第025話 献身
・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生
・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生
・ヴィセ:十八歳、リーエの同室、一年生
実際の所、チーヤの献身ぶりは度を超えたところがあった。
同じ着甲科の生徒であればこそ、訓練の曜日や時間帯が重なることはあったが、リーエの入浴時刻がたとえ深夜になっても、SNSのチャットで、入浴を示すイラストがリーエから送信されてきたら、チーヤは厭うことなく二一六号室に馳せ参じた。
深夜のフロア移動で他の生徒を起こさないようにするために、ゴム底のしっかりしたビーチサンダルも購入し、できるだけ隠密にしかしできるだけ早く移動してきた。
チーヤは、二一六号室のドアをノックすると「チーヤです」とかすれた声で呟く。
すると、ヴィセが鍵を開けて招き入れてくれる。
ヴィセも時々「私でもできますよ」と声をかけてくれるが、チーヤは聞き入れない。「ヴィセには朝食をお任せしちゃっているからねー」の一声であった。
ベッドに座った格好で倒れ込んでいるリーエを横目に、ベッドの足下側に据え付けられたクローゼットの引き出しを開き下着類を、そして別の引き出しからパジャマを出す。
ベッドに寄り添うと、少し震えているリーエの肩にそっと指を這わせる。「リーエ、起き上がれる」
リーエがゆっくりと体を起こしてくると、ちょうどベッドに座った格好になる。
着甲時とは全く違い、おどおどとした瞳を床に落としてチーヤと目が合わないようにしている。「ごめんねえチーヤ、ほんとごめんなさい」
そういうと瞳に小さな涙を浮かべる。
チーヤは何でもないことだという優しげな表情で首を横に振る。「いいのよ。
私達、シュベスターなんだし、病気のせいだってわかっているから。
歯磨きは済ませた?」
リーエは小さくうなずく。「歯磨きは、お湯に浸かる前に済ませられるから。
でも、お湯に浸かるとどうしても、体があったまると、動けなくなっちゃって」
リーエは、チーヤが膝上まで上げてくれたショーツを、腰を浮かして履き込む。
次いで、両腕を前に突き出してくる。
それも、なんだか弱々しく、手首から先は垂れ下がった格好だ。
そこにチーヤがスポーツタイプのブラジャーを差し込むと、頭もさげてくるので、チーヤがそのまま背中の方まですり下げて着込ませる。
次いで、チーヤが膝上までパジャマのボトムスを引き上げると、リーエがお尻を浮かせて腰まで自分で履いてみせる。
あとは、パジャマのシャツ部分の両袖を通させると、チーヤがボタンを留めてあげる。
ここまで済ませたら、静音モードのあるドライヤーで髪を乾かす。
少し、時間がかかるが、これが朝のヴィセの負担を下げると思えばこそ、しっかりとやりきらないといけない。
チーヤが呟く。「よし、できたっと。
これでさらさら」
リーエが小さく頭を下げる。「ありがとう」
チーヤがささやくように小声でたずねる。「ピルケースはどこ?」
リーエが枕元からピルケースを取り上げ、曜日ごとに分けた睡眠薬を手に取る。
洗面台のリーエのコップに水をつぐと、ベッドの横まで持ち寄る。
リーエは、チーヤからコップを受け取ると、睡眠薬を飲み下す。
チーヤはそこまで見とどけると、微笑みながら「おやすみ、リーエ。
ヴィセ、明日の朝食もよろしくね」といいのこし、二人からの「おやすみー」「おやすみなさい」の声をあとに、二一六号室を出る。
これを、ほぼ毎晩、特別な事情でもない限りヴィセに任せず、かいがいしくこなしていく。
朝食は、朝のばたばたもありヴィセにお任せしているが、昼食と夕食のほとんどをチーヤが対応している。
ヴィセとしても、同室のよしみとしてなんだか申し訳ない気もするが、チーヤが「これもシュベスターの務めとしてやっていることだから」と聞き入れない。
それでもヴィセの目からみるとまるで、
病気の恋人をかいがいしく看病しているみたいだよなー、
と感じるところがあった。
そんな、リーエやヴィセの遠慮とは別の所にチーヤの心配事があった。
リーエの下着のサイズの問題である。
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