第011話 ヴィセ
・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生
・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生
・ヴィセ:十八歳、リーエの同室、一年生
単位は、同室のヴィセと揃えた方が、なにかと行動を共にすることになるし、足りないところも補えるとして、ヴィセと同じ単位を組むことにした。
ヴィセが語る。「とはいえね、徹攻兵の必修単位は、徹攻兵としての出力によるところが大きいんだけれども。
ちなみにリーエは出力試験で何メートル飛んだの」
リーエは、その意味を知らずに答える。「たしか、九メートル越えっていわれてました」
それを聞いてチーヤとヴィセの顔色が変わる。
チーヤがたずねる。「嘘でしょ。
初着甲で九メートル超えたの」
ヴィセも驚く。「一年生の出力じゃないわー」
リーエが慌ててたずねる。「どういうことなんです」
チーヤが答える。「徹攻兵の装甲服にはレベル、というか世代があって、学士号をめざす私達が身につけるのは第一世代型の、ASー01になるの。
その、ASー01の垂直跳躍の最高値が十メートルで、四年生までにそこまでをめざすのが私達の主任務なのよ。
リーエはすでに、四年生レベルってことになるわ」
ヴィセが顎に拳を当てて呟く。「こりゃ、リーエ相当苦労するわー」
リーエがたずねる。「どういうことです」
ヴィセが答える。「だってこういっちゃ何だけど、講義ではなかなか付いていくのもしんどくなるだろうし、慣熟訓練ではみんなのお手本になるだろうし、やっかみが激しくなりそう」
チーヤが答える。「そこは私も協力するから、お互い、上手に過ごしていきましょう」
リーエが考えながら話し出す「はい。
私にもできることがあるなら嬉しいです。
で、そのー、鬱病のことなんですけれども」
チーヤもヴィセも、まじめな顔でリーエの話に耳を傾ける。
「えへー、起きられないことはないんです、起きることができても、悲しいというか、怖いというか、どうしていいかわからない気持ちがうわっと押し寄せることがあって、そういうときは、ベッドに潜ってただひたすら寝て、その怖い時間をやり過ごすしか無い事もあります。
でも、これは、最近飲んでいる薬のお陰で大分落ちついているんです。
ただ、もう一つあって、普段から頭の中にもやがかかっている感じなんです」
チーヤがたずねる「もや?」
「はい、なんていうか、半分睡魔が来ているというか、話半分に聞いてしまっている時があって、こういうことで、さっき同じ事言ったでしょ、っていうことがあるかも知れません。
そこは本当に申し訳ないんですけれども、本人としてもどうしようもなくて」
ヴィセが答える「わかったわ、何となく、一緒に過ごしていくことで私も慣れていくようにする」
リーエが続ける「ただ、着甲した時は、体が軽くなると同時に、そのもやがふわっと晴れたんですよ。
なにもかもをクリアに聞き入れることができて、なので次ぎ着甲した時も実は期待しています。
しっかり、できるんじゃないかって」
チーヤが考えてみせる。「学校を通じて、他国に鬱病の徹攻兵がいないか照会してみようかしら。
なにか、手がかりが見つかるかも知れない」
リーエが、期待に目を見開く。「お願いします。
軍隊に、鬱病の兵士なんてそぐわないと思うのですが、私も頑張りますので」
ヴィセが割り込む「リーエ、そんなに無理しないで、私達は最低単位を取ることを目的に頑張りましょう」といってくれた。
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