第068話 オレンジ&イエロー ストライプス

・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生

・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生

・ヴィセ:十九歳、リーエの同室、一年生

・ファラー:十九歳、背の高い一年生

・ミーエ:二十歳、チーヤの同室、二年生

 

 

 ヴィセがほぼ紺無地のラッシュガードとパレオを買うと、一行はラツフィの店をあとにした。

 調度、お昼前のタイミングだったので長居のきく喫茶店、ボォダァグ・ポ・カール・ヨハンに入ると、めいめい、好みのケーキと飲み物を選ぶ。

 リーエは、飲み物だけにする。

 ヴィセが話しを開く。「湖水欲、いついく?」

 チーヤはすかさず「私とリーエは取りあえず来週行くつもり」と応える。

 ヴィセが「来週かぁ、ちょっと用事があるんだよね」と残念がる。

 ミーエもファラーも都合が合わないことを口にすると、チーヤが穏やかに微笑む。「みんなで行くのは、また、みんなのスケジュールを持ちよってにしましょう。

 まずは斥候として私とリーエで行ってくるわ」といって、みんなの笑いを誘った。

 ミーエがそれに返す。「強行偵察にならないように注意してよ」

 これは、変な男につきまとわれてふりほどく面倒に陥らないように、という意味もこもっていた。

 そしてみんなケーキを食べ終わり、飲み物も済ませてしまうと、交代でトイレにゆき、ボォダァグ・ポ・カール・ヨハンをあとにした。

 フィシラツチューのウズメシィラに戻ると、混雑している店内を忙しそうに歩き回っているツーベが驚いた顔をした。「おかえりなさいませ、どうされました」

 チーヤが代表して応える。「二人ほど、やはりこちらで選びたいというものがおりまして。

 お忙しそうなのでこちらで勝手に選ばせてもらいますね」

 するとツーベが申し訳なさそうに近寄ってくる。

 彼女がチーヤに見せた彼女のモバイルには、先ほどの買い物をしたチーヤ達が映り込んでいる。

 「投稿者の勘違いなんですけれども、モデルさん達がウェアを選んでいる店、という書き出しで午前中の様子がSNSに出回ってしまっていまして。

 申し訳ございません」と謝ってくる。

 チーヤが、みんなちょっとー、と小声で手招きする。

 皆、ツーベのモバイルをのぞき込んで意味をさとり、それぞれに困って見せたり、にやけてみせたりする。

 ツーベが続ける。「この投稿のお陰か、午後から急にお店が混み出しまして」

 チーヤがそれに応える。「一つだけお願いが。

 私達がどこの生徒なのか、社会人なのか、業界人なのかについては、一切誰にも話さないようにして下さい。

 もし、学校側に知られてしまうと、単位に影響が出ますので」

 「はい、それはもちろん、お客様の個人情報には守秘義務がありますので」

 「よろしくお願いします。私達は、さっさと選んで退散しますね。

 こうして、さっさと選ぶ、という制約を受けたミーエとリーエの水着選びははやかった。

 ミーエが選んだのはオレンジと黄色の横縞のビキニ。

 プラとショーツの全面にフリルが付いていて、胸とお尻を強調することで、よりグラマラスな印象を作る。

 ミーエは他の子と比べてややバストが小ぶりなので、その点もカバーする。

 リーエも、お目当ては決め込んでいて、探し出すのははやかった。

 ミントグリーンとスカイブルーの中間のようなわずかに黄色みを感じさせる水色と、淡い赤の中でも桃色や薄紅より更に淡いのに主張をしてくる一斤染いっこんぞめが縦に、境目がぼやけたように縞を織りなすビキニ。

 ブラの端から伸びたレースは右が水色、左が一斤染いっこんぞめと対を成す。

 そのレースは肩に向かっていくにつれて幅広になり、天使の翼を思い起こさせる。

 ショーツには前に二段、後ろに四段の供地のフリルが付いており、更に供地のスカートも付いている。

 別売りのスイム用パニエを合わせればヒップのラインにボリュームが着いて、生まれついてのワスプススメバチウエストが一層際立つ。

 そして、小ぶりのつばの浅いボンネット帽が付いてくる。

 ラッシュガードは敢えて濃いめのカーキイエロー。

 詰め襟のデザインは、少しファスナーを開けるだけで、襟が倒れ、軍服の風をなす。

 チーヤがたずねる。「パレオは?」

 「えへー、何となくこのままの方がスカートが可愛いかなー、と思いまして」

 「ううん、朝から夕方まで遊んだりしていたら、絶対脚だけ赤くなるわ」

 リーエはうなずく。「そっかー、でも何色だとこれに合うんだろう」

 チーヤは「ちょっと待ってて」と更衣室を離れると、白とベージュのストライブ、茶色とカーキイエローがメインの色合いのギンガムチェック、ミントグリーンの無地のパレオと、三つを選んで提案してくる。

 リーエはチーヤから受け取ると、それぞれを腰の前に合わせて、鏡でバランスを見て見る。「うーん、この中だとこのミントグリーンのパレオかなあ」

 チーヤが、我が意を得たりと腕を組み、ドヤ顔を作っていると、手の空いたツーベが立ち寄ってくる。「お連れ様、こんな提案もございますよ」

 持ちよられたのは鮮やかな水色のパレオと、カーキグリーンとミントグリーンで構成された手のひら大の千鳥格子が斜めに落ちていくパレオ。

 どちらも逆三角形の形ではなく、長方形の布地になっている。

 ツーベが解説する。「この形のパレオは巻きスカートの要領になってまして、真っ直ぐ立っているとスカートのようなんですが、、いざ歩き出すとおみ足が出る作りになっています」

 そういいながら、ツーベは半分試着室に足を入れ、「失礼します」と断りを入れて千鳥格子のパレオを取り、布の切れ目が右足の前に位置するようにリーエの腰に巻き付ける。

 リーエは、姿見で左右に腰を振るようにして様子を見るが、ととっと歩いて更衣室の奥にいくと、覗いてきているチーヤやヴィセにみせつけるように歩く。

 ふわっ、ふわっと右足が覗きだしてくるのが、如何にもおしとやかにみえて二人とも目を見張る。

 「いいね」ヴィセがいうと、チーヤも「うん、悪く無い」と持ち上げる。

 こうして、リーエの装いも決まった。

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