第022話 市街化地区訓練

・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生

・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生

・ファラー:十九歳、背の高い一年生



 二〇二五年の十二月に入って間も無いその日、王立女子士官学校の市街化地区を使って、王立国防軍歩兵中隊と、着甲科の訓練が組まれることになった。


 歩兵側は、二個中隊四百人と、王立女子士官学校の歩兵科生徒百人の総勢五百人。

 半数が市民側の役割を担い、半数が、市民が銃器を手に取ったテロリストの役割を担う。

 歩兵側の最終目標は徹攻兵の無力化。


 それに対して徹攻兵側の最終目標はテロリストの全滅と市民の安全の確保。

 双方ペイント弾を使うとはいえ負傷者を出すのが目的ではない。

 歩兵側のテロリスト役は鉄帽やゴーグル、防弾ベストを着込んでおり、事実上の歩兵と変わらない。

 また、市民役も流れ弾を考慮して、ゴーグルと防弾ベストを着込んでいる。

 ただし、上からダウンジャケットなどを着込み外見からの見分けは付きにくい。


 これに対し王立女子士官学校側は一年生の訓練慣れの意味もあり、一年生で出力の高い順から、リーエ・九十パーセント、ケテヤ・四十五パーセント、ミーエ・四十パーセント、ゼチヤ・四十パーセントが選ばれ、小隊長役はファラーが選ばれた。

 当然、二年生、三年生、四年生の着甲科の生徒もみており、王立国防軍からは、正規の着甲科からもオブザーバー役が複数派遣されている。

 この訓練は、今後の評価にもつながる。

 テロリスト側はある程度組織化されており、市街区全域を支配下に置いている想定で、四人の徹攻兵で六二・五倍のテロリストの無力化を計りつつ、市民の安全の確保が求められる。

 市民側に被害者を出せば減点の対象となる。

 テロリスト側は出力の高い機関砲も持ち出してきており、小銃弾のペイントは黄色、機関砲のペイントは緑となっている。

 機関砲のペイント弾が二弾、同じ箇所に着弾すれば、その徹攻兵は無力化されたと見なされる。

 一方、市民が巻き込まれている想定から、徹攻兵側は小銃擲弾、手榴弾、催涙弾の使用はできず、実のところをいえばこれは訓練というより、練度と出力の高い徹攻兵をフランスに取られているゼライヒ女王国が、残された徹攻兵勢力で、首都の非常事態にどこまで対応できるかの摸擬戦の想定でもあった。

 その意味で、練度がまだ十分とはいえない一年生をつかって、どこまでできるかを計る目的もあった。

 

 王立女子士官学校の市街化地区は大きく四タイプに分かれていた。

 中層ビル群、商業地区、高所得住民街、低所得住民街である。

 この順番に、出力の高いものから担当することにした。

 徹攻兵側は、リーエがアルファワン、ケテヤがアルファツー、ミーエがブラボーワン、ゼチヤがブラボーツーを名乗ることにした。

 

 歩兵側の準備は日中から行われ、徹攻兵側の攻撃は日没後に開始された。

 四人、四様のスタイルを取った。

 

 低所得住民層、いわゆる、スラム街に近い地区から攻めたゼチヤは、建物の影から影に身を移し、部屋の一つ一つを確かめるように開け、テロリストの手足にペイント弾を当てると、拘束バンドで両手両足を結束してから次の目標へと移っていった。

 

 高所得住民街を担当したミーエは、跳躍してバルコニーからベッドルームをノックし、住民側からテロリストがキッチンにいるなどの情報を受けて、一気にキッチンに押し入り、ボディアーマーにペイント弾を当てるなどして無力化につとめた。

 

 商業地区を担当したケテヤは、わざと姿を現し、看板や物陰などを攻撃して、反撃が来るとそちらに対して狙いを定め、やはり手足などを狙ったあとに、拘束バンドで結束して無力化した。

 市街地には機関砲役もいたが、これは配置が予測され、二発ほど異なる位置に受けてしまったが、その後の反撃で手足を狙ってペイント弾を当て、拘束バンドで両手両足を結束して無力化した。

