粛清 残り1日

僕達は今夜も、アパートのすぐ近くの

通い慣れたラーメン屋のテーブル席に座っていた。

相変わらず店内は油っこい匂いでいっぱいで、

四葉に付きあって

ほとんど毎晩ここに通ったせいか、

僕はこの匂いに安心感を覚えていた。

だが、今夜は珍しく四葉がここにはいない。

僕と息吹の二人だけでテーブルを囲み、

ラーメンを啜っていた。

「四葉、どうしたんだろうね」

彼は彼女の味噌ラーメンの特盛を

美味そうに食べる姿に触発されて頼んだ、

普通盛りの味噌ラーメンを啜りながら首を捻った。

「さあな。まあでも、四葉のことだし。

食い過ぎで動けないとかじゃねえの」

「そうかも」

「ラーメン屋巡りする!って朝言ってたしな。

まあ、金はあるし迷子でも最悪大丈夫だろ」

彼は笑いながらチャーシューにかぶりついた。

ラーメンを食べ終え、会計をして外へ出ると、

外はすっかり暗くなっていた。

空を見上げると、ほんの少しの星の光と

白い月が、夜の闇の中で光って見えた。

寂しげな空気が僕らに触れる。

「星が光って見える分だけ、

夜は暗いんだろうな」

腹をさすりながら、

夜空を見上げている息吹は呟いていた。

「今、俺が咲凛花のことを大切に思えているのは、明日、死ぬことが

決まっているからなのかもしれない」

明日の未来を想像しているのか、

彼は悲しげな目をしていた。

「それは、違うと思うけどな」

僕は菫のことを思い浮かべながら言った。

「どんな人間にも、死はいつか訪れる。

だから、人は人を愛せるんだ」

「どういうことだよ?」

不思議そうな顔をして、息吹は聞いてきた。

「ほら、人間の性欲は、この世界に

自分の遺伝子を残すために発生するでしょ。

つまり、僕達は、死ぬから恋をしているんだ。

その点、息吹も僕も変わらないさ。

明日を過ぎても、

きっと息吹はその子のことが大切なままだと思う」

「ああ、なら、いいな」

彼は言葉と一緒に暖かい息を吐いた。

それから暗くなった住宅街を

少し歩いてアパートに到着し、

ドアを開けると部屋の電気が付いていた。

奥からはシャワーの音が聞こえてきて、

玄関には汚れた四葉のスニーカーが

乱雑に散らばっていた。

「帰ってきてたんだな」

「うん。でも、

こんなに四葉の靴、汚れてたっけ?」

聞くと、息吹はさあな、と笑った。

それから、三十分経った頃。

部屋の中に響く音は掛け時計が

時を刻む軽い音だけで、今日で最後だからか、

不思議と緊張した空気が張り詰めていた。

ついさっき風呂からあがり、

髪を一つに纏めた四葉は腕を組み宣言した。

「それでは、最後の作戦会議を始める」

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