじゃこの子達なら」


(おいおいおい!?俺の庭で戦争でも始める気かこいつは!?)


 身の危険を感じるレベルの「何か」を解放しようとしたクラリアを慌てて制止する大助。


「はいはいストップ!良い子だからその子達を仕舞いなさい」


「…分かった」


(こんな凶悪植物を家の庭なんかに植えたら大変な事になるだろうが。…まあそれはそれで面白そうではあるけど)


「中々魅力的で興味深い植物達だがちょっと俺の庭には合わないかな。それじゃはいこれお土産。また何かあれば呼ぶかもしれないからよろしくな」


「…やった」


 苺のホールケーキ1箱をクラリアに押し付けて元の世界に強制送還する大助。なあなあであのレベルの植物を庭に置くわけにはいかないのだ。


(だけどまあ、あのトンチキ植物はダメだが庭を自動的に掃除してくれる何かは欲しいよな)


 こういうときこそお助けモンスターを扱き使いたい所だが、彼女達には草の栽培という大事な仕事がある。そうなると、必然的に家の掃除などの細かい雑用は大助自身がやる必要がある。


(全自動掃除機とか売ってねえかな?屋外でも動くやつが開発されたら100万でも欲しいぜ)


 文句を言いながらも効率的にテキパキと掃除を始める大助。


「ふいいい。まあこんなところかな」


 落ち葉をゴミ袋にまとめ、縛って外に転がしておく。


(燃えるゴミの日にまとめて出すか。そういえばこの地区って何曜日に回収だったっけ?)


 大助が縁側に座りボーと家関連の書類を眺めていると、その声は突然聞こえた。


「しけたツラをした人間」


(…?)


 大助が顔を動かさずに目線だけを移動させると、そこには奇妙な恰好をした少女が大助を覗き込んでいた。その目元には深いクマが刻まれており、どことなくダウナーな印象を感じさせる。狐耳の装飾が付いた白パーカーの少女が興味深そうに大助の周りをウロウロと移動し始めた。

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