○悲劇○

 鳴都公園には、親子もいればカップルもいる。

私達みたいに友達と一緒に来る人や一人で本を読む人も。


美しい緑の芝生の上で鬼ごっこをすることにした。

照りつける太陽、ときどき生ぬるい風がふく。暑い夏。


 15分もしないうちにバテた。みんな、死にそうな顔だ。

ちょうど木陰になっているベンチを見つけた途端、みんなの顔が少し生き返った。


水分補給が終わり、そろそろ遊ぼう、と言いかけたとき。

「なんか、あの女の人不気味だよね。」

乃茜が言った。

白いワンピースから見える、細くて青白い手足。

腰までのびた、ボサボサの髪の毛。

30mくらいはなれたところに、ぼーっと突っ立っている。

「関わらない方がいいよ。」

一琥が言う。

「目が合ったら追いかけられるとか。」

と、結菜。

「やめてよ」

と、桜美。

目をそらそうとしても、金縛りになったように動けない。

「...舞華...?」

「っ...!!」

凜の声で我に返る。

「大丈夫?」

「うん...。ほんと、不気味だね。」

少し沈黙が続いた。


「次、だるまさんが転んだ、しない?」

結菜が言う。みんな、賛成のようだ。

じゃん負けで凜が鬼になった。

「だ〜るまさんが〜こ〜ろんだっ!」

みんな、いっせいに固まる。

「だ〜るまさんが〜こ〜ろんだ...」

みんな、固まる。そして、凜の表情も固まった。

「...凜?」

凜の顔が、どんどん青ざめていく。

そして、私達の後ろを指さした。

私も、みんなも、おそるおそる、ゆっくり、振り返った。


「キャーーーーッ!!!」


ひっ...人が...10mくらい先で大きな鎌で殺されていた...。

10m先でも、恐ろしい。

犬が吠えた。鳥が逃げた。人はさけんだ。白い女の口角が上がって笑っているように見える。いや、笑っている。

逃げないと。

「逃げようっ!!」

乃茜が言う。みんな乃茜についていった。

めちゃくちゃに走った。苦しい。頭がぐわん...とする。

公園から少し離れた住宅街の分かれ道。ここで2組に分かれた。

凜、乃茜、桜美、結菜は左の道へ。一琥、蕾花、私は右の道へ。


もう、白い女がどこにいるかとか、考えるヒマもない。走った。走り続けた。分かれ道から随分、走ったころだった。普段あまