第006話 必用な人材
・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生
・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生
・ヴゥツフギンヘツ:王立国防軍の採用担当者
王立女子士官学校の事務室で、受付に出た女性は、「王立女子士官学校に入学するには、大学進学証書が必用です。
大学進学証書のない入学は認められません」と返してくる。
これに対して、チーヤが反論する。「違います。
彼女は徹攻兵でこの学校に必用な人材です。
今回は特例で、国防省のザキ・ス・ウェン支庁人員受付課徹攻兵徴収受付係ヴゥツフギンヘツさんより特別入学許可証を発行されました。
これは国防省からの指示であり、王立女子士官学校として受け付けなければならない命令です」
受付の女性は、チーヤの気迫に少しひるみ、「少々お待ち下さい、今国防省に問いあわせてみます」と答えてきた。
アトリウムには、人々がくつろげるソファがいくつもあり、そこに腰掛けながら二人、手続きを待つ。
リーエは正直不安そうな顔を隠さなかったが、チーヤはにこにこと落ちついていた。
「リーエ、心配?」
「えへー、やっぱり私なんかがこんな立派なところにくるなんて場違いかなー、なんて」
「リーエ、あのね、もう聞いているかも知れないけれども、徹攻兵は本当になり手も少なくて、出力を上げるのもむずかしい能力なの。
でもね、歩兵の戦いを変えてしまう素晴らしい能力の持ち主でもあるの。
あなたがその能力を示してくれたことは私にとっても嬉しいことだったし、ヴゥツフギンヘツさんも大喜びだったのよ。
そして国際機密事項である以上、ここでしか扱えないの。
あなたはもう立派なここの生徒。
手続きはちょっと遅れちゃったけれどもね。
だから安心して」
リーエは一息入れた表情でたずねる。「えへー。
チーヤさんはなんでそんなに親切にしてくれるんですか?」
チーヤは、一度顔を下に向け、左の眉毛を二、三回かいてから答える。「それには色々ありましてー。
おいおい話しましょー」
しばらくしてアトリウムの事務室から受付の女性が出てくる。「お待たせしました。ファゾツリーエ=ファンベーチハ・ヴツレムサーさんの入学が正式なものであることが確認できました。学籍番号は二五一一二六番、こちらが学生証です。
先に渡してあったアイデンティティカードにもICに学籍番号が記録されている。
真新しい、コピー防止にホログラムの入った学生証を手にして、リーエの顔が明るくなると、チーヤも喜んだ。
チーヤが当たりを見渡す「さてと」
リーエがたずねる「どうしました?」
「いつまでもダウンジャケットとダウンパンツでいるわけにも行かないでしょー。どうして制服着てこなかったのよ」
リーエが気まずそうに答える「えへー、ネクタイの締め方、もうわからなくて」
「ちょっと空いてる部屋を見つけて、さっさと着替えましょう。
持ってきてるわよね」
「はい。
もちろんです」
二人は、校内を見学がてら、ちょうど誰もいない講義室を見つけて中に入る。
ダウンの上着を脱いでもらうと、中に、もこもことした中着を着ている。
チーヤの唇がへの字口になる。「うーん、制服からはみ出すものは全てだめなの」
リーエが中着も脱ぐと、長袖の下着を上にも下にも着ている。
「上は、袖がシャツの袖から出なければいいけど下はタイツまでね。
それも普段だけ。
行進の練習がある時はベージュのストッキングまでしか認められてないわ。
そこまでリーエが脱いだところで、リーエの体格がわかる。
肩胛骨もあばら骨も大きく浮いていて、腰骨も出張ってしまっている。
顔の肌も正直張りはなく、ほほの骨が浮いて見える。
チーヤとしても
こんなにやつれちゃって。
と思わずにはいられない。
それでも、要所要所に防寒対策のしてある制服を一から着けていく。
ネクタイと八端十字架の釉薬の色は学年で決まっていて、チーヤの二五〇期は赤、リーエの二五一期は紫、と決まっている。
「ネクタイの部分はこうして蝶結びを緩くしてから形を整えて、左右の下がっている部分を合わせるのに時間がかかるのよね」
できた、でも
ほっそ。
というのがチーヤの正直な見立てだった。
リーエは、少し恥ずかしげにはにかんで立っている。
チーヤは全体の様子も見たくて「リーエ、ちょっとその場で回ってもらえる」とお願いをする。
リーエが右回りに回ると、腰のスカートが軽く開いて見える。
肩の高さに切り揃えた、プラチナブロンドの髪と、翡翠を思わせる瞳の色が美しく、それだけに肌の張りのなさが一層寂しく見える。
チーヤははにかんでいった「悪く無いじゃない。
リボンの結び方は何度も練習してね。
さて、そろそろお昼の時間だから食堂に行きましょう」
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