第063話 徹攻兵のコストパフォーマンス

・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生

・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生

 

 

 まるでタイミングを合わせたかのように、災害支援をした翌日に、リーエの新装甲服が届いた。

 届いたのはリーエの新サイズの新装甲服だけでなく、四年生で、急流の中に入り込んで作業した四名にも、従前と同サイズの装甲服が届いた。

 リーエや、他の一年生が、どういう事だろう、という顔をしているので、四年生を代表してセテーが説明する。

 「あー、一年生の諸君にとっては初めてのことかも知れないが、春の洪水の災害支援で、流水の中に浸かったものには、新品の装甲服が支給される。

 いかな流水と呼べど、汚泥混じりの不衛生なものであることにはかわりがない。

 アンダーアーマーや、内装にしみこんだ汚泥の中には、皮膚炎を起こすような細菌、ウィルスも混じる。

 徹底的にクリーニングするより、新調してしまった方が早い、というわけだ。

 よいかな?」

 セテーが、口調より柔らかな笑顔で確認する。

 一年生が全員、最敬礼で「理解いたしました」と答える。

 その中で、リーエが手を挙げる。

 皆、何事かと思ったがリーエの瞳は真剣そのものだった。

 「セテーさん、質問があります」

 「どうぞ」

 「着甲服は、一式どの程度の調達コストが発生するのでしょうか」

 それを聞いて、セテーはにやりと笑う。「もしかして、学校への負担を気にした?」

 リーエがうなずく。「はい、私の場合、サイズ変更という、プライベートな理由も加わっていますので」

 セテーはいたずらっ子のような笑みを浮かべると「ちなみにどれくらいだって想像する?」と尋ねる。

 後ろの方では四年生、三年生が、リーエが答えそうな価格を小声でささやきあっているが、流石にそれは非着甲時には聞こえない。

 「えーと、四、五千ユーロくらいでしょうか」

 セテーが、得意そうに笑う。「残念。

 数万ユーロの後半とだけ聞かされているわ」

 リーエの目が丸くなる。「それって車が買えちゃいますよね?」

 セテーは少し困ったように笑う。「そうね、それも結構な高級車がね。

 でもねリーエ、それは国防全体に取っては大したことではないの。

 それよりも、私達には一日でも早く、第三世代型装甲服に習熟することが望まれているの。

 どうしてか分かる?」

 リーエは堪らず、後ろの一年生達を振り返る。

 皆が首を横に振る中、ファラーが手を挙げる。「単身での高圧砲の取り回しが可能となる、でしょうか」

 すると、セテーの視線がファラーに刺さる。「ファラー、半分当たり。

 ではなぜ高圧砲を扱えるようになることがそれほど大事なの?」

 その問いに、ファラーが答えきれず上を向いてしまうと、セテーがパン、と胸の前で手を打つ。

 「さ、着甲しなければならないから、種明かししましょう。」

 そういうとセテーの声色が少し固くなる。「徹攻兵は第三世代型装甲服に習熟すると、主力戦車のである高圧砲を単独で取り扱える。

 成長の早い徹攻兵なら、数十万ユーロ程度の費用で、戦車と同等の戦闘単位が手に入る。

 しかしそれだけではない。

 通常の戦車砲の射程が三キロメートルであるところ、徹攻兵はその超感覚で二十キロメートル先の敵性兵力すら打ち抜く。

 それどころか、対ミサイル防御用の重機関銃を持たせれば、本の三、四発の弾体で、ミサイルを無効化できる。

 二十キロとは二万メートルの事だ、運用上このような高高度を飛ぶ航空機など存在しない。

 しかも可視光による目視の延長線上の敵性兵器を感覚でつかめる徹攻兵にはステルス加工など意味を成さない。

 つまり、万が一航空優勢を奪われても、十分な第三世代徹攻兵を配置できれば、国防はできる。

 数千万ユーロ、数億ユーロでも完璧とはいえない国防の絶対線を、徹攻兵は維持できる。

 私達の習熟にはね、国家の中心からの願い。

 平和の維持と民族自決の自由の維持を守りたい、それだけの願いが込められているのよ」

 そこまで語るとセテーは、今一度胸の前で、パン、と手を打ち。「さっみんな、着甲しよう」と促した。

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