魔王城に召喚された。そしてめんぼうを見せた。

彼方

魔王城に召喚された。そしてめんぼうを見せた


 耳掃除には何を使うか。やはり耳かき棒だろうか。

 いいや、俺は「めんぼう」を使う。めんぼうとは、汚れがとれる白い繊維が両端についている木の棒だ。

 耳かき棒ではぬめっとした耳垢などは取れない。しかしめんぼうなら取れる。これは自論だが、めんぼうは偉大な発明なのだ。


「あれ? めんぼうがない……」


 これから耳掃除をするというときに必須なめんぼうがなかった。

 家にはいつも三十本以上のストックがあるのに、今は一本もない。


「なあ姉貴さあ、俺のめんぼう知らない? 耳掃除に使うんだけど」


 両親は仕事でいつも遅いから質問できない。だいたいめんぼうなんて俺しか使わない。

 部屋を出て階段を下り、居間にいる黒髪ロングの美人である女性――俺の姉に問いかける。


「おぉ、隆司たかし! 見てみてこれ、すごくない!?」


 姉は無邪気な笑顔で手に持っている物を見せてくる。


「このスペシャルお掃除道具見てよ! こうして数十個のめんぼうを先端に取り付けた棒なら、細かい隙間とかの汚れもしっかり取れるんだよ!」


 姉が持っているのは木の棒に多くのめんぼうを縛りつけているものだ。

 そうそう、めんぼうは偉大だ。掃除に役立つ……そんなことはどうでもいい。


「……それどこにあった?」


「いやあ、隆司の部屋にめっちゃあったからさあ。部屋にあったポテチのついでに持ってきた」


「おい明らかに盗んでるだろそれ。……てかポテチ消えてたんだけど姉貴のせいかよ。そしてめんぼう返せよ使うんだから」


 部屋に置いていたおやつの、のりしお味のポテチが消えていた。犯人は姉貴だったようだ。

 ポテチまだ家にストックがあるが、めんぼうはない。重要度としては掃除に使うめんぼうの方が大事なものだ。

 とにかく姉貴に返すように言うが、差し出されためんぼうは先端部分が黒く汚れていた。


「掃除道具として試しちゃったのかよ! せめて所有者に訊いてくれよ!」


「はっはっは! ごめんごめん。まあこんなんすぐ買えるでしょ? 買いに行きなよ、ついでにアイス買ってきてよ。一番高いやつね」


「要求が図々しいなあ!」


 姉貴がクソ野郎なのはいつものことだ。ほんとうに一度痛い目をみてほしい。

 許しはしないがいつものことである。俺もそう長くグチグチと言う人間ではないため、諦めてコンビニに出かけることにした。


 現在は初夏。雲一つない空から太陽が熱を放っているので、気温も高くなり始めている。

 無地の半袖半ズボンという少年のような服装で外に出ると、その気温の高さがよく分かった。

 家は冷房を姉貴が勝手につけているので涼しい。少しは電気代を節約してほしいものだ。


「はぁ……俺もアイス買うか」


 コンビニは近所にあるのですぐに到着する。目当てのめんぼう百本入り、そしてコンビニにしては高級なアイスを二個買った。

 施設内は冷房がきいていて涼しかったなあ。……早く家に帰ろう。


 すれ違う人々は暑さで顔を少し歪めて、汗を掻きながらどこかへ歩いて行く。日曜という休日にみんなどこへ行くんだか。


 そして、アイスが溶けないか気になって視線を落としたそのとき――


 なぜか地面に描いてあった魔法陣に足を踏み入れてしまった。


「え……なん――」


 日常の景色が歪む。代わりに現れるは非日常の景色。

 気がつけば俺が立っていたのは、見慣れた道路ではなく、どこかの建物内だった。

 紫色の床や壁は個人的に評価が低い。無駄に広いことも気持ちが落ち着けない。目の前にある玉座以外部屋には何も見当たらず、そこに偉そうに座る男がいる。

 さすがに展開が急すぎて口が開いたままだが言葉が出てこない。もし声が出たなら「なんじゃこりゃあああ!」とか、ありきたりな驚きの言葉を叫んでいただろう。


 偉そうな男はこらえきれないようにくつくつと笑う。


「くっ、くくっ、ははは……! ざまあないぞ人間ども。召喚した異世界人を横取りしてやろうと思ったが、こんなにもうまくいくとは!」


 異世界人という言葉、そしてこの状況。うん、やばい……ここ確実に異世界だ。

 まず転移させられた原因であろう魔法陣に足を踏み入れたこと。そして目の前の男には立派な角が頭に二本生えていた。コスプレのようにも見えないし、人間ではない何かだとすればおかしくはない。


