第003話 庭園
チーヤに先導されてリーエが中門をくぐると、庭園が広がっていた。
良く刈り込まれた木々と、折々の花が飾る庭園は、いかにも女子の通う学校を思わせた。
その北側には大きなドームを掲げる円形建築のアトリウム、そしてその北側に校舎。
アトリウムの東側には八端十字架を尖塔上に掲げた正教会の教会が、アトリウムの西側にはゼライヒ古来の石材建築を凝らした聖堂が用意されていた。
チーヤが説明する。「アトリウムの右側が教会。
左側が古来の神々を奉った聖堂。
フィフェムム・
一体何の神様を信じているのだか」
チーヤの何気ないひとことだったが、リーエが少し沈む。「神なんていません。
鬱病で散々それがわかりました。
いるのはおぞましいなにかで、神には結局、何一つ助けてもらえませんでした」
チーヤは、優しくリーエの肩に触れる。
「あなたがそういうんだからそうなんでしょうね。
でも、なにか一つでも、リーエにも希望を持って過ごしてもらえたら素敵だわ」
リーエも、チーヤの顔を見上げる「えへー、そうですね。
そのためにもこの学校で頑張ります」
チーヤが話を変える。「ところでこの庭園、歩きづらいと思わない」
リーエも答える「はい、小さな段差がいくつもあるし、なんだか無駄に曲がりくねっているし、折角きれいに整えられた庭園なのに、なんだかわざと使いづらくしているような」
チーヤが喜ぶ。「正解。
まず一つあなたは軍事を学んだわ。
今度時間のある時、アトリウムの上から眺めるといいわ、この庭園は、平地で塹壕戦を展開する時のサンプルになっているのよ」
「えー」
「ね、王立女子士官学校に入学した気になれたでしょ」
「こんなに手の行き届いた庭園が、戦場のモデルだなんて」
リーエが得意げに話す。「ここはこの国唯一の士官学校、王立女子士官学校。
その全てがこの小国を周りの大国から守るための士官を育てるために用意されているの」
そしてチーヤの案内で要領良く庭園を抜けると、アトリウムに進み事務受付で手続きを取る。
事務の女性から「大学進学証書は?」とたずねられる。
リーエは。「ありません」と答える。
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