それは誰だ?
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──それは誰だ?
歩哨を始末した羽地たちは進み続ける。
マイクロドローン、アリス、羽地、八木、七海、リリス、月城という順番で城塞の階段を昇り、目標の居場所を探る。今回は事前偵察は行っていないが、電子情報軍団によれば、無線の発信源はこの建物で間違いなかった。
今も無線は使用されている。暗号化されているので現地では解読できないが、電子情報軍団のオペレーターたちが解読しているはずだ。
もし、装甲部隊が前線から引き返すような命令が出たならば、警告が来るだろう。
『マイクロドローンが目標を捕捉』
『オセロットとジャガーはここで待機し、退路の確保を行え。こちらは目標を尋問してから、殺害する』
八木と月城に待機命令を出してから羽地はコンバットナイフを抜き、アリスが援護する中、目標である軍閥の指導者の下に向かう。目標は無線に向けて何事かを言うと、すぐに通話を切り、机を叩いた。
爆弾ベストを着ているわけではない。リアルタイムに分析されている周囲の臭いからも爆発物の臭いはしていなかった。ここで自爆される恐れは恐らくはないだろう。
羽地は床を蹴って軍閥の指導者を抑えつけ、コンバットナイフを首筋に突きつける。
「大人しくしろ。聞きたいことがあってきた」
「王党派の刺客か。姑息な」
共和派の軍閥を率いる指導者は羽地を睨みつける。
「どうでもいい。俺は聞きたいことを聞いたら引き上げる」
「腐敗した宮廷貴族と時代錯誤の王政など行っている連中に喋ることなどない。殺したいならば殺せ。私は大義に殉じる。誰も我々の革命を止めることはできない」
「そう簡単に死ぬ決意をされても困るな」
羽地は軍閥の指導者の口を押さえ、軍閥の指導者の手にナイフを突き立てる。
悲鳴を上げる軍閥の指導者の口を押さえつけ続け、悲鳴が止めると離す。
「考え直したか? 言っておくが、何も喋らない場合は苦痛に満ちた死が待っているぞ。お前たちはすぐに死を口にするが、死に至るまでの道のりは苦痛に満ちていることを忘れるな。そう簡単に生き物は死なない」
「……王党派のクズめ」
そうはいっても共和派の軍閥指導者の瞳には恐怖の色があった。
「お前の言う共和制というのは子供を兵士にして殺し合わせる共和国なのか? 共和制はそんな腐ったものじゃない。王党派も共和派も俺たちからすればどっちもどっちだ。お前たちは揃ってクズのお似合いだよ」
王党派も共和派も国のためではなく、ビッグシックスのために戦わされていることに気づいていない愚か者だ。ビッグシックスのために子供兵を犠牲にしているクズどもだ。そんな連中が大義などと口にするだけで羽地は虫唾が走った。
「我々の聖戦を邪魔するものが悪いのだ。我々は悪しき王政を打ち倒すために若き勇者たちを一時的に動員しているだけだ。戦いが終われば彼らには英雄としての地位が約束されている。国家を救った英雄であると」
「吠えるのも大概にしろ。お前たちは子供を犠牲にした時点でクズだ。お前のいう大義なんてどうでもいい。イデオロギーがいくら正しかろうと、それを実行するプロセスが腐っていれば、それは腐敗した大義だ」
羽地はもう一度コンバットナイフを軍閥の指導者の腕に突き立てる。
「喋れば解放してやる。腐った聖戦でもなんでも続けるがいいさ」
「何が聞きたい……!?」
「お前たちに武器を供与している人間。それは誰だ?」
羽地はそう尋ねた。
「我々に武器を提供している人間か? 確か“ウルバン”という男だ。それ以上のことは知らない。男か、女なのかすら分からない。だが、確かに“ウルバン”という人間から武器は送られてくる」
「どうして“ウルバン”の名前を知った?」
「軍事顧問団から情報提供を受けた。彼らは“ウルバン”から、この聖戦に必要な武器を入手していると。“ウルバン”こそが我々の聖戦の支援者であると。その人物が武器を我々に売却し、そのおかげで王党派と戦えているのだと」
