第010話 シュヴェスター

・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生

・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生

・ヴィセ:十八歳、リーエの同室、一年生



 リーエは顎に人差し指を当てながら首をかしげる「シュベスター?

 ドイツ語で姉妹の意味でしたよね」

 チーヤが答える。「普通は、リボンの色と八端十字架の色は同じでしょ?

 でも、シュベスターの契りを結んだ二人は義理の姉妹ということで、八端十字架を交換し合うの」

 そこまでチーヤが話したところでヴィセが助け船を出す。「昔はね、先輩後輩の仲を示す習慣として、大勢のシュベスターがいたらしいの。

 だけどだんだんと、不出来な下級生と、責任を取らされる上級生という見方になっちゃってね、廃れちゃったんだって」

 そこまで聞いてリーエが納得する「あー、なるほど。

 私がだらしないとチーヤさんが怒られるんですね」

 チーヤが言葉を選びながらいう「そういうことだけじゃないの。

 ただ、病気のこともあるし、直接あなたになにかあるより、伝える先があった方が、周りも、指摘しやすいじゃない。

 だから、どうかな、って」

 リーエは笑顔で答える。「私はありがたいです。

 私にとってはありがたいお話しなんです。

 ただ、チーヤさんにだいぶその、迷惑を掛けてしまう、と」

 チーヤは胸に拳を当てて応える。「そこは任せて。

 同じ徹攻兵として、私、優等生で通ってますから」

 リーエは左手の上に右手の拳を置いてうなずく。「なるほど、優等生の先輩に、劣等生の後輩の指導を任せる制度なんですね」

 そこまで聞いてヴィセが笑う。

 チーヤは慌てる。「ほんと、本来のシュベスターはそういうことじゃないから。

 ドイツ語だけど、das Maedchenherz乙女の心臓を読んでもらえると、もう少し、姉妹の関係が慈しみ深いものってわかってもらえるんだけど」

 リーエは答える。「とにかくわかりました。

 私としてはお断りする理由もありませんし、チーヤさんと姉妹の契りを結ばせていただきます。

 ただ、どうしてチーヤさんはそこまでしてくださるんですか」

 ヴィセは笑ったままだが、チーヤは斜め上に目線を上げる。「それには色々ありましてー。

 おいおい話しましょー。

 ともかく、これでお互いのクロイツを交換しましょう」

 そういうと、チーヤは首に提げたクロイツを外す。

 チーヤは着替えてしまっているので、クローゼットにしまっていたクロイツを渡す。

 ヴィセがいう。「これで、校内のみんなにも、あの二人は姉妹なんだって伝わりますね」

 チーヤが続ける。「そういうわけだから、私服の時にも、なるべく八端十字架は下げていて欲しいの」

 「わかりました、こうですね。

 こうして、チーヤの赤の十字架がリーエに、リーエの紫の十字架がチーヤに、それぞれの胸元を飾ることとなった。

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