続く首狩り

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 ──続く首狩り



 今回もMV-280輸送機で戦場に乗り込んだ。


 今回も軍閥の首狩り。


 あのマルメディア王国での一連の首狩りから2ヵ月。


 この2ヵ月の間に、羽地たちは8名の軍閥の指導者を暗殺してきた。


 全ては天満のご神託通りに。


 ナイフで殺し、銃弾で殺し、爆撃で殺し、殺し続けた。


 そして、その死者たちの口から出てくる名は“ウルバン”と。


 “ウルバン”とは誰だ? “ウルバン”とは男か? “ウルバン”の人種は? “ウルバン”とは個人を指すのか、それとも集団を指すのか? “ウルバン”とはどうやって連絡を取り合っている? “ウルバン”は何故“ウルバン”だ?


 羽地は軍閥の指導者をそう尋問してきた。だが、出てくる“ウルバン”という単語の比率に対して、“ウルバン”の正体を示唆するものはあまりにも少ない。男か女かもわからず、どこの国籍の人間かもわからず、個人か集団かすらも分からない。


 ただ、日本情報軍上層部は間違いなく“ウルバン”の関わっている紛争を追っている。これまで“ウルバン”の名の出なかった軍閥同士の争いはない。これまで羽地たちが暗殺してきた軍閥の指導者は武器の出どころを聞かれて必ずこう答える。『“ウルバン”が我々を支援してくれている』と。


 戦場を渡り歩く兵器ブローカー死の商人。必ず両方の陣営に武器を売り、対立を煽り、紛争を激化させる。ビッグシックスまでもを巻き込んだ男。アトランティスとアローだけではない。他のビッグシックスも“ウルバン”に関わっている。


 そして、“ウルバン”の売る武器の特徴はIDタグが付けられていないこと。


 自動小銃から戦車まで、国際条約で定められたID登録が成されていない武器が、“ウルバン”の主力商品だった。


 国際条約──国際兵器輸出入管理条約──通称トロント条約では、強権的で、人権を無視した政治を行う独裁者や殺戮を繰り広げるテロリストたちに武器が渡らないように、全ての国家の製造する武器に国際的な規格のIDを付けることが義務付けられていた。


 “ウルバン”の扱う武器には、それがない。


 もちろん、羽地はIDのない武器の存在について知らないわけではない。彼は日本情報軍の任務で中央アジアの内戦を先導していた時にIDのない武器を大量に扱っていたからだ。中国製やロシア製のそれ。それを軍閥に渡していた。


 それらの大部分が前世紀の冷戦時代に作られたものだったとしても、この世界には国際条約から逃れた武器があるのだ。


 だが、“ウルバン”のそれは冷戦時代のものではない。


 主にロシア製。ロシアが内戦状態に陥ってから5年が経過するが、ロシア製の武器の管理体制に問題があるのはそれより以前から指摘されていた。ロシア人は大規模なエネルギー変動に対応できず、輸出できるものと言えば武器だけになり、武器を買う人間は選ばなくなっていた。


 それが内戦状態に陥って加速した。


 では、“ウルバン”はロシア人の言うところの恥知らずの同胞か?


 “ウルバン”はロシア人なのか?


 その問いに対する答えはない。


 “ウルバン”はロシア人かもしれないし、“ウルバン”はロシア人ではなかもしれない。別にロシア人だけがロシア製の武器を扱っているわけではないのだ。ロシア人以外もロシア製の武器を取引している業者は存在する。


 日本情報軍上層部と天満は何かを知っている。だが、その何かが分からない。


 そろそろそれをはっきりさせたい。日本情報軍上層部が何を考えていようと、現場の暴走と言われようと、羽地は事実が知りたい。事実を知ることに何の意味がなかったとしても、このくだらない軍閥の戦争ごっこで遊んでいる人間の正体を知りたい。


 “ウルバン”とは何者なのか?