「なるほど。分かった」
羽地は軍閥の指導者の喉を掻き切り、腎臓に数回コンバットナイフを突き立てた。
『レオパードより全員。情報は聞き出した。離脱する』
『クーガーよりレオパード。今は不味いですよ。また戦車と歩兵戦闘車を乗り回している連中が来ています。連中に気づかれないようにしてください』
古今がそう言って狙撃地点から戦車と歩兵戦闘車の様子を観察して
『クソッタレ。仕方ない。イノシシに突撃してもらおう。レオパードよりナインテール。航空支援は可能か?』
『航空支援は可能。オプションはアヴェンジャーとマーヴェリック、以上』
『目標を指示する。攻撃してくれ』
羽地は戦術級小型ドローンを展開すると、その映像からアヴェンジャーで攻撃すべき目標とマーヴェリック対戦車ミサイルで攻撃する目標を指示する。
『確認した。攻撃開始まで2分』
長い2分になりそうだと羽地は思った。
『ジャガーよりレオパード。歩兵複数が室内に侵入。交戦許可を求める』
『交戦を許可する』
室内に侵入した敵歩兵が音もなく撃ち抜かれ、地面に倒れる。
『ナインテールよりレオパード。攻撃開始、攻撃開始』
QA-10無人攻撃機のオペレーターからの声が響く。
BMP-3歩兵戦闘車がアヴェンジャー機関砲の掃射を受けて吹き飛び、マーヴェリック対戦車ミサイルが2両のT-90主力戦車を吹き飛ばす。
『パーティーが始まった。脱出するぞ』
『了解』
羽地たちは城塞の窓から飛び降り、各自が援護し合いながら駆け足で脱出地点に向かう。重い装備を抱えていようと四肢を高出力の人工筋肉に替えている羽地とアリスたちには関係のない話だ。
テクニカルが動き出すエンジン音が響くが、テクニカルは明後日の方向に走っていった。羽地たちは発見されていない。
彼らは無事に脱出地点に到着すると古今とスミレと合流し、迎えに来たMV-280輸送機で戦場から離脱していった。
「それで、また“ウルバン”ですか?」
「ああ。“ウルバン”だ。奴は王党派と共和派の両方。そして、ハンター・インターナショナルとフラッグ・セキュリティ・サービスの両方に武器を売っている。まさに死の商人だ。分別というものがない」
月城が尋ねるのに羽地がそう返す。
「厄介そうな案件になってきましたね。それとも“ウルバン”が関わっている戦争はこれだけでしょうか?」
「どうだろうな。どうも日本情報軍は俺たちに何か隠しているような気がする」
「隠している?」
「この作戦を立案したのは天満だ。天満はどうしてこの戦争を選んだ? 俺たちはたまたま“ウルバン”に出くわしたのか? ここで起きているクソみたいに多発している紛争の中からピンポイントで両陣営に武器を売っている“ウルバン”に行きついたのは何故だ? そう思うと日本情報軍が天満に何を分析させたのかが気になる」
「それは……確かにそうですね」
月城はそう言って考え込んだ。
「天満は何を知っている? 日本情報軍は何を知っている? 俺はそれが“ウルバン”に繋がるヒントだと思っている。恐らくは次の作戦にも“ウルバン”が登場するぞ。俺が思うに最終的に下されるのは“ウルバン”の暗殺命令だろうな」
これまで殺してきた多くの人間と同じように、“ウルバン”も血の海に沈むのだ。自分が売ろうとした巨砲の暴発ではなく、羽地たちの放つ鉛玉で。
だが、日本情報軍がそこまで把握していながら、これまで放置していた理由は何だろうか? それが分からない。ビッグシックスの脅威は理解できkるが、その脅威は“ウルバン”を叩いた程度で収まるものではないだろう。
むしろ、“ウルバン”は活用すべき資源だ。ビッグシックスの連中を紛争の泥沼に叩き落とし、殺し合わせるために“ウルバン”は活用するべきだ。
「何はともあれ、任務終了だ」
……………………
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