群れる鋼鉄の猛獣ども
……………………
──群れる鋼鉄の猛獣ども
天満の予想通り、共和派の軍閥は王党派に対する攻勢準備に入っていた。
戦車、歩兵戦闘車、兵員輸送車が戦線付近に集まる。奇しくも、攻撃目標はレアメタル鉱山がある山岳地帯だった。
羽地たちを乗せたMV-280輸送機はレーダー照射を受けることもなく、軍閥の指導者の拠点から10キロという近距離の羽地たちを降下させた。
これ以上近づくとなると旧式のMV-280輸送機ではローター音で気づかれる可能性があった。パトロールの哨戒線ギリギリのラインに降下し、そこからはステルスだ。軍閥の哨戒線は事前の航空偵察で把握している。テクニカルと歩兵が拠点から半径7、8キロの範囲で定期的にパトロールを行っている。
ホバリングするMV-280輸送機からファストロープ降下した羽地たちは、すぐに活動を開始する。まずはポイントマンであるアリスが羽地の援護を受けて道を切り開く。
ここでも常に際しい道を進めであった。平坦な道は敵のパトロールに利用されている。パトロールを避けるには、パトロールとの戦闘を避けるためには、常に険しい道を進み続けるしかない。
それでも哨戒線に触れずには軍閥の指導者の拠点にはたどり着けない。
平坦な道路が横たわる中を、古今とスミレの援護の下、アリスが素早く横切り、羽地がそれに続く。それから八木が、七海が、月城が、リリスが、最後に古今とスミレが哨戒線を突破する。
哨戒線を突破して一安心というわけにはいかない。哨戒線を抜けたということは、ついに敵地の中に忍び込んだということなのだ。ここから先は戦車が出ようと、歩兵戦闘車が出ようと、驚くべきことではない。
フラッグ・セキュリティ・サービスの軍事顧問団が全戦力を王党派の攻撃に投じてくれているのを祈るのみだ。
熱光学迷彩で姿を消したまま、軍閥の指導者の拠点を目指す。共和派は古い城塞を拠点にしていた。動体センサーや熱赤線センサーが張り巡らせてあり、恐らくは地雷も埋められている。
『クーガー。ここでスミレと援護してくれ』
『了解』
城塞が見渡せる丘の上で、古今とスミレが狙撃手と観測手として待機する。
基本的に狙撃はふたり一組で行うものだ。狙撃手と観測手。というのも、狙撃手の狙撃用の高倍率のスコープは周囲を見渡すのには向いていない。そのため観測手が比較的広範囲を見渡せる双眼鏡で周囲を見渡し、索敵を行う。また基本的に連射の効かない狙撃銃とは別に観測手が別の速射が出来る銃を持っておくのも役割分担だ。
そのようなわけで古今とスミレはペアで行動していた。
スミレの対人関係の経験値が高いのは、社交的な古今とこうして長時間、ペアで行動しているからだと考えられる。
そして、羽地たちは古今とスミレの援護の下、古い城塞に向かう。
『クーガーよりレオパード。お客さんです。T-90主力戦車2両とBMP-3歩兵戦闘車4両及び歩兵1個小隊規模。歩兵はタンクデサントしています。厄介なパトロールですよ』
『そのようだ』
羽地たちの眼前を敵の装甲戦闘車両が無限軌道の嫌な音を立てて通過していく。兵士たちはT-90主力戦車やBMP-3歩兵戦闘車にタンクデサント──装甲車両の中では上に乗る形──で乗車しており、1個小隊30名規模の歩兵が6両の車両に分乗していた。
T-90主力戦車のような爆発反応装甲のある車両にタンクデサントするなど論外だが、兵士たちはお構いなしの様子だった。発展途上国ではよくあることだ。中央アジアでも爆発反応装甲を付けた車両に楽をするために乗っかっている兵士たちがいた。
羽地たちは地面に伏せて、装甲車両が何にも気づかず、ただ立ち去ってくれることを祈った。羽地たちの火力ではこの規模の装甲車両を相手にしてまず勝てるはずがないし、航空支援は呼ぶまでに時間がかかる。
