○二日目(2)○

「み〜つけた」

「ひっ…」

突然の声。おそるおそる見ると、あの女の子だった。

「あ…う、あ…」

「…何か用?」

とまどう私に対して、一琥が冷静に言う。

「用も何も、あなたたちを少し助けようと思って」

「…はぁ?」

何か…上から目線?

でも何か…本気っぽい。

「助けるって?」




「うーん…」

女の子が考える。

「あ、それ、食べた?」

私の手の中にある、あの箱を指差す。

びっくりしておとしそうになった。

「食べた?」

なんか…圧がかかっているような…。

「…まだ」

一琥が言う。「そっか」と言って、私の手から、箱をとった。


「あ、ちょ…」

ちょっと待って、と言う前に、女の子は箱のふたを開け、真っ赤なアメ一粒を口の中に放りなげた。

「た、べた…」

一琥が少しおどろいたように言う。私もおどろいた。


「毒があるか、わかんなかったんでしょ。どう?これで」

もう、すごい。なんか、説得された。

一琥は、ちょっと悔しそうな顔をして、真っ赤なアメを一粒、そおっと取った。私も、そおっと取った。

きらきらしたアメ。この小さい一粒で、本当に満腹になるのか。

一琥と私は、おたがい見合ってから、食べた。


あれ…?不思議な味…。いや、味がどんどん変わってる?

「…おいしい」

気付けば、そう言っていた。本当に、いろんな味がする。

「…うん」

一琥も、不思議そうな顔をしている。


そして数分後。食べ終えた。

「あれ?」

思わず声をあげた。


お腹、いっぱい…。満腹っていう言葉を思い出す。

だって、今、まさに、その状況にいるから。

「…お腹いっぱい」

「…おいしかった」

とまどう。本当に、お腹いっぱいになってる。

「お腹いっぱいって、こんなに不思議な感じだっけ…」

一琥が言う。

「こんなに、幸せだったんだ」

「…うん」

本当、すごい。どうなってんだろ。


「ね、大丈夫でしょ」

女の子が言った。

うん。大丈夫だけど、気になることがもう一つある。

「まずは、アメをくれてありがとう。そして、あなたは一体、何者なの?」

まさに言いたかったことを、一琥が言ってくれた。

女の子は、少し笑ったように見えた。


「…私は、この世界の人じゃない」

…?

「それって、どういう…」

「まぁ…わかんないか」

うん。まったくわかんない。

「私は、あの家族にまぎれこんでいるの。ここで生きるには、それしか方法がないから…」

ここで生きる?

「あなたは、どこからきたの?」

女の子は少し黙った。


「…あなたたちが、知らない世界」

「知らない…世界?」

「そう」

「じゃあ。ここは…」

「あの白い女が作り出した空間」

作り出す…?

「えっ、じゃあ私って…」

「もともとはこの世界にいない。迷いこんだのよ」

「あなたも?」

「えぇ、そう」

女の子はそう言って、少し考えた。

「う…ん…。そうね」

そう言って、説明してくれた。


「…世界っていうのは、いくつもあって、その間には境目があるの。普段はね」

「普段…」

「えぇ、でも境目が曖昧だから、ときどき、穴が開いてしまうのよ」

「穴?境目…?」

「…」

「そして、ここは白い女が作り出した世界。世界っていうのは、なんらかの変異とかで、もしくは神様が作るものなの。普段は」

「神様…?」

「…それで、あの白い女はたぶん、神様ではない。いや、絶対神様じゃない。だから…この世界には限界がある」

「限界…」

「それを見つければいいの?」


「う〜ん…そこまでは分かってないんだよね〜」

「はぁ…?」

「でも、その近くに出口があるかもってこと」


「「なるほど…」」


2人同時に言った。

「ぷっ…あははっ、仲良いね」

「えっ…あ、いや…」

一琥が照れる。

「えへへ…」

「でも、えっと…」

「よそら。よそらでいいよ」

「よそら、なんであの白い女は神様じゃないって分かるの?」

「う〜ん…」

よそらは黙りこんだ。

「…9割、カン‼︎」

「…は?」

「1割は、雰囲気」

「…はぁ?」

か…ん…

「でも私、けっこう鋭いからね⁉︎」

「は、はぁ…」

「けっこう有力な情報だよ⁉︎」

「う、うん…」

「んも…」

よそらがプイっとむこうを向いてしまった。

「あ〜…わかった、信じるよ!」

よそらは黙ってこっちを向いた。

そして、ちょっと微笑んだ。


それから、よそらといろんなことを話した。

「ごめん、そろそろ帰らなきゃ」

よそらが言った。

「そっか」

「明日もここらへんにいる?」

「うん、たぶんね」

「明日もくるよ」

「ありがとう!」

なんだか、心細さがうすまった。

「じゃあね〜!」

「ばいば〜い」


時間は6時30分。

「一琥、スマホ充電できた?」

「うん、あとちょっと」

なんだか…今日1日、不思議な事だらけだった。

「…不思議だね」

一琥が言う。

「私も思ってたとこ」

「はやく、みんなと合流したいね」

「はやく、もとの世界へ、もどりたいね」

「…大丈夫だよ。よそらもいるし」

「あまり心配しなくてもいいかもね」

「まだよそらに聞きたいこといっぱいあるし」

うん。ほんと。ちょっと勇気出てきた。


「…しりとりでもする?」

「あははっ、いいね。しよう」

「じゃあ舞華からどーぞ」

「えーっと…りんご!」

「ごま」 「まいく」 「くるま」 「ますく」 「くま」

「ま…まぁ…。また "ま" じゃんっ!」

「いひひぃ〜、もうギブアップかな?舞華クン」

「ぅ〜…まだまだいきます!まんと‼︎」

「と、う〜ん…」

「いや、 "ま" でせめなくていいから」

「…とからはじまってまでおわるのは…」

「聞いてない…」


しりとりって、こんなに楽しかったんだ。

一琥、よそら、今日一緒にいてくれて、ありがとう。

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白い女は、危険です。 #にっく622 @sumirenn123

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