 

 中層ビル群を担当したリーエは、一番派手な動きだった。

 人の多く集まるオフィスを占拠されたことを想定し、その、優れた聴覚で人のいる部屋、いない部屋を聞き分けると、ドアを蹴破って踏み込み、驚いて立ちあがってきたテロリスト役に正確に二発、ヘッドショットを入れて無力化して見せた。

 ドアの壁面に潜んでいたテロリストが後側、視界の外側から狙ってきたものも、振り返りもせずに最小限の動きで狙いを外すと、視界は市民役の安全確保の確認をしながら、振り返りもせずに片手撃ちのヘッドショットで無力化した。

 ヘッドショットは必ず二発ずつ入れるので、一番弾倉の減りが早かった。

 リーエのドアを蹴破る踏み込みに、慌てて室外に飛び出したテロリスト役も逃すことはせず、室内のデスクをなぎ払うように突進すると、窓から屋外を狙える位置を確保し、数十メートル離れたテロリスト役をヘッドショットで無力化した。

 そのうえで、窓側に身を寄せる。

 すると、小銃を構えても背負ってもいない要員が、ヘッドショットを受けて無力化を演じている死体役の両脇に手を入れ、道路脇に移動させようと支援している。

 これをみたリーエは躊躇なく支援要員の胸に三発のペイント弾を撃ち込む。

 こうした踏み込み方を繰り返して建物内を屋内側からくまなく捜索すると、高層階で機関銃を向けてくるテロリスト役が現れた。

 これも、銃身の向きを見極め、最小限の動きで躱すと、ヘッドショットで無効化してみせた。

 効率良く回るので、最も早く七十人近い適性兵力を無力化すると、ファラーに連絡を入れる。

 「こちら、アルファワン。

 この地域の適性兵力の無力化に成功したものと思われる。

 適性兵力の残存する地域への支援に回りたい。

 具体的な支援地域の指定を希望する。

 オクレ」

 ファラーが返答する「こちらチャーリーワン。

 ブラボーツーの担当する市街化地域の無力化が完了していない。

 地図情報を送るので速やかに移動されたし。

 オクレ」

 「こちらアルファワン。

 チャーリーワンに告ぐ。

 地図情報の確認をした。

 移動を開始する。

 了解」

 リーエはここまで確認すると、今度はゼチヤに連絡を入れる。「こちらアルファワン、ブラボーツー、聞こえるか。

 オクレ」

 ゼチヤは成績優秀のリーエからの通信につい緊張してしまう。「こちらブラボーツー。

 通信状態は良好。

 オクレ」

 「こちらアルファワン。

 そちらの担当地区の進行状況を確認したい。

 現在までに無力化した概数は把握しているか。

 オクレ」

 「こちらブラボーツー。

 現在までに無力化した数は四十人ほどと想定される。

 なお、捜索と無力化を続行中。

 オクレ」

 「こちらアルファワン。

 ブラボーツーの潜入した南東方面の対角、北西方面より進入する。

 オクレ」

 「こちらブラボーツー。

 了解」

 ここでも、リーエは激しかった。

 小屋のような建物が並ぶ中、外からの聴覚で内部に人がいる部屋を確認し、人がいることがわかるとアルミサッシの窓を打ち壊し、片手小銃でヘッドショットにより無力化する。

 屋根に、機関砲を構えたテロリスト役がいることに気がつくと、跳躍しテロリスト役よりも高い高度からヘッドショットで無力化する。

 こうして、瞬く間に二十五人ほどのテロリスト役を無力化すると、ゼチヤの無力化も奏功し、地区の掃討を終える。

 その頃には商業地区を担当したケテヤ、高級住宅街を担当したミーエも掃討を終える。

 ファラーが宣言する。「現在フタマルヒトハチ、徹攻兵、対テロリスト制圧を完了」

 訓練は、王立女子士官学校の徹攻兵側の完全な勝利で一旦の終了をみた。

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