第27話

「…んおお。ここが新しい職場か」


 クロがとぼとぼとした足取りで中心部にある家を目指す。手に持った黒いスマートフォンには赤丸で目的地が表示されていた。


(まさかあれ程の強さの人間が存在していたとはな…)


 クロからしてみれば予想外の展開だ。軟弱な主人であれば即座に始末しマスターキーである大助のスマートフォンを強奪するつもりだったが、強き者であれば話は別だ。その点にしてみれば大助は100点満点と言ってもいいだろう。


(この私が緊張とほんのちょっとの恐怖を感じる程の強さだ。傍で見届けるというのも悪くはないか)


 竜種は何よりも強さを重んじる。余興とはいえクロは敗北したのだ。ならば黙って従うのみだ。


 しばらくクロが歩くと、目の前にそこそこの大きさの建物が見えてきた。放置モードの世界のメインハウスとして設定されている場所。お助けモンスター達の住居だ。


「止まってください。ここから先は立ち入り禁止です」


 正面の扉からゆっくりと、兎人族の少女が完全武装の状態で姿を現す。


「…さっさと処分して養分にする?」


 続いて種族不明の少女が姿を現す。


「ダメですよ。一応警告だけはしておけとマスターに言われてるじゃないですか」


「…そうだっけ?」


(中々強さそうな魔物たちだな。えっと、マスターは確か私の事をクロと呼んでいたな。今後はそう名乗るか)


「クロだ。今日から同じ同僚同士。仲良くやっていっ…!?」


 目の前で振るわれた剣を片腕で受け止め、死角から放たれた弾丸のような植物を尻尾でハジキ落とす。そこに間髪入れず追撃の攻撃が迫る。


「ふっ!」


「ぬおお!?」


 喉元を狙った突きを、魔力で強化した右肘部分を割り込ませ右側に軌道を変えることで回避。そのままクロの右半身を狙い再び振るわれた剣を右足蹴りで弾き、下ろした右足を支柱にした左回転蹴りで2対の魔物を牽制する。


「流石は竜種と言ったところですか…中々に硬いですね」


「…ドラゴンは無駄に防御が固い事で有名」


(いきなり何するんだこいつら!?)


「お、おい!?私たちは同じお助けモンスターだろう!?なんでこんな事をするんだ!?」


「マスターから信じられないレベルのアホだと聞いたので、とりあえず始末した後にこの世界のルールを叩き込もうかと」


「…ちゃっちゃと始末した方が話は早い」


(こいつら……狂ってる)


「待て待て!こんな馬鹿げたこと、マスターが許可するわけがないだろ!」


(マスターもあの端末でこの世界の出来事を見ているはず。仲間内での殺し合いなど見過ごすわけがない)


「あ。その点は心配しないでください。ちゃんと許可は取ってますので」


「…10秒で返信が来た」


「なっ!?」


(マスターはいったい何を考えているんだ!?従者同士で殺し合いをさせて、そこからいったい何が得られるというんだ!?)


「さあ、始めましょうか。身の程知らずのお馬鹿な後輩を教育する時間です」


 教育云々は全て建前。ラビとしては大助を襲撃した身の程知らずの後輩を許すわけにはいかないのだ。


「…ドラゴン肉が食べたい」


 クラリアは中立だ。クロと敵対する理由はないが、流れで竜の肉が手に入るかもしれないと食欲のみで行動している。


「……いいだろう。お前たちに見せてやる。竜の力というやつをな」


 ___ラビが全魔力を解放。問答無用でクロの首を切り落とすべく行動を始める。


 ___クラリアが膨大な質量を持って全方位から必殺の攻撃を仕掛ける。


 ___クロが人型の形態を解除。全力で2対の魔物と対峙する。


 その結果、放置モードの世界は半壊。備蓄していた植物は全てロストという結果となった。


・ラビ 死亡


・クラリア 死亡


・クロ 重症 全治一週間

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