魔子様のプロレスはお怒りの証

一陽吉

お似合いでございます

「あほかー!」


「ぐはっ!」


 魔子まこ様。


 見事なドロップキックです……。


 しかし、それが飛んできたということはお怒りの証拠。


「お気に召しませんでしたか?」


「あたりまえでしょ。何よこれ、ビキニアーマーじゃない!」


「はい。魔子様がご所望された、女らしく強さも見える服装ということで、こちらをチョイスしました」


 そう。


 私は服装の魔導書に宿る魔獣だが、常にタキシードで正装し、主の要望にお応えしているのだ。


 十七歳、女子高生の主である魔子様は、小柄で華奢な体型ゆえ視覚に訴えるならば露出が一番。


「違うわよ! わたしは強そうに見える女性用のって言ったでしょう。こんなの金属でできた水着でしかないわよ!」


「しかし魔子様、それは特別製で固有のフィールドが発生し、対物理、対魔法の防御が向上します。そのうえ男子の視線を奪って集中を乱すという効果があり、パージも簡単です。こんな風に」


「!?」


「念じるだけで作用しますから手作業の必要がありません」


「あほかー!」


「ぐはっ!」


 左手で胸を隠しながら一回転しての右ラリアット。


 細腕ほそうでから放たれたものとは思えないほど強烈です……。


「だから、わたしは男相手に言ってるんじゃないの! いつもの魔導服じゃ地味だからカッコイイのないかってこと!」


「なんと、そういうことでしたか。これは失礼しました」


 そうかそうか。


 そういうことか。


 派手さが足りないということですね。


「ではこちらをどうぞ」


「!!」


「股から肩に向かってV字に伸びる赤い生地が肌をおおい、そこから両腕へ螺旋らせんに展開。そして腰からつま先に向かって黒く細長い生地が足に巻きつき、ズボンのような形になっています。近未来的でありながら、天女の羽衣を彷彿ほうふつさせる神秘的ファッション、いかがですかな」


「……」


 む。


 魔子様、顔をうつむかせ小刻みに肩をふるわせていらっしゃる。


 どうやら感激されているようだ。


 て、魔子様。


 私の背後にまわって抱きつきましたな。


 つつましくもお美しい胸が私の背中にあたっている。


 はは、参りま──。


「ふぅ、っぐ……」


 ま、魔子様。


 抱きつくのは良いのですが、これ、強すぎませんか。


 これでは私の内臓や背骨が──。


「あほかー!」


「ぐはっ!」


「あほか、あほか、あほかー!」


「だっ! どっ! がっ!」


 ふ。


 ふふふ……。


 連続バックドロップ。


 すさまじい威力ですね。


 そして……。


 これもお気に召さなかったということですな。


 まだ派手さが足りませんでしたか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔子様のプロレスはお怒りの証 一陽吉 @ninomae_youkich

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