幸いにして戦車も歩兵戦闘車も、何にも気づかず、無限軌道の音を立てながら立ち去っていった。戦闘適応調整を受けていても羽地は寿命が3年ほど縮んだ思いをした。
『敵は全ての装甲戦力を前線に投入していない。警戒して前進』
『了解』
羽地たちはアリスを先頭に前進していく。軍閥の城塞までかなり近いところまで迫った。戦車の無限軌道の音はしないが、テクニカルのエンジン音はする。この数の敵に追い回されたらたまったものではないなと羽地は改めて認識した。
『前方BTR-90装甲兵員輸送車』
『畜生。本当に留守番が多いな』
ここでも王党派と同じ装甲車だ。やはり、“ウルバン”なのだろうか。それともただ偶然ロシア製の兵器が集まっただけなのだろうか。
羽地たちはBTR-90装甲兵員輸送車をやり過ごし、城塞に迫る。
夜の暗闇の中で軍閥が有する光源や暗視装置程度で、第6世代の熱光学迷彩は剥せない。羽地たちは全く気付かれることなく、城塞に辿り着いた。
『正面、歩哨が4名』
『別の入り口を探そう』
無防備な軍閥の兵士──それも子供兵を殺すのは簡単fだ。だが、そうすれば死体が発生するし、死体を隠せば、歩哨がいないことに気づかれる。
無益な殺生は禁物とは言ったものである。
『ドローンは上空からの映像しか撮影してないからな。小型ドローンを使おう』
羽地が戦術級小型ドローンを取りだす。
羽地は古今より上手くないものの、ドローン操縦ができないわけじゃない。羽地は城塞の周りをドローンを飛行させて探らせ、そして窓ガラスのない、開けた窓があることを発見した。軍閥の歩哨もいない。内部にも、外部にも。
『入り口を発見。忍び込もう』
アリスの
『アリス。状況は?』
『問題ありません』
アリスは部屋の外部を確認し、敵がいないことを確認した。
『では、この侵入ルートを使おう』
アリスに続いて羽地が飛び込む。それから八木の背負っている84ミリ無反動砲を受け取り、八木が飛び込み、七海が飛び込み、月城とリリスが飛び込む。
『見通しが悪い。マイクロドローンを使って先行させよう』
小型ドローンがバックパックに収まるサイズだとすると、マイクロドローンはもっと小さく、タクティカルベストのポーチに収まるサイズだ。
クマバチをバイオミメティクスしたもので、サイズは本当にクマバチ程度。それでいて光学センサーと6時間の飛行能力を有する。狭い場所にも入っていけるし、小さく、音も羽音が響く程度なので、敵に気づかれにくい。
羽地はポーチからそれを取り出し、AR上で操作する。
『マイクロドローン、展開』
マイクロドローンからの映像が送られてくる中、羽地たちも進み続ける。
アリスを先頭に羽地が続き、マイクロドローンがさらに先行して情報を送ってくる。
『注意。敵の歩哨4名。前方の室内』
『了解』
アリスが了解し、慎重に進む。
マイクロドローンが捉えた敵兵が4名。室内でドラッグ入りのタバコを加えて見張りに立っていた。近くにある高原は外にあるドラム缶に入れられた木材を燃やしたものだけだ。室内に光源はない。
『どうしますか?』
『始末しよう。ここを通らないと先には進めない。ばっさりと喉を掻き切ったら、そのまま死体を隠して、目標を迅速に仕留める』
『了解』
羽地たちはコンバットナイフを抜くと、それを構えて4名の歩哨の背後に立った。
次の瞬間血しぶきが舞い散る。喉を掻き切り、腎臓を滅多刺しにする。
それで敵は無力化され、羽地、アリス、八木、七海は死体を物陰へと隠す。
これでタイマー作動だ。死体が発見される前に目標を仕留めなければいけなくなった。迅速に行動し、目標から“ウルバン”について聞き出し、始末しなければならない。
『迅速に動くぞ』
『了解』
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます