第013話 「お休み」
・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生
・ヴィセ:十八歳、リーエの同室、一年生
一般生徒と異なる時間軸で生活を続ける、王立女子士官学校の徹攻兵達にも、スケジュールはある。
夜間、誰もいないトラックで、走行訓練をしたり、ペイント弾を使った摸擬市街戦当で、お互いの反応を高め合ったりしている。
そして二十五時まで訓練を続けると引き上げる。
そこから装甲服を脱いで普段着に着替えてとやっていると、あっという間に三十分くらい経ってしまう。
同室の二人、洗面室と浴室を使い分けながら寝支度をしているとやっぱり三十分くらい経ってしまう。
結局、大急ぎでベッドに潜っても夜中の二時ということになる。
先にシャワーを浴びたヴィセが歯を磨き、髪を乾かしていると、サッパリとシャワーを浴びてきたリーエがバスタオルで髪を拭きながら出てくる。
ヴィセがドライヤーを一度止めてたずねる。「使う」
リーエが答える。「えへー、先に歯磨きは済ませてもらったし、もうこのまま寝るねー」
そのまま頭をタオルドライすると、丸裸のままベッドに入り込んでしまう。
ヴィセが驚く
え。
なにも着ないの。
それじゃ朝起きたら髪ぼさぼさだよ。
恐る恐るヴィセが話しかける。「リーエ、寝ちゃうの」
「うん、寝ちゃうよー」
「パジャマとかは」
「着ないー」
「よくないよ」
「えへー。
そうだよねー。
でも、いつもこうだから」
ヴィセも、これが鬱ってことなのかぁ、と頭では理解したが、心ではお節介心が目を覚ます。
「だめだよ。
ここは軍隊なんだよ。
最低限の身だしなみは整えないと」
「えへー。
わかってるんだけどねー。
ぼーっとしちゃって」
「まかせて」
ヴィセはリーエのクローゼットに向かうと、「悪いけど、開けるよ」と一声掛けて引き出しを開ける。
下着とパジャマを見つけるとリーエのベッドに向かう。
「リーエ、起きて」と、リーエの肩をゆらす。
リーエが「ごめーん」といいながら体を起こすと、パンツをはかせてあげ、ブラをつける。
細い、を通り越してやつれた体にブラは必要ないかも知れないが、こういう一つ一つのことが、やがてリーエの身に役立つと考えてブラもかぶせる。
そしてパジャマ。
冬用の、厚手のパジャマを着せると、襟元までボタンをしめる。
「ボタン、一番上は開けておく?」
リーエが手を動かす。「うん、そうだねー。
それくらいは自分でするよ」
ヴィセはリーエの手を引く。「そしたら、髪を乾かすよ」
リーエが素直に返事する「はーい」
リーエの肩の高さに切り揃えたプラチナブロンドの髪をドライヤーで手早く乾かす。
ヴィセが呟く。「これで、よし」
すると、リーエがヴィセの手を握ってくる。「ヴィセ、手間を掛けてごめんなさい。
でも、ありがとう」
そして二人、就寝する。
すると、それまでだらだらしていたリーエが、自分の荷物から、クリップライトを取り出してくる。
「ヴィセ、わたし、完全に真っ暗だと眠れないの。
そっちに向かないようにするから、常夜灯、つけていてもいい」
ヴィセが微笑む。「まぶしくないよ」
チーヤが安心する。「ありがとう。
お休みなさい」
「お休み」
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