 どうしよう……俺、姉貴に何も言えていない。お別れの言葉とか、何も言えないで……。


『あはは! え、めんぼう? あーごめん、寒かったから焚き火の材料にしちゃった』

『え? 買ってきたアイス? 何を言っているんだか。弟の物は私の物、私の物は私の物だよ』

『くだらないね。所詮は弱者の戯言。この世界は姉という強者が全ての世界なんだよ』

『あつーい、隆司エアコンつけてー。あ、次はテレビ。その次は……えっと、とりあえずポテチ買ってきて』

『これのりしお味じゃん! 私はうすしおの気分だったんだよ! 早く買ってきなよ!』


 あ、やっぱり姉貴とかどうでもいいわ。お別れとか言わなくてもいいわ。

 これ、姉貴という理不尽な生物だ。むしろここで縁を切って正解かもしれない。


「ふはははは、ははははは、ははっ、ふぅ……。さて、異世界の人間よ。放置して悪かったな」


「ああいえ、大丈夫です。こっちもこっちで色々と整理することがあったんで」


「そうか、それで何か言い残すことはあるか?」


 ……言い残す?

 言い方おかしくないかな。そこは訊きたいことはあるかとかじゃないのかな。


「なければすぐ楽にしてやるが」


 ……楽に?

 あれ、これやばくないだろうか。


「あの、訊きたいことがあるんですけど」


「なんだ?」


「とりあえず今の状況を簡潔にでもいいので、説明してくれませんか」


 予想が外れていなければ、楽観視していい状況ではない。姉貴と別れられて嬉しいとか思える場合ではないぞ。

 偉そうな男は数秒考えて、口を開く。


「人間どもが我ら魔族を滅ぼそうと、強い力を持つらしい異世界人を召喚した。我はそれを空間支配でかすめ取った。だが我が魔王城に人間を置いておく理由はない。よって処刑しようと思っているが、その前にせめて何か言い残すことがあれば聞こうと思った。以上だ」


「な、なるほど、説明ありがとうございます」


 動揺で声が震える。いや、死刑宣告は酷い。

 勝手に呼び出されて、勝手に横取りされて、その挙句殺されようとしている。姉貴など比べ物にならない理不尽!


 魔王城という言葉から目の前の男は魔王だろう。身長は椅子に座っていても分かるが俺より高く、鋭い瞳は赤く、耳の少し上からはうねっている黒い角が生えていた。黒いコートを着ており、偉そうに足を組んで座っている。

 異世界では定番の展開だな。勇者か魔王になるなんて定番だよ。来てすぐ死刑宣告はあまり聞いたことないけど。


 どうしよう。何か言わないと本当に殺される。言わなくても殺される……詰みだろこれ。

 何かないだろうか、殺されずに済む発言は……何かないかなあ。

 こんなときだから、人生の先輩である姉貴の言葉を思い出してみよう。


『力だ、力こそ全てだ! この世界は弱肉強食、強い者だけが生き残る!』

『私さあ、小学生のとき、将来の夢が魔王だったんだあ』

『両親がいない私達だけどさ……二人で力を合わせて生きていこうね』

『隆司、隆司の力は私のためだけに使いなさい。馬車馬のようにこき使うからね』


 ダメだ、今までに聞いた姉貴の言葉から何もヒントが得られない。

 仮にこの中から何かを言ったら殺される未来しかない。役に立たないな人生の先輩。子供の頃は優しかったのに、いつからあんな理不尽魔王になってしまったんだ。


 魔王に殺されないためには、俺という個の有用性をアピールする必要がある。

 置いておく理由がないなら理由を作ればいい。しかしよほど有能でなければ殺されるだろうな。

 異世界人には強い力があると言っていたが、今のところは何も感じない。よくあるチート能力がこの体に宿っている可能性はあるが、不確かな情報は信用できないし、あくまでも可能性なので力を説明できない。


 持ち物はどうだろう。俺の持ち物は現在、コンビニのビニール袋。その中に入っているアイスクリームと、めんぼうだ。

 まずビニール袋は論外だろう。これで何を言えばいいのか分からない。

 アイスクリームも微妙なところだ。日本の食べ物が異世界では受けがいいことはテンプレだが、二つしかないし、材料があるか不明なので作れない。食べ物で有能性を示すのは難しいな。


 ……となれば、あれしかない。


「どうした? 何もないなら普通に殺すが」

「ま、待ってください! 俺の話をまず聞いてください!」

「……早く話せ。我も多忙の身だ」


 俺はビニール袋の中からめんぼうの箱を取り出す。それだけでは何か分からないと思うので、中身を一本取り出す。


「これは、めんぼうといいます」

「……は?」

「めんぼうです」

「……あ、ああ。だ、だから? それがなんなのだ?」


 俺という個の有能性を示すのは不可能だ。つまり持ち物から選ぶことになるが、そうなればめんぼうしかない。

 めんぼうの素晴らしさを俺は小一時間ほど語れる自信がある。もちろん初対面の相手にそんなことはしないが、それくらいめんぼうが好きだということだ。

 だから……ここで言うべきは。


「このめんぼうは、全ての生物を虜にし、倒すことが可能です」


 耳掃除での話だ。掃除でも役に立つ。

 そう、ここで言うべきなのは確かにめんぼうの性能。だが同時に誤解させるようなことを言わなければならない。いくらめんぼうが便利だろうと、ちょっと便利なくらいで死刑が変わるとは思えない。ここでしなければならないのは、死刑にならないよう誘導する言葉だ。