『事前のブリーフィング通りだ。今回も隠密ステルス。敵は装甲車両とテクニカルを中心にした武装勢力だが、戦車は保有していない。少なくとも天満のご神託では。ロシア製兵器のオンパレードになるだろう、今回も』


『了解。用心していきましょう、レオパード』


 地対空ミサイルなし。自走対空砲なし。レーダー連動式対空砲なし。


 あるのはいつも通りのロシア製4連装対空機関銃ZPU-4。それから23ミリ2連装対空機関砲ZU-23-2。うっかり上空でホバリングでもしない限り、それらに襲われることはない。まあ、日曜大工的にテクニカルにそれらをマウントしたものを自走対空砲とは呼ばないだろう。


 今回の軍閥は所持している武器に比べて重要性が高い。


 何故ならば、直近で“ウルバン”とやり取りをした可能性が高いのだ。それも民間軍事企業の軍事顧問団を介してではなく、軍閥の指導者が直々に“ウルバン”と接触した可能性があるのである。


 今回の軍閥は民族問題で揉めている係争地帯の軍閥で、少数民族側の軍閥だった。ビッグシックスはこの手の人種問題に関して他社を妨害する意志がない場合は、大抵の場合多数派民族を支援してきた。


 少数民族がよほど大事なレアメタル鉱山を保有していても、彼らの兵力は乏しい。維持し続けることは難しい。紛争をローカライズ──つまりは現地住民にやらせる場合には、この少数民族と多数派民族の差は企業にとって大きな問題となる。


 少なくとも企業にとって営利だけを求める場合、少数民族は全て処分してしまった方がいい。その方が企業にとってはやりやすい。企業が地球ではデューデリジェンス問題を考える場合でも、異世界においてはそのような問題を考える必要はない。


 今回の少数民族はそんな立場の種族たちだった。


 それがレアメタルを他のビッグシックスに売った金で武装し、軍閥化した。


 公式にはどの企業もその少数民族を支援していないが、ビッグシックスのいくつかの企業と取引を行っているのは事実であった。少なくとも天満のご神託では。


 だから、“ウルバン”から武器が買えた。


 彼らは思ってもみないだろう。自分たちを迫害している種族差別的軍閥にも同じ人間が同様に武器を売っているなどとは。


 必ず“ウルバン”は両方の勢力に武器を与える。まるで戦争をボードゲームにして楽しんでいるかのようにして。


 悪趣味な奴だろうと羽地は思う。


 戦争はボードゲームじゃない。実際に血を流して戦っている兵士がいるのだ。


 それをゲームのように。


『警戒。前方、敵装甲車』


『BRDM-2偵察戦闘車か。恐らくは暗視装置が付いている。避けて通ろう』


 アリスが報告すると、羽地が指示を出す。


 第6世代の熱光学迷彩は暗視装置があろうと把握できない作りになっているが、夜の闇を引き剥がされることにメリットはない。夜の闇に紛れるブギーマンたちにとって、暗視装置を有する偵察戦闘車は天敵だ。


 険しい道を進み、少しずつ軍閥の指導者の拠点に近づく。


『かなり近づいて来たな。電子情報軍団からの情報によれば、無線通信のやり取りはこの先の洞窟付近で行われている。もうじき、“ウルバン”に会った人間と会えるぞ』


 軍閥の長距離無線通信機はこの先の洞窟付近にあった。


 恐らくはアンテナだけ外に出して、軍閥に指導者自身は洞窟の中だろう。ここら辺は種族差別的軍閥が頻繁に爆撃を行っている。まともに当たらない無誘導の水平爆撃ながら、爆撃が行われていることそのものは事実だ。


 ビッグシックスにとっては政府公認の種族差別的軍閥が爆弾を無駄遣いして、自分たちからさらに爆弾を購入してくれることには助かっている。そのおかげで、貴重なレアメタルがただ同然で手に入るのだから。


 そして、未だに誰も“ウルバン”の心的イメージを組み立てられずにいる。


 “ウルバン”という人間は種族差別的軍閥にもロシア製の攻撃機を売り払い、そして迫害されている少数民族にも武器を売って抵抗することを維持させている。


 どういう意味がそこにある?


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