○路地裏○
蕾花は、死んでしまったのだろうか。
「逃げて」...。この言葉を口にした蕾花の顔は、恐怖に歪んでいた。
最後に見た顔だ。蕾花...。
今は、路地裏で一琥とたった2人だけで隠れている。
8月中旬のくせに、体はカタカタ震えている。背筋に寒気がはしる。
「一琥...?」
ちゃんと、となりに親友がいるか、確かめたくなった。
「何?」
よかった。一人じゃないんだ。でも...蕾花はどうなんだろう。
あの世とこの世の境に、一人ぼっちでいるんじゃないか。
本当に、死んでしまったのだろうか。
「...こ、わい...」
恐怖のあまり、自分でも信じられないほどカスれた声が出た。
「他のみんなは...大丈夫かな...」
「こっちを追いかけてる間に、結構逃げられたんじゃないかな」
それを信じたい。もう、誰も死なないでほしい。
「路地裏を主な移動手段にしよう」
「うん」
一琥は冷静だ。たよりになる、クール系女子。いつもみんなを引っ張ってくれるしっかり者。一琥が今、私のとなりにいてくれて、本当によかった。
路地裏をこっそりのそのそ移動していると、建物の間からいつも通っていた大通りが見えた。たくさんの人が歩いている。ジョギングしている人もいる。あぁ、大通りを堂々と歩けなくなったのは、どうしてだろう。なんなんだ。あの白い女は。
なんで蕾花は襲われたんだろう。
なんでこんなとこに隠れてんだろう。
なんでこんなにおびえて、悲しまなければならないんだろう。
なんで楽しい日常を壊されなければならないんだろう。
どうして。なんで。なんで...なんでっ!!
「...舞華。」
ぽんっ。一琥のあつい手が、私の背中にふれた。そして、ゆっくりやさしく、背中をさすった。ちょっと、涙が出た。
友達がいて、よかった。親友がいて、よかった。
「...ごめん、ありがとう」
「大丈夫だから」
いつのまにか、座りこんでいた私に、手をさしのべてくれた一琥。
その手を取りながら、私の心の中には、少し、勇気と希望の光が生まれた。
「ねぇ、一琥」
「ん?」
「行ってみたい場所があるの」
◯○○
一琥がちゃんとついてきてくれているか後ろを見ながら薄暗い路地裏を歩いた。そして、あいつがいないことを確認して、普段通っていた道に出た。当たり前に、通っていた道に。別に、路地裏をつたって移動するのに不満があるわけじゃない。けど...。
やっぱり慣れない。怖い。
「ここ...」
「うん」
蕾花が...蕾花が襲われた場所。目の前で、蕾花がさけぶあの場面が鮮明によみがえる。でも...
「血が、ない...」
「あの大きな鎌で襲われたなら、まわりに血が飛び散るはず...」
「そうだよね」
なにかの魔法かなんかで消したとか。そうでもしないと血は残る。
「蕾花...生きてるのかも...」
「えっ!?」
いきてる...!?
「いや、あんまり期待しない方がいいけど...。血が飛び散っていないし、もしかするとっ ていうことだよ」
「でもさ、ちょっと希望みたいなのが見えたじゃん?」
「前向きな人が、私のそばにいてくれてよかった」
え...?私のこと...?
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