「その、妙な棒でか?」

「これは相手の耳に入れて使います。自分でもいいですが、効果は抜群です」

「……ずいぶんとえげつないな」


 嘘は言っていない。耳掃除での気持ちよさは抜群だから。


「どんな武器をも凌駕するこれは現在三十本。もしも俺を生かしてくれれば、こちらの世界でも作ることが可能かもしれません」

「……ほぅ」

「それだけではなく、異世界の道具を色々作れるかもしれません」


 嘘は言っていない。かもしれないだけだから。

 魔王の反応は悪くない。これなら死刑にはならずに済むかもしれない。


「ふむ、なるほど……つまり生きたいわけか。確かに置いておく理由はないが、捨てるには惜しいかもしれんな」

「……で、では俺を処刑するのは」

「うむ、やめよう。異世界の道具にも興味が湧いたしな。しかし役に立たなければ殺すぞ」

「はい! ありがとうございます!」


 な、なんとか死刑は免れた。でも道具を製作しなければいけない……作り方とか分からないんだけどなあ。

 こうして俺はめんぼうのおかげで九死に一生を得た。全てはめんぼうのおかげだ。

 ストックもいつか切れるし、これからめんぼうを作れるようになろうと思った。



 * * * 



 あの召喚からもう五日が経つ。

 魔王はやはり魔王だったようで、ここはやはり魔王城であるようだ。

 自分専用の部屋も貰った。十畳くらいの一人で住むなら十分すぎる広さの部屋だ。

 ご飯も用意されるし、道具製作に必要な材料だって頼めば用意される。ベッドもあってフカフカだし、城の大浴場も使えるから住み心地はいい。


「あー! ダメだあ!」


 色々な材料を集めて提供してもらい、四苦八苦しながらも地球の便利道具を製作しようとしている。いまだにめんぼうは製作できる気がしない。というか地球の道具を作れる気がしない。


 何か作れるという期待が、俺をいま生かしている。もしも作れなければ殺されるかもしれない。

 実際にめんぼうを作ってみはしたのだが、細い木の棒の先端に白い布を巻いただけだ。布の触り心地はゴワゴワしていて悪く、粗悪品もいいところであった。


「はぁ、くっそお、チート能力でもあればいいんだけどな……。チート能力でもあればいいんだけどなあ」


 大事なことなので二回言った。

 いつ役立たずとバレて殺されるか分からない状況から、せめて殺される心配がないくらいの手柄は立てたい。


 ここには魔族が大勢住んでいる。魔王軍とされる者達だ。俺は人間だからあまりよく思っていないやつもいるだろう。

 まあ今のところは人当たりよすぎて逆に怖いくらいである。人型の魔族となら最近の出来事を話し合うことすらできるからな。


「いっそのことほんとうに目覚めないかな。異世界ショッピング! なあんて」


『異世界ショッピング、発動』

「……あったよ」


 冗談で言ったつもりが本当にあったのかよチート能力。

 頭の中に直接機械的な声が響いて少し怖い。視界に変なアイコンまで出てきた。

 ショッピングカートのアイコン。コインのアイコン。この二つが視界の中央に並んでいる。はっきりいって邪魔だ。

 ……消えないかなこれ。


『異世界ショッピング、停止』

「……本当に消えたよ」


 いやでも確かに消えてほしいと考えたけどさ。

 まだ何かすら確かめてないから、結局また出すことになるんだよ。


「い、異世界ショッピング」


『異世界ショッピング、発動。ちなみに声に出さなくても発動します』


「なんかアドバイスされた!」


 なんなんだよ、この声の主。俺のこと監視でもしてんの?

 まあいいや、気にしないようにしよう。とりあえず買い物ができるってことでいいんだろうな。

 カートのアイコンは分かる。おそらく購入するためのものだ。

 コインのアイコンは? こればかりは勇気を出して押してみるしかないか。空中に出てるし押せると思う。


 俺は空中に表示されているコインのアイコンを押す。すると自分の持ち物……つまり頼んだ材料。もう溶けきったアイス。十本は魔王に献上したので、二十本となっためんぼう。役に立たないビニール袋。それらが表示されており、各々の下には数字が表示されている。


