第36話

 大助が全員を軽く見回す。それから直ぐに声は上がった。やっていいとなれば当然行動を起こす。それが金本大助のお助けモンスター達だ。


「もちろん全部私の物だ!」


「…全部食べる」


「ダメです!全て私が食べます!!」


 壮絶なケーキの奪い合いが大助の目の前で始まる。その姿を特等席でゆっくりと雑草茶を飲みながら眺める大助。鬼畜の所業である。


「食べながらでいいから聞いてくれ。お前ら「力の豆腐」とか「守りの豆腐」とかいうアイテムを知ってるか?」


 大助が豆腐を次々と取り出しテーブルに置く。その瞬間ピタリと少女達の争いが止まった。


「マスター!これ本物の「魔豆腐」じゃないですか!?超レアアイテムですよこれ!!」


「…しかも全種類揃ってる」


「んおお。私も全種類セットは初めて見たぞ。…いったいどれだけ課金したんだ?マスター」


「むっ!?まあちょっとだよ。ほんのちょっとだけな」


(ほぼ全財産溶かしたとかカッコ悪くて言えねえ……)


「このステータスとか力とかいう概念が理解できないんだよ。つまりこれを食べると筋力が上がるという事なのか?」


「いえ、パワーが1上がるだけですよ」


「…パワー+1」


「パワーが1だけ上がるな」


「……なるほど。よく分かった」


(何言ってんのか全然分からねえ……)


 ここで大助とお助けモンスター達の持つ知識に致命的なズレがある事が露呈する。ステータスや力、速度などのパラメーターを認識できて当然という「常識」がお助けモンスター達には存在していた。当然ながら大助には何がなんだか分からない。


(筋力が上がるならともかく。この現実世界で意味不明かつ外的な力が半永久的に加算されるって事だろ?…面白そうではあるけど日常生活に支障が出そうだよな)


 大助は少しだけ悩む。


(かと言って余らせておいても意味ないし。…よし。こいつらでテストするか)


「その豆腐も好きなだけ食べていいぞ。…もちろん早いもの勝ちだ」


「っ!!」


「…!」


「ふんぬ!!」


 争いが更に激化する。その姿をただのんびりと眺める大助。


(お?豆腐を食べたクロの体が赤く光ったな。なるほど。あんな感じになるのか)


 手元に表示されたモンスター達のステータス表示にも変化が表れていた。基本的な数字の横に(+1)と表示されている。


(やはり基本的な数値とは別枠扱いか。となると上限は99か?そこら辺も要調査だな)


 ___戦いが終わり、グッタリとイスに座り直す少女達。


 ___少女たちは気づかない。


 ___自分たちの主人が、実験動物を観察する目をしていた事を。

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