第004話 電話番号
■登場人物
・リーエ:二十一歳、鬱病に苦しむ徹攻兵、一年生
・チーヤ:十九歳、リーエの案内役、二年生
リーエは十五歳の時、鬱を発症してまともに学校に通えなくなった。
とにかく、寝こんでしまうのだ。
治療の一環として、いつでも横になれるよう、病室が与えられ、病室から通える位置に教室が設けられ、勉学に取り組むことになった。
同じ境遇の子達と患者着のまま勉強に取り組む日々、しかし、肝心な新しい考えを取り込もうとすると強い睡魔に襲われてしまう。
そして病室へ、そのくり返し。
自分に悔しくて、何とかしたいと思っても、そもそも起き上がれない日もあれば、起き上がれたとしても、前回どこまでやったっけと復習している間に時間が過ぎてしまう有様。
結局、高校生としての単位を全うすることができず、高校卒業証書、すなわち大学進学証書は手に入らなかった。
両親とも相談し、職業訓練に取り組むことにした。
しかしこれも、順調な道のりではなかった。
訓練にも、必ずしも十分に取り組めるとはいえなかった。
なにより訓練の成果としては、労働することが求められ、労働とは、決まった時間に決まった処理をすることだった。
それができない鬱の有様ではとにかくどうしようもなかった。
四月のある日、カウンセラーと相談している時に、たまたま、テーブルの上に広がっていた「来たれ若人」というリーフレットを見つけた。
リーエも何となくたずねた。「これは何です」
カウンセラーは気を使いながら答えた。「これはあなたにはちょっと適性が遠いかな。
国防軍の募集のリーフレットなのよ。
一と昔と違って今時徴兵はないでしょ。
どこの部隊も、人集めには苦労しているみたいね」
そのリーフレットの裏に、誕生日が敷き詰められたリストが載っていた。
リーエが読み上げる。「この誕生日の方は是非この番号に連絡を」
リストの一箇所を指さすと「これ、私の誕生日です」と答えた。
カウンセラーは苦笑いをした「軍役はそれこそ、自分の時間なんてなくて全て部隊の行動に従う過酷なものよ、たまたま、誕生日が同じだけで取り組むことはむずかしいわ」
リーエは「はあ」と答えたが、番号を覚えた。
というより、わざと分かりやすい番号が選ばれていた。
携帯端末なんて、同じ病室だった何人かとしか、それも、お互いの調子のいい時だけ短時間やり取りするだけのものだったが、例の番号に掛けてみた。
「はい、王立国防軍ザキ・ス・ウェン支庁人員受付課担当です。
いかがなさいましたか」
リーエはいささか必死だった。「あの、リーフレットみました。
私の誕生日が載っていて電話しました」
相手の女性は冷静だった。「失礼ですがお名前と、生年月日を教えて下さい」
「名前は、ファゾツリーエ=ファンベーチハ・ヴツレムサー。
生年月日は二〇〇四年八月××日です」
「失礼ですが、現在のご職業は」
「無職です、その、勤務経歴を持っていません」
「そうすると、時間に余裕があります?」
「あります。」
「その、もしかして、今どちらにいらっしゃいます、お時間ございます」
「えーと、はい、あの、ラーリエの丘の辻から架けていまして、移動出来ます」
「素晴らしい。路面電車でグロリクの駅からコロフェフィル行きに乗って下さい。
そして官庁街第二降り場で降りたら、国防省に来てもらえますか。
ファゾツリーエ・ヴツレムサーさん、生年月日は二〇〇四年八月××日で間違いないですね」
「はい」
「国防省の窓口で、ナムリーン・ヴゥツフギンヘツをお呼び出し下さい」
「わかりました」
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