 これはあれだな。カートが購入だろうから、コインの方は売却か。持ち物の下にある数字は値段だろう。

 俺の所持金が表示されていないのが気になるなあ。


 まあこれについては有効活用するとして……俺は魔王城に来てから思っていることがある。

 魔王もいるなら勇者もいるんじゃないのか。もしも勇者がいるとするなら、その勇者が魔王を倒してくれるなら、俺はここにいる必要がなくなる。

 魔王さえ死んでくれるなら殺される心配もない。この城は俺の物になる……じゃなくて、人間国というところに行くのもいいかもしれない。


 部屋から出て廊下に出る。魔王城の内部構造も頭に入れておかないと、いざという時に逃げられないからな。

 今までキッチンだったり、玉座の間だったり、宝物庫だったりは探索により場所を把握している。あとは見る必要ないと思うけど、地下牢とかも見ておくか。


「うん? タカシ、この先は地下牢だぜ?」

「ああ一応見ておきたいと思ってな。通してくれるか」


 全身包帯を巻いている男が地下牢入口の前に立っている。

 この男はミイラ男。大浴場にて出会い仲良くなった魔族だ。


「おういいぜ、でも薄気味悪いとこだし怖いから気をつけろよ」


 簡単に通すのはありがたいけど、警備員としてはどうかと思う。そして薄気味悪いのは全身包帯だらけのお前だろ。

 暗い階段を下りて地下牢へと向かう。日の光が届かないからランプの火だけが灯りだ。通路のあちこちに等間隔で設置されている。


 地下牢だし、あまり使われていないっぽいから誰もいないな。隠し通路的なものもない。


「そこに誰かいるのか……?」


 突如女の声がした。俺は驚いて肩を震わせるが、その正体を探るために周囲を見渡す。

 古臭い牢屋以外何もないと思っていた。しかしここが牢屋である以上は誰かを入れるために作られている。

 ――いた。少し歩いて曲がり角を曲がってすぐの牢屋に、金髪の美女が。


 ランプの灯りで照らされるのは金色の髪、半袖短パンという軽い服装をしている女性。発育がいいから目に毒だな。

 見たところ人間か。人質とかそんなところだろうか。

 今のところ曲がり角付近で様子を見ているだけに留めておく。呼吸とか足音とかからバレたなら出ていこうとは思う。


「ふっ、気付いたか。さすが勇者だな」

「お前の世辞はいらんさ、魔王」


 いま、なんて言った。というか魔王様いたのか。彼女が言った誰かというのは魔王だったのかもしれない。


「聖剣も聖防具もない貴様など虫けら以下。しかし暇つぶしに生かしている間に、我は面白い物を手に入れたのだ。……ときに侵入者よ、もう出てこい」

「す、すいません魔王様」


 バ、バレてた……さすが魔王。初心者の隠密なんて軽々と見破るか。

 しかたないので出ていくと、女性の目が見開かれる。


「なんだタカシだったか」

「ま、魔王、貴様……! 人質を私以外にもとっていたのか!」

「あ、あの魔王様。この人は……?」


 別に魔王に隠密がバレてもいい。今はそんなことよりも女性の正体の方が重要だ。


「人間国の勇者だ。敗北して以来、ずっとこの地下牢に閉じ込めている」


 やっぱり勇者かよ、聞き間違いであってほしかった!

 俺の希望粉々じゃないか! なんで勇者が既に負けてるんだよ!


「な、なぜそんなに親しそうにしているんだ。いやそもそも人質をどうして牢屋から出している? まさか何かの実験台にでもしようというのか? そうであるならば許さんぞ……!」


「バカめ、今の貴様に何ができる。それとタカシは人質ではない、我が魔王城に住んでいる人間よ。貴様を送り出した人間国が、新たな勇者を求めて異世界から呼び出したのだ。我はそれがなんかウザいから盗んだ」


