六大多国籍企業
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──六大多国籍企業
「集まったわね。結構、始めましょう」
第403統合特殊任務部隊は民間軍事企業であるシェル・セキュリティ・サービスを偽装に利用している。というのも、日本国の、いや国家に所属するあらゆる軍隊と準軍事組織はポータル・ゲートを利用できないからだ。
日本の保有するポータル・ゲート・ワンは東京湾にある開門島という人工島に建造されている。そこから大量の天然資源などが輸出されるのである。
首都の目の前にあるこのポータル・ゲート・ワンに他国の軍隊を?
冗談ではない。他のポータル・ゲート保有国も自国の領土に他国の軍隊が入り込むことを拒否した。故に国連安全保障理事会の判断による“差し迫った脅威”がなければ、正規軍も海上保安庁のような準軍事組織も通過できなかった。
だが、日本情報軍にはポータル・ゲートの向こう側を監視する必要性があった。
ポータル・ゲートの向こう側には正規軍ではないと称して、民間軍事企業が跋扈しているのだ。その数は3万から5万という規模。それも装甲車やドローン、果ては爆撃機や戦車で武装した大軍勢だ。
そんな軍事勢力が東京湾のすぐ向こう側にあるのに日本情報軍は脅威を覚えた。
そして、監視のために設置されたのが第403統合特殊任務部隊。すなわちシェル・セキュリティ・サービスだ。彼らは民間軍事企業の振りをして、ポータル・ゲートの向こう側の拠点を作り、民間軍事企業の監視に当たることになった。
そして、その任務を補佐する目的とミミック作戦のために羽地たちは第403統合特殊任務部隊に所属している。
ミミック作戦。アンドロイドの軍事利用のための試験的任務。
軍の省人化、無人化の一環であり、ミミック作戦に使用されるミミックたちは人に人として判別されるかどうかを目的に育成されている。
基礎となるものができれば、後は量産して実用化するだけだ。
さて、今回はどこの民間軍事企業がトラブルを起こしたのかと思いつつ、羽地はシェル・セキュリティ・サーボスのブリーフィングルームで椅子に座り、矢代と自身のタブレット端末を見つめた。
ブリーフィングルームはファラデーケージ構造になっており、あらゆる電波が遮断される。基本的にここでの情報は外には漏れださない。そうしなければ、ここが日本情報軍の拠点だと知られるわけにはいかないのだ。
「市ヶ谷からの暗号通信よ。今から表示するから」
タブレット端末に文章が表示される。
「ビッグシックスの脅威?」
ビッグシックス、あるいはヘックス。
それは多国籍巨大企業を指すものだった。企業格付けAAA+の正真正銘の巨大企業。
ビッグシックスは今はこの異世界を根城にしている。
希少資源から安い地価、安価な労働力を利用し、ビッグシックスはこの異世界を貪欲に貪っていた。奪い、奪い、奪い、奪う。逆らうものは民間軍事企業を使って叩き潰してきた。自由主義を広げるという名目で。
「今になってビッグシックスの脅威とは? って思うわよね。でも、これを見て」
破壊されたT-14主力戦車が映し出される。
「異世界からもたらされる資源によって地球の希少資源の価格は暴落した。破綻した国家がいくつも出ている。エネルギー資源が核融合発電の実用化によって変動したのと同じ現象が起きているの」
矢代は話を続ける。
「それに加えてビッグシックスの地球経済に対する影響力は無視できない状況にある。イギリスの陥落と言われるようにビッグシックスが国家を買収するなんてことが起きている。これは明らかな安全保障上の脅威よ」
イギリスの陥落はニュースで知った。
イギリスをアトランティス・グループという企業が乗っ取ったに近い状況まで追い詰めたのだ。彼らには莫大な資産ががあった。それこそ国家を買収してしまえるほどの、膨大な資産があったのである。
「日本情報軍はこれ以上ビッグシックスという企業帝国が巨大化するのを避けたいと思っている。そのために軍事介入することも必要だと考えている。そういうことよ」
ビッグシックスは異世界で稼いだ富で地球に深刻な影響を与え始めたということだ。
「ボス。具体的に市ヶ谷はどうしろと?」
第403統合特殊任務部隊──シェル・セキュリティ・サービスの社員が尋ねる。
「市ヶ谷は軍閥を潰せと言ってきている。ビッグシックスが駒のように使う軍閥を潰し、少しでも地域を不安定化させろと。軍閥の指導者を暗殺するなりして、ビッグシックスが軍閥を駒として使えないようにしろってこと」
「なるほど」
軍閥。羽地に嫌な思い出が蘇る。
「しかし、軍閥って相当な数がありますよ。どこから手を付ければいいんですが? それとも全て潰せってことですか?」
シェル・セキュリティ・サービスの社員が愚痴るようにそう言う。
「さあ? とりあえず、“天満”様のご判断待ちね。天満が判断を出し次第、また市ヶ谷から連絡があるはずだから」
天満とは日本情報軍電子情報軍団が運用している分析AIだ。
これも日本情報軍の省人化、無人化の一環であり、今や人間より精密な判断ができるようになったAIの“ご神託”を求めるためである。
「よっぽど酷いことを天満様に指示されないといいんですけど」
「ここの軍閥も子供兵遭遇率、高いからな……。戦闘適応調整を受けとかないと」
子供兵はどこの世界でも使われる。
彼らが無力だから。彼らが従順だから。彼らが安価だから。
そう思いながらも、羽地はアリスたちのことを思わずにはいられなかった。
自分たちも子供兵を使っているという事実。
「中央アジアでもどこでも子供兵だもんな。やりきれないぜ」
そう、羽地が四肢を失った中央アジアでも子供兵たちがいた。羽地の四肢をもぎ取った対戦車ロケット弾を撃ち込んだのは子供兵であった。
第101特別情報大隊第4作戦群。
それは何らかの形で四肢を失い、四肢と脊髄及び骨盤を人工物に変更した兵士たちの集まりであった。全員が戦場で“ヘマ”をしたという経歴から尊敬されることは少なく、『軍人のスクラップヤード』や『死にぞこない部隊』『ブリキの兵隊作戦群』と他の特殊作戦部隊のオペレーターたちからは散々な評価だ。
だが、今や義肢は人類を発展させるものだ。
オリンピックよりもパラリンピックの注目度が上がるほどに、義肢はダイナミックな動きを可能にした。人間の限界を超えた力を引き出す。通常であれば強化外骨格(エグゾ)を装備しなければできないような動きが強化外骨格(エグゾ)なしで行える。
それは軍にとっては貴重なリソースと言えた。
「お喋りはそこら辺にして。高校生じゃないのよ」
矢代が手を叩く。
「各部隊。出撃に備えて。カバーの任務も継続するけれど、規模は縮小するから。それから羽地君。君の部隊も動員するから準備しておいてね」
「了解、ボス」
畜生。また軍閥とやり合うのか。羽地は悪態をつきたくなった。
ここでも中央アジアのようなグレートゲームVer.2060が繰り広げられると思うと、羽地は本当にうんざりした気分になった。
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