第8話 女子高生と学校

「おい叶翔、相変わらずお前元気ないな」

「うっせ」



 日は流れ月曜日、俺は学校に来ていた。俺だって健全な高校生なので、毎日きちんと登校する。今は数少ない友人の山森拓也やまもりたくやと朝礼からそんな話をしながら、一限目の始まりを待った。




「なあ拓也、お前さ白花小冬って知ってるか?」



 朝礼後、一限が始まるにはまだ時間がありそうだったので、俺は単刀直入にそう聞いた。俺が拓也に小冬の事を尋ねた理由は、彼女が日曜日に家に来なかったからだ。もっと言えば、土曜日の朝、朝食を作ってくれた彼女はその後すぐに姿を消した。



 一連の流れから毎日来てくれると思ったのだが、結局一日も続かずに終わってしまった。小冬も女性なのであまり接点のない同級生の家に行こうか迷う気持ちは何となく分かるが、それでも彼女の言葉や表情が嘘をついているとは思えなかった。




「白花小冬って隣のクラスの?」

「知ってんのか?」

「そりゃ知ってるだろ」



 やはり顔立ちの高さで有名になっているのか、隣のクラスの拓也でも知っていた。基本的に他人に興味のない俺は、友人も少ないので、そういった噂や校内での有名な話には鈍かった。




「顔はまあまあだけど、あの暗い人だろ?」

「え、そうなのか?」

「何だお前、そんなのも知らねえの?」



 まだ暗い性格というのは分かるのだが、顔がまあまあという所にだけは納得がいかなかった。何故なら、俺が知っている小冬はそこら辺の女子高生とは比べ物にならないくらいに整った顔をしていたからだ。




「何、好きなの」

「違う!」



 ちょっとニヤついた顔をしている拓也の膝を蹴りながら、俺は強気味に否定する。




「じゃあ、暇な時に見に行くか?」

「それって何かキモいだろ」

「その感性は分からんでもないけど、男子高校生ならそれくらい平気でするぞ」

「そうか。じゃあ行く」



 別に彼女の事が好きなわけではない。ただ、来ないなら来ないなりに理由を聞きたかった。あの日の涙や表情が嘘だったのか、それを知りたかったから。







 一限目は始まり、あっという間に昼休みになった。俺は約束通り拓也の元へ行き、小冬を探す心の準備をする。




「珍しいな。お前が他人に興味を示すの」

「は?」



 教室の椅子に座る拓也の元に行けば、なんだか物申したそうか顔で俺にそんな事を言ってきた。




「いや、お前って友達いないし作ろうともしないし、何よりも口下手じゃん?」

「うっせ」

「だから、珍しいなって」

「俺だって、そういう時もある」



 辛気臭い空気感になりながらも、拓也の顔をじっと眺める。

 



「まあ叶翔が枯れていたわけじゃなさそうだから、俺もちょっと安心」

「もういい!早く案内しろ!」

「はいはい」



 少し考えさせられそうな雰囲気になった事に何とも言えない気持ちになりながらも、俺は立ち上がった拓也の背中を追いかけた。




「あれだよ叶翔、お前が探してた白花小冬さん」

「あの奥の?」

「そうそう」



 隣のクラスなので、到着するまでに10秒とかからず、すぐに足を止めた。そして拓也の指差す方を向いて彼女を探した。




「暗いだろ?」

「…………そうだな」

「でも、話したら優しくて謙遜ばかりする性格らしいから、悪い噂は聞かないな」

「そうか」



 拓也の言う通り、俺の知っている小冬の性格とほとんど一致していた。そして拓也が言っていた、顔はまあまあの意味も、今の小冬を見れば考える間もなく理解出来た。



 綺麗だったロングヘアーは後ろで結ばれ、一つ結びになっている。大きくて輝かしい瞳は眼鏡で隠されて、その良さが失われている。



 極め付けには静かで暗い表情をしているので、いくら元の顔が良くても、その効力は半減されていた。




「弁当も1人て食べるのか……」

「お前ですら数人はいるのにな」

「黙れ」



 隣に立つ拓也の足をまた軽く蹴りつつも、俺はそこのクラスの中に入ろうと足を進めた。




「お前何すんの?」

「話しかける」



 足を一歩進めた俺の手を拓也は掴む。




「何で」

「聞きたい事があるから」



 真剣な眼差しでそう言えば、拓也は簡単に折れた。



 

「もーお好きにしてくれ」

「そのつもりだ」

「俺は邪魔になりそうだから戻っとくぞ」

「助かる」



 拓也の気遣いに感謝し、止まった足を再び動かした。




「小冬」



 1人で黙々と弁当を食べている彼女の近くへ行けば、俺は声を出した小冬を振り向かせる。




「どうして藤川さんが……」

「俺に何か言う事があるんじゃないのか?」

「…………」



俺が小冬の元を訪れたもう一つの理由として、今見捨てたら駄目な気がしたからだ。ここで見放してしまったら、彼女の中と負の感情が、また溢れ出てしまう。それ以上に、小冬自身が俺が探してくれるのを待っている気がする。



 黙って小冬の口が開くのを待てば、彼女は弁当を開いたまま立ち上がった。そして、ここの教室から勢いよく出て行ってしまった。




「待て!」



 虚しくも俺の声は届かず、小冬は止まる事なく駆け出していく。客観的に見れば俺が声をかけた事で逃げたように見えるかもしれない。だが、俺の目は小冬の頬が微かに上気するのを見逃さなかった。







【あとがき】


・次話もお楽しみにー!!

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