「お、王国が新たな勇者を? で、では、私は……」


 ああそうか、新しい勇者を欲したということは……。


「貴様は捨てられたんだよ。というよりは、帰らないからもう死亡したとみなされているんだろうな」

「そ、そんな……王は私を選ばれし勇者だと、私しか勇者足りえないと言ったのに……」


 落ち込んだ。美人の人が落ち込んでしまった。これは一応慰めておいた方がいいか。


「あの、でももし帰れたら、また勇者として――」

「タカシよ、それはない。勇者を求めるのは我が生きているからだ。ゆえに勇者というのは魔王を倒したら用済み、消されるのがオチだ」


 えぇ……めちゃくちゃ酷いな王国。俺はそんなところに勇者として召喚されようとしていたのか。


「くっ、そこまで把握していたか……。それでなんだ、私を哀れだと嗤いにでも来たのか?」

「ふっ、貴様を嗤う趣味などないわ。かつて我を追い詰めた勇者が情けないのはしゃくではあるがな。今日は別件だ、貴様を天国へと誘う武器を持ってきてやったのだ」

「とうとう私を殺す気か……」


 そんなあ、こんな美人殺しちゃうのかよ。魔王が勇者殺すのは当たり前だけど、なんだかなあ。

 といっても異論唱えると殺されるかもしれないから、今は何も言えないけど。


「これが、貴様に使う武器だ!」


 魔王が俺のよく知る物を懐から取り出した。

 ……めんぼうじゃん。武器ですらないじゃん、ああいや武器とか伝えたのは俺か。


「これの名は……めんぼう!」

「めん、ぼう? 見たことも聞いたこともないな……木の棒? いやしかし妙な白い部分も……」

「そう、このめんぼうで今日、貴様は死ぬ」


 めんぼうで人は殺せません。

 あ、でもこまずいんじゃないのか? めんぼうがすごい性能だと紹介したんだから、何かしら効果がなければダメだ。もしもなければ騙したとして処刑されるに違いない。


「分かったぞ、その白い部分に毒を塗っているのか!」

「なに? そうなのかタカシよ」

「いえ違います」

「だそうだ。さあ、狭い牢屋のなかでは逃げ場はないぞ。大人しくめんぼうにより息絶えるがいい」


 魔王が牢屋の鍵を開け、中に入っていく。

 二メートルはある魔王に迫られては美人金髪勇者もどうしようもない。まるで強姦の現場でも見ているかのようだが思い違いだろう。

 勇者は逃れようとするも腕を掴まれてしまい、もう逃げることができない。


「くっ、こんなところで死ぬのか……! いや、考えてみればもう国にのこのこ帰ることもできない。いっそここで死んだ方が、楽になれるのかもしれないな……」

「観念したか勇者。潔いのはよいことだ」


 そして魔王は勇者の耳にめんぼうをゆっくり入れていく。


「くっ、うっ、うあっ」


「ふはははは! どうした苦しいか! 我とて貴様に聖剣で斬られたんだ、まだまだあの時の痛みはこんなものではないぞ!」


「ふぁっ、ひゃうっ!」


 魔王は焦らすように引いたり押したりを繰り返す。それもゆっくりと、ゆっくりと、すごく慎重に動かしている。

 あー、かなりくすぐったいんだな。俺も最初はここまでではないけど声が出たっけ。


「あっ、あふっ!?」

「汚いな、耳クソ詰まりすぎだぞ貴様」

「くうっ、いや、耳掃除なんてえっ! する暇なくってああっ!」


 ……俺は何を見せられているんだろう。

 魔王が勇者に耳掃除をしている。それだけなのに、ただそれだけなのに、勇者が妙な喘ぎ声を出すせいで……なんだかなあ。

 帰るか。俺はここにいる必要ないし、元々探索してただけだからな。うん帰ろう。


「もう汚れてきたな。タカシ! 次のめんぼうを!」

「はいはい魔王様、俺はもう帰りますのでごゆっくり」


 俺は汚れためんぼうを受け取り、新しいめんぼうを懐から出して魔王に渡す。

 うわあぁ、勇者の耳ってこんなに汚かったのか。めんぼうが黄色く変色するっておかしいだろ。膿でも出てるのか。

 とにかくこの場にはもういたくない。俺は元来た道を引き返すことにする。

 地下牢フロアから出ようとすると、門番のミイラ男が歩いてきた。


「お、タカシ。なあ、さっきから魔王様が喜ぶ声と、勇者の喘ぎ声が聞こえるんだけど……何してるんだろうな」

「……まあ、魔王様が棒を勇者の穴に突っ込んでるな」


 嘘は言っていない。めんぼうを耳の穴に入れてるだけだけど。


「マジかよ! これはこうしちゃいられねえ、早くみんなに知らせねえと!」


 ミイラ男はどこかへ走り去ってしまった。それでいいのか警備員。



 * * *



 さて魔王城での生活も慣れたものだ。もう早くも六日経つからな。

 昨日はやばかった。いったい俺は何を見ていたんだ、早く記憶から消し去りたい。

 まだ早朝という時間。俺は早起きしてしまったので、二度寝する前に試したいことを思いつく。


 昨日の出来事で俺の所持品が増えた。汚れためんぼうといういらない物が。

 このまま持っているのは嫌なので、どうせなら異世界ショッピングで売ってしまおうと考えたのだ。

 まあ汚れているし、どうせ値段なんてほぼないようなものだろうが。


 俺は心のなかで異世界ショッピングと唱える。


『異世界ショッピング、発動。ちなみにただ買いたいと思うだけでも発動します』

「ねえ本当に俺のこと監視してるんじゃない? 誰だか知らんけど絶対プライバシー保護されてないよね」


 ……返答ないし。まあいい、俺はコインのアイコンに触れる。

 やはり昨日貰った汚れためんぼうが追加されている。なるほど「勇者の使用済みめんぼう」か……なんで意味深な名前になるんだろう。


「え、見間違いか……?」


 勇者の使用済みめんぼう……七万円!?

 ちょっ、はあっ!? 七万ってなんだ! めんぼうの元々の値段の何百倍だおい!


