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頭上から断続的に雨の雫が屋根を打つ音が聞こえる。
ホームのベンチに座ってどれくらいたったんだろう。
お互い無言の時間が長すぎて、時間の経過がよくわからない。
もう朝が来てもおかしくない気分だけど、実際はまだ二時間もたっていないと思う。
時間がたっても雨が強くなることはなく、屋根もあるおかげでぬれることはない分、屋根に弾ける雨音が頭上で鮮明に聞こえていた。
私はぼんやりと落ちてくる雨粒を見つめてみる。
別におもしろくはないけど。
薫くんはどんなことを考えているんだろう。
急に気になってきたから、ちらっと目だけで隣を伺ってみた。
すると薫くんは、タイミングを計ったかのように急に立ち上がった。そしておもむろにポケットからスマホを出す。圏外だから、連絡とかは取れないって嘆いていたのに、どうしたんだろう。
薫くんはカメラを起動して、「こんな機会もうないだろうしさ、せっかくだから」と、無人駅からの景色を写真に収め始めた。ついでのように私のほうにも向けられたから、にっこり笑って見せた。
満足いく写真が撮れたようで、薫くんはもとの位置に座りなおした。それから妙に落ちつかなさげに数秒間視線をさまよわせた後、ベンチの上で握られた拳にぎゅっと力が入ったのがわかった。
「あのさ……、俺、覚えてるよ」
「ん?」
「だから、さっきの。小さい頃の話。……今日の傘は、実は昔ねえが使ってたやつで、ほこりかぶってたしなんか使わなきゃかわいそうだなって思って持ってきたんだ」
「なんだ、やっぱり覚えてたんだ。私、そうじゃないかなって思ってたよ。……何年、一緒にいると思ってんの」
お姉ちゃんのだったんだね、納得。
妙に可愛らしい傘だなって思ってたよ。
そう言った瞬間、そっぽを向かれてしまった。
暗くてよく見えないけど、その頬は赤く染まっているに違いない。
「それ、花音が持ってて。俺が持ってても多分、持ち歩くの忘れて意味ないと思うし。もともと傘とか俺あんまり使わないし」
それはそれでどうなんだろうと思うけど。
風邪引いちゃうよ。昔は一応持ち歩いてた折り畳み傘も今はないし。薫くんの日常生活が心配になってくる。
「わかった。じゃあ、雨が降ったときはいつでも、私が薫くんに傘をさしに行くね」
自分で言葉にしてみて少し恥ずかしくなった。
だけど今までずっと一緒にいて、もうそれが当たり前になってて。多分これからもいろいろ言いながらも一緒にいる気がするから。
薫くんは何も答えなかったけど、そっと手が重なってぎゅっと握られたから、それが答えなんだと思う。
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