追求 残り5日

咲凛花がトイレに篭ってから

もう一時間は経過している。

かなり深刻なお腹の壊し方をしたのか、

それとも紙が無くて困っているのか。

どちらにしても、待っているのは苦痛だった。

女子トイレの目の前にあった生徒会室の中の

時計を見ると、時刻は既に四時半を回っている。

一度中に入って

彼女の様子を見に行こうか考え、そして辞めた。

私は咲凛花のストーキングを開始したのは

帰りの会が終わってすぐのことだった。

彼女は息吹と少し話し、

彼が行ってからこのトイレに直行した。

それからずっと状況は変わっていない。

昨夜の作戦会議で私がストーカーを

引き受けたことに深く後悔を感じていた。

咲凛花の入っているトイレが

ギリギリ視界に入る物陰に身を潜め、

時計とトイレを交互に確認していった。

この状況に変化が起きたのは、

それから約五分が経った頃だった。

足音が廊下から聞こえてきた。

一歩一歩が大きく、

直感的に男の人のものだと推測した。

これだけ待たされたからなのか、

少し緊張し心臓の拍動が速くなった。

足音は段々とこちらに近づいてきて、

物陰に隠れている私の目の前を通過していった。

足音を鳴らしている男の正体が、

私達の学級の担任の

花水木先生であることを確認した。

そして、彼は女子トイレの前で止まり、

一切の躊躇も無く、中に入っていった。

それから私は少し様子を探る事に決め、

耳を澄ますも一向に何も聞こえてこない。

意を決してトイレの入り口あたりに移動し、

再び耳を澄ました。

すると、2人の声と、衣擦れの音、

湿ったような、不快な音が聞こえてきた。

顔だけ出して中の様子を見ると、

鍵のしてある個室は一つだけだった。

暴れる心臓を抑え、

素早く入り口から更に中へ入る。

「咲凛花ちゃん、今朝君を庇ったあいつ何?誰?

彼氏でも作ったの?」

聞いた事もないような、馴れ馴れしい口調の

花水木先生の話し声が聞こえてきた。

異様な気持ちの悪さがあった。

「何でも、良いでしょう」

抑揚の無い冷たい声で咲凛花が返した。

「彼のこと、好き?」

先生が問うと、しばらく沈黙が続いた。

その後、再び先生は口を開いた。

「まあ、彼も可哀想にねえ。

彼女が俺にこんなことされてるって、

知らないんだもんねえ」

「彼は関係な」

彼女の声は途中で途切れ、

僅かな粘性のある液体を掻き回すような、

気色の悪い音が聞こえ始めた。

彼女の声の途切れ方からして、

おそらく、咲凛花の口が先生の口で

塞がれたのだろうと頭の中では理解した。

そのうちその音は止み、

咲凛花の言葉にはなっていない、熱を持った声が

一定のリズムで鳴って、

その声と連動するように肌と肌が

強くぶつかり合うような音、

先程の物とはまた違う、

掻き回すような生々しい音が聞こえ出した。

私は彼らの奏でる音を聞いていて、

胸の中に、何かが生じ蠢き出したのが分かった。

それは黒く粘性があって、強く、

私の体に言葉では無い本能的な

何かを訴えかけてくる。

トイレの個室から聞こえて来る

男女が愛し合う音が一層激しくなった。

掻き回す音を感じる度に、

胸の中の蠢くものからの訴えが強くなっていく。

どうすればこの渇きが満たされるのか

知識では知らなかったが、体が教えてくれた。

スカートの中に手を入れ、

下着の外から自分の性器のあたりを触ってみた。

指が触れた瞬間に性器に強烈な快感を感じ、

私の体は更なる快楽を求め始めた。

下着の隙間に指を入れ、直接性器を弄った。

一枚布を挟んでいた時とは全く違う、

新しい快感を覚えた。

そして、再び体は更なる快感を求め始めた。

私は快楽の虜だった。

性器を弄る指を止めることなんて頭にも無く、

ただ手の動きは激しくなるばかりだった。

思考回路は蠢いていたものによって犯され、

何も考えられなかった。

そうして快楽が身体中に行き渡り、

遂に私の全てが

支配されそうになったその時だった。

急激でいて、強烈な変化が起こった。

突然体に力が入り、痺れるような感覚がした後、

心臓の音が煩いくらいに響き渡って、

最後に最高の快楽が性器から脳天へ走った。

すると、私の胸の中で

蠢いていたものは嘘のように収まっていった。

息を整えていると、

トイレの中から個室のドアが開く音がして、

私は慌てて外に出ようとした。

が、どうしてか膝が震え、思うように立てない。

四足歩行の動物のように移動していき、

最初に隠れていた物陰に滑り込んだ。

荒い息を堪え、耳を澄ます。

トイレの手洗い場の辺りから

話し声が聞こえてきた。

「咲凛花ちゃん。また明後日、ここに来てね」

「はい」

「何で明日は来てくれないのか、聞かないの?」

「いや、あ、な、なんで明日はきてくれ」

いきなり声が途切れた。

また、彼女は先生に口を塞がれたようだった。

口内を掻き回す、下品で魅惑的な音が廊下中に

響き渡ってきている。

その音が止むと、「じゃあ、また明後日」

息を荒くして先生がそう言い、

女子トイレから出て何食わぬ顔で歩き出した。

咲凛花は1人になってからも

しばらくトイレの中にいた。

蛇口を捻る音が頻繁にして、

時々嗚咽のような声が聞こえてきた。

静観を続け、ようやく彼女が出てきた。

時刻を確認すると、時計は五時半を指している。

彼女の髪は乱れていて、

私はそれを羨ましく思っていた。

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