「まあ、高く売れることはいいことだけどさあ。誰が買うんだよこれ」


 俺は勇者の使用済みめんぼうを七万円で売却した。

 どうやら所持品の表示にタッチするだけでいいらしい。なんだか間違って重要なもの売っちゃいそうなシステムだな。


 さて、七万円を手に入れたので、カートアイコンを押しても問題ないだろう。

 俺はカートアイコンを少しワクワクしながら押してみる。


 ――するといきなり大きめの服が目の前に出現した。


「ホワッツ?」


 まだ何を買うかすら考えていないし、何一つ表示されなかったけど。

 ……まさかこれ、購入時には何が買えるか選べないのかな。だとすれば欠陥能力もいいところだ。

 出てきたTシャツを眺める。中心に「神」と書いてある白い無地のTシャツだ。


「だっさ」


 俺は出てきた服を部屋から廊下に捨てる。

 所持金は五百円しか減っていない。またなんとも言えない金額だ。残りがたっぷりあるから問題ないけど。

 廊下に捨ててしまったけど大丈夫だろう。もしかしたら誰かが拾って着るかもしれないし。そのときは笑ってやろう。



 睡眠時間は三時間ほど。俺は早朝から眠って、目がバッチリ覚めた。

 どうにも与えられた部屋は広くて落ち着かない。誰か一緒に住んでくれるのなら話は別だけど。


「さて今日も一日頑張りますかあ」


 欠伸をしながら部屋を出る。すると機嫌がよさそうな魔王が歩いてきた。

 昨夜はおたのしみでしたね。とか言ったら殺されそうだから言わない。ミイラ男が噂をばら撒いているだろうけど大丈夫かな……。


「おおタカシか、おはよう」

「おはようございます魔王様」


 そうだ、一緒に住みたいわけではないけど、勇者を解放するよう頼んでみるか。

 かなり無理なお願いだとは承知の上だ。でもこの広い魔王城で、自由に話せる人間がいないのはキツいものがある。


「あの魔王様。いきなりですけど、俺は人間の話し相手も欲しいので、勇者さんを解放してくれませんか」


「……確かに配慮が足りなかったか。だがタカシ、器の大きい我は構わないが、この城には勇者に恨みを持つ者もいる。聖なる装備もないあ奴など上位魔族なら殺せてしまうだろう。安全面でいえば地下牢が一番だ。そこから出すということは、勇者が死んだときに貴様にも責任が付きまとうということ。それでも……解放したいか?」


 確かに勇者だから敵だ。忘れがちだけど勇者は魔王を倒すべく送られている。ここに来るまで色んな魔族を倒しただろう。その恨みを爆発させる連中もいるかもしれない。

 ……だけどそれでも可哀想じゃないか。安全だから一生地下牢で過ごせなんて、そんなの全然いいことではない。


「……解放しましょう。もし勇者さんが死んだなら、俺が責任を取ります」


「ああいや責任を取るといっても何もしないぞ。結局敵同士だからな我々は。神々が仕組んだ魔族と人族の争いの発端は数千年前にも遡る。もはや人族は我らのことを敵としか見ていないから、勇者も同じく敵だ」


 根が深いんだな。人間達と魔族達の争いはそんなに長く続いているのか。


「だから我は禁忌を目的とした」


「禁忌……まさか」


「神殺しだ」


 事情はよく分からない。神様っていうのは性格とかいいイメージだけれど、実際会ったこともないから判断できない。もしもいい神様だというのなら、どうして姉という魔王をどうにかしてくれなかったんだろう。


 ――どうして、両親を救ってくれなかったんだ。


「ふ、ふはは、感じたぞタカシ。貴様も神を憎むか! もしかすればこれは運命なのかもしれん、召喚儀式の乗っ取りは貴様だから成功したのかもしれんな」


 憎いのかな。自分の感情すら、両親の死については整理できない。

 神様は不平等だ。本当に助けてくれるとして、それは世界の生命を平等に救うわけではない。

 俺はただ、理不尽が……世界の運命を歪める理不尽な存在が嫌いなだけだ。


「ときにタカシよ。我は早朝、いい服を拾ってな。これなのだが……」


 そう言うと魔王は黒いコートを脱いで、中身を見せつけてきた。

 早朝に拾った服と聞いて嫌な予感がしていたが――


「どうだこの服は! なんと書いてあるか分からぬが、我はこの服を気に入った!」


 ――それアンタが憎んでるやつの名前書いてある服だよおおおお!

 俺が捨てた神服じゃないか! 少し大きめだったから魔王にピッタリサイズだなあ!


