第028話 イズモスポーツ
・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生
・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生
こうして目的の買い物を終えると、イズモスポーツのフラッグシップショップに足を踏み入れた。
ただの試着だけしかしないと思うと、リーエはおずおずとしてしまったが、チーヤは胸を張って元気よくアンダーウェアのコーナーに進んでいった。
チーヤが女性店員に声をかけると、「ブラの試着ですか?
それではまず、サイズを計りましょう」と声をかけてくれる。
試着室は広くて、店員と二人で入っても窮屈じゃない。
店員が採寸しながら呟く。「アンダーが六十二センチ、トップが七十六センチ。その差十三センチ。
Bの六五がいいと思います。
うちの商品、アンダーバストがかなりしっかりとできていて、その分余裕がないんです。
Cの六〇よりBの六五の方がすっきり使えると思います。ちょっと今、両方持ってきますね」
店員が、カーテンを細く開けて出て行くと、代わりにチーヤがのぞき込んでくる。「どうだった」
リーエがおずおずと答える。「Cの六〇よりBの六五の方があってるはずだから、両方試着してみて、ですって」
チーヤが顎を右手の親指と人差し指でつまみながら呟く「Cの六〇とBの六五かあ、なるほど」
そう、チーヤが感心していると、店員が戻ってくる。「お待たせしましたー。
先にCの六〇を試着してもらえますか?」
いわれるがままに着けてみるが、確かに、アンダーバストが窮屈で、やや、息苦しさも感じる。「ちょーっと、慣れるまでに時間がかかりそうです」
店員がなめらかにトークする。「そうですよね。うちの商品はアンダーバストからサイドボーンを通ってバックベルトに至るまで、全て、そこの贅肉を逃さずカップに収めるコンセプトでできているんです。
その分、アンダーバストの締め付けがきつくなってしまっていまして。
次は、こちらの、Bの六五をつけてもらえますか?」
リーエがいわれるままにブラを交換して着けてみる。「あ、軽い」
店員が我が意を得たりとばかりに続ける。「ですよねー。
胸の下がずいぶん軽くなったと思います。
とはいっても、六十五センチのアンダーバストを支えるだけの強度はあるので、補正効果は十分保たれています。
リーエが軽く二、三飛び跳ねてみる。「何だろう、カップが形を保ってくれて、揺れすぎない感じがします」
店員が続ける。「そうですね、バストは、カップの中のクーパー靱帯によって支えられていて、一度延びたり切れたりしたクーパー靱帯は再生されないんです。
なのでうちのブラはカップ自体を圧迫させるのではなく、激しい動きでも、カップ自体を動かさないコンセプトで作られています」
リーエは説明を聞きながら、これはもう買うしかないのではという気後れを背負い込みつつ、試着室のカーテンの隙間から顔だけ出しているチーヤを振り向く。
チーヤはなんでも無い事のようにいう。「そうね。
ずいぶんあなたに合ってるみたい。
でも、他も試着してから決めましょう」
すると店員は胸ポケットから自分の名刺を出してきて、「二〇二五年十二月二十日、F.V様、B65」とメモをして渡してくれる。「バストサイズは、季節でも変わることもありますので、次ぎに来ていただけるのが半年空いてしまうようなら、採寸から改めてやらせてください」
リーエは、さすがフラッグシップショップ、店員の教育も行き届いているんだな-、と妙なところで感心してしまう。
用が済んだら、退散するに限る。
リーエはチーヤに手を引かれて、イヅモスポーツのお店を後にした。
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