ただの人間だ
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──ただの人間だ
少数民族の軍閥。その指導者に近づいていく羽地たち。
パトロールのテクニカルをやり過ごし、対空陣地を確認し、第403統合特殊任務部隊司令部と共有している
後でこの情報は輸送機の着陸地点を決めるための重要な情報になる。
航空偵察は行われているが、種族差別的軍閥が地対空ミサイルを保有しているため、迂闊にドローンを送り込めないのだ。シェル・セキュリティ・サービスはステルスドローンなど保有しておらず、昔ながらのターボプロップ機が活躍している。
『前方。洞窟入り口を視認。歩哨、4名。光源あり』
『排除して前進する』
光源は毎度のようにドラム缶に木材を突っ込んで燃やしているものだが、それでも無視はできない。夜の闇を裂くものには用心しなければならない。少数民族の軍閥であろうとその数は羽地たちの何倍もの規模なのだ。
『レオパードよりジャガー。七海を連れて配置に付け』
『ジャガーよりレオパード。了解』
八木が七海を連れて配置につく。
『3カウント』
3、2、1。
4人の歩哨の喉笛が掻き切られ、腎臓が滅多刺しにされる。
この手のナイフの取り扱いが得意なのは七海だ。八木が彼女にナイフの使い方を徹底的に教え込み、七海はデータベースでの自己学習の成果もあって、ナイフの達人になった。今では羽地や八木よりも上手にナイフを使う。
『クリア』
『クリア』
周辺に敵影なし。死体を引きずって茂みの中に隠す。
『洞窟内だが、マイクロドローンはあまり使えない。あれに暗視装置はない。衝突防止のためあの動体センサーはあるがそれだけだ。先行させるが、索敵は必ず君の目で行ってくれ、アリス』
『はい、先輩』
アリスの多目的光学センサーは視神経介入型ナノマシンの補正する暗闇の光景よりもはっきりと周囲の景色を映し出す。熱赤外線ヴィジョンにも切り替えられるし、従来の可視光増幅方式のナイトヴィジョンにも対応している。
だからこそ、羽地たちはアリスをポイントマンにしているのだ。
『では、突入。射撃は慎重に行え。まだ大騒ぎを起こしたくはない』
羽地たちは音も立てずに洞窟の内部に進入する。
静穏性軍用ブーツはどんな地面だろうと足音ひとつ立てない。足の重みを丁寧に分散する仕組みができている。それからトラなどのネコ科猛獣の足の裏を参照したバイオミメティクスによって、足音が立たないようになっている。
マイクロドローンが先行するが映る情報は暗い。
流石にマイクロドローンに暗視装置を搭載するまでのことはできなかった。ただ、周辺の音の変化から動体を識別する動体センサーによって、ドローンは衝突を避けるようになっている。
壁などの動かない障害物は羽音の反響で把握する。
自動的にドローンは進んでいき、最低限の情報を寄越してくる。
『警戒。敵歩哨2名』
『迂回はできない。排除して前進する。周辺に他に敵は?』
『視界範囲内にはなし』
『了解。ここもナイフで片付けよう。3カウント』
3、2、1。
喉笛が切られ、腎臓にコンバットナイフが数回突き立てられる。それから持ってる武器を落とさないように受け止め、眠っている用に死んだ兵士を洞窟の壁にゆっくりともたれかからされる。全く音はしていない。
銃の弾は温存したいし、銃を使って殺すと相手が武器を落としてその音が響く。それは
『クリアだ。先に進む』
再びマイクロドローンとアリスを先頭に羽地たちが進む。
一本道のため迂回できず、何名もコンバットナイフで始末することになった。
『下に降りるロープです』
『面倒だな。俺が先行する。アリスは上から援護してくれ』
『了解』
羽地はロープの強度を確かめるとそれでは強度が不足することから、持参したパラコードを固定してそれで下に降下した。パラコードはプラスミドDNAを利用して遺伝子組み換えした大腸菌が製造した蜘蛛の糸を利用している。この手の製品は2020年代には既に誕生していた技術であり、より強固になるように、より大量生産できるように遺伝子組み換えが行われている。
軍閥の兵士はいない。ただ、遠くに微かに光源がある。
『クリア。降下してきてくれ』
『了解』
羽地のパラコードを使ってアリスたちが降下するのを羽地が援護する。
『前進再開。アリス、頼むぞ』
『了解』
アリスとマイクロドローンが先頭を進み、物音がする場所に近づいていく。
『敵歩哨2名。マイクロドローンが軍閥の指導者らしき人物を捕捉。照合中』
アリスが事前に叩き込まれた軍閥の指導者の生体情報とマイクロドローンの映像に映った人物を照合していく。
『間違いなく、目標です』
『了解。ジャガーと七海は歩哨を排除。俺とアリスは突入する』
羽地は指示を出し、アリスたちが援護する中、素早く八木と七海が歩哨をコンバットナイフで始末する。そして、羽地とアリスがすぐさま突入した。
「動くな。騒ぐな。騒いだら、殺す」
羽地は軍閥の指導者の首にコンバットナイフを突きつけて、そう宣告する。
「私に何の用事だ? 殺しに来たのか? 私を殺しても抵抗運動は揺るがないぞ」
「そうだろうな。だが、お前のようなカリスマを持った人間も少ないだろう。何せ、子供兵をドラッグを使わずに動員しているんだ」
「当り前だ。我々は我々を迫害するものたちとは違う」
種族差別的軍閥がドラッグを使って子供兵を戦闘に動員しているのと違い、少数民族の軍閥は自らの自由意志で参加を呼びかけていた。家を失い、家族を失い、行き場を失い、恨みだけを募らせた子供兵が軍閥に集まっている。
「立派な志だが、子供を戦闘に動員している時点でお前も連中の同類だ。さあ、質問の時間だ。だが、俺たちはお前をそのことで責め立てにきたわけではない。どこから武器を入手したか。それを教えろ」
「……“ウルバン”という男が取引を持ち掛けてきた」
「“ウルバン”というのは男か? それとも女か?」
「分からない。奇妙な声をしていた。聞き取りにくい甲高い声だ」
変声機を使ったかと羽地は思う。
「“ウルバン”について知っていることを全て話せ」
「“ウルバン”と直接やり取りしたのは最初だけだ。後はメッセンジャーとやり取りした。そのメッセンジャーが武器を運んでくる。コンテナという鋼鉄の箱に収められた武器だ。我々はそれを受け取り、この地の鉱山で取れた鉱物を売った金を渡す」
「コンテナには何と書いてあった?」
「何も。まっさらな小豆色で塗られている以外特徴はない」
クソ。外れだ。“ウルバン”についての新しい情報はない。
「メッセンジャーは次はいつ来る?」
「明日かもしれないし、3か月後かもしれない。定期的に武器を供給してくれるわけではないのだ。ただ、必要に応じて武器を提供してくれる。それだけだ」
「弾切れを起こすタイミングが分かるってことか?」
「どうだろうな。弾がまだあっても新しい武器を提供してくれたりする」
どういうことだ? “ウルバン”はどこかで戦闘を監視しているのか?
「メッセンジャーはどんな人物だ」
「ただの人間だ。お前たちと同じように」
……………………
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