「……よく、似合ってますね」

「だろう! 決めたぞ、勇者を解放するついでに見せびらかしてやる!」


 いや言えないよ。本当はその服に書いてある文字は神を表すなんて。

 もしも正直にダサい服とか、似合ってないですとか、そんなこと言ったら殺されるわ。俺は肯定しかできそうにない。


 勇者解放のため、俺達は地下牢へと向かう。

 入口に着いたのはいいが、昨日まで警備員をしていたミイラ男がいない。


「あの、ミイラ男はどこに」

「あやつか。我と勇者が子作りしていたなどという噂を流していたので、罰として地下牢に閉じ込めた。そんなことよりも早く行くぞ」


 ごめんなミイラ男。説明を面倒に思った俺の責任だ。

 俺達は地下牢の通路を歩いて行く。

 道中で「魔王様にタカシ、俺を出しに来てくれたのか! あれ? おーい!」などという声が聞こえた。おそらく空耳だろう。


 勇者が閉じ込められている牢屋に到着した。

 昨日となんら変わらない様子だ。発育のいい胸が目に毒だ。半袖短パンという服装は寒そうで、白い足や腕が見えてやはり目に毒だ。いやむしろ目の保養かもしれない。

 金髪美人勇者は憎しみの込められた瞳で魔王を射抜く。


「何をしに来た魔王。また私を辱める気か」


「戯け。喜べ、貴様を牢から出してやる」


「……なんだと? どういうつもりだ?」


「タカシに感謝するんだな。個室も用意する……まあ詳しい話はタカシに訊け」


 魔王はそれだけ言うと去って行こうとし……戻ってくる。


「おい勇者よ、我に何か言うことはないのか」


 これはあれだ。服を自慢したいとか言ってたから、服のことを訊いているんだな。

 普段の黒いコートとは正反対の白いTシャツ。視界に入ればまず気付くはずだ。


「は、恨み言ならいくらでも言えるが」


「違う! 何も、何も感じないのか! この我が服装を見てなにも!」


「……服? ああ、いつもと違うな。それがどうした」


 興味なさそうだな。まあ敵なんだし興味持つ方がおかしいか。

 魔王はくるりと後ろを向くと、背中に哀愁を漂わせて去って行った。あまりに悲しくて見ていられないので、あとで何かフォローできるならしておこう。


 残された俺と勇者は向かい合い、俺は事前に預かった鍵で牢屋を開ける。

 しばらくの沈黙が流れ、見つめ合っていると向こうから声を掛けてきた。


「タカシ、だったな」


「そうです。ああその、勇者さんの個室は俺の隣なんで案内しますよ」


「……なぜ助ける。私は敵だぞ」


 警戒されてる。助けてあげたのに酷いな。

 一応魔王城に住んでいる人間とか紹介されたし、魔王と仲は悪くなさそうだったから、魔族に加担してるとか思われてるのかな。実際そうだし。


「敵じゃないです。少なくとも俺にとって、あなたは敵じゃないです」


「なぜだ、私は魔王を殺そうとしたんだぞ。いや今も殺せるなら殺している」


「だって俺、別に魔族の仲間でもないし。そりゃあ仲良くなった連中を殺されたら俺も怒りますけど。俺だって人間なんです、あなたと同じで人間だから、そう警戒しないでください。人間の話し相手が欲しかっただけなんで」


「理由はそれだけではないだろう。私の目は誤魔化せないぞ」


 ……すごいな。まさか見抜かれるなんて思わなかった。

 もしかしたら魔王も気付いていたのか。だとすれば、もし理由も見当がついていたとすれば……。

 ――いい人……いや、いい魔族だな。


「俺には姉がいました。すごい我が儘で、強引で、バカで、クソ野郎で、バカで、魔王みたいに暴れる人でした。そんな姉でも俺にとってたった一人の家族なんです。……あなたと似ているなんて、微塵も思わない。でも、同じ女性だからか、懐かしくなっちゃったんです。……ここには魔族しかいないですから」


「……そうか。お姉さん、か。辛いことを思い出させたな」


「いえ、会えないだけで生きてますからいいです」


「生きてるのか!? あ、ああそうか、そういえば君は異世界の住人だったな。王国に召喚されて家族と離されてしまったということか。……まことに申し訳ない」


 勇者は俺に頭を下げた。なんて正義感の強い人だ、自分が謝る必要なんてないだろうに。


「頭を上げてください。あなたが謝る必要ないでしょ」

「いいやある! 私が未熟で魔王を打ち取れなかったせいで、君はばれてしまったのだ! だからせめて頭を下げたかった。謝罪をしたかった」


 この人もいい人だ。魔王と同じくらい。

 結局なんだかんだ魔王は俺を殺していない。自分の策がうまくいったというのもあるが、すぐ殺さずに最期の言葉を訊いてきた時点でいい魔族だったのだ。敵対していた勇者も、生かしておく必要はないのに殺してないし。

 勇者も勇者で、全く関係のない俺に頭を下げて謝罪した。いい人でなければできないことだ。まさに勇者といったところだ。


 この人を見て、姉を思い出したのは事実。でももう姉と重ねることはない。

 ……だって俺の姉は魔王だ。異世界の魔王すら超える大魔王だ。あの理不尽な生物が目の前の素晴らしい人間と重なりはしない。


「頭、上げてください。俺は大丈夫です。だからほら、部屋に案内しますよ」


 勇者は顔を上げて「……感謝する」と礼を口にすると、癒やされるような優しい笑顔を浮かべた。


 地下牢フロアから出て魔王城の通路に出る。俺は訊きたいこともあったので口を開く。

 訊きたいこととは魔王の服のことだ。魔王もいい魔族であるし、せめて服の評価くらい訊いて伝えてあげようと思った。


「勇者さん、魔王様の服をどう思いました? あの白い服です」

「うん? ああ、あのクソダサい服か。私は神を信仰する者として、あのような服は認めない。正直、アレを着ている奴はセンスがないな」


 ――伝えないでおくのも優しさかな。

 俺は魔王に服の評価を伝えに行かず、勇者と雑談しながら部屋へと案内した。

 魔族とも人間とも仲良くなって……これから楽しくなりそうだ。



 * * *



 魔王城生活二週間目。

 ここまで色々あった。異世界ショッピングで購入される物品は完全にランダム。高級なウナギが出てきたのでみんなで食べたり、俺のことを気に入らない魔族と日本刀で戦ったり、大浴場に入浴剤を投入したり、本当に楽しいことも辛いことも多く経験した。


 そうして日々順調な生活をしていた俺は魔王に呼び出されていた。

 急な呼び出しだったので脳内に直接声が届いて驚いたが、緊急らしく俺も慌てて玉座の間へと向かう。


「魔王様! いったい何があったんですか!?」

「おおタカシよ! 実は人間国が新たな勇者を召喚しおったのだ!」


 玉座の間には魔王と勇者、そして水晶玉で遠くを映すことが得意な魔族がいた。

 水晶玉を持つ魔族は、来ている黒いローブも体ごと小刻みに震えている。気弱そうな少年だというのに、魔王と勇者に挟まれては怖がるのも無理ないだろう。


 それよりも新しい勇者についてだ。まだ俺が召喚されて二週間しか経っていないのに、もう新しい勇者を召喚するなんて見境なしかよ。


「勇者召喚ってそう何回もできるんですか?」


「いや、文献によれば大量の魔素を必要とするはずだ。王国周辺の魔素量では二度目の使用まで十年はかかるはず。だというのに……タカシが召喚されてまだ一か月も経っていない。そのあたり、魔王……お前なら何か分かるのではないか?」


「我が人間国のことを貴様より詳しいわけがないだろう。……だが最近、魔王国辺境の村人が姿を消していると報告が上がっている。まさかとは思うが、足りない魔素を魔族から奪っているとすれば合点がてんがいく」


 なんて奴らだ王国の連中。魔王の予想通りなら下衆なんてレベルじゃないぞ。

 魔素というのは魔法を使用するのに必要なエネルギーで、魔族は人間よりも多くの魔素を内包していると聞く。人間なら生命活動に直接の関わりはないが、魔族は魔素が尽きれば死ぬこともありえるらしい。


 俺には魔素がないので魔法は使えない。異世界ショッピングは魔法とは違うと以前魔王から聞いた。

 魔素がない俺には苦しみが分からないが、それでも辛く痛いことぐらい分かる。

 魔法を使えば魔素を使用する。魔素は一日で回復するが、減りすぎれば極度の疲労と、頭が割れるような激痛が襲うらしい。つまり拉致されている魔族達はこの瞬間も痛みに耐えていることになる。


「なんてことだ……。王国がそんな真似をするなど、信じられん……!」

「ふっ、勇者よ。どうやら人間国の王とやらは相当下衆らしいな……!」


 二人の怒りが殺気となって周囲に充満していく。

 水晶玉の魔族があわあわとしてこちらを見てくる。……こっち見てもどうすることもできないよ。俺はただの一般人だから、むしろ魔族である君の方が強いから。


「む、出てきたな。異世界人が」

「どことなくタカシに似ているな」

「……は?」


 いやちょっと待て。おかしいな、見間違いか? いやだって水晶玉に映る勇者に見覚えがありすぎるんですけど。

 神殿のような場所にある魔法陣から人間が出てきた。勇者が言う通り俺に似ている。髪色は同じ黒髪でロング、そしてすらっとしたモデル体型。二週間ぶりに見たその姿は、別れてしまったときから何一つ変わっていない。


「うん? この女、タカシの名を呼んでいるぞ。知り合いか?」

「そういえば以前姉がいると言っていたがまさか……」


 もう勇者は察しがついたようだ。俺も信じたくはないが、現実は無慈悲なものだよな。


「……魔王です」

「いや魔王なら我だが?」

「俺の世界の、大魔王です」

「大魔王!?」


 姉だ、姉が来た。異世界から呼び出されたのは俺の姉貴だ。

 そしてあれは魔王だ、大魔王だ、理不尽の塊だ。


「これは俺の姉貴で! 理不尽な大魔王なんだあああ!」

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魔王城に召喚された。そしてめんぼうを見せた。 彼方 @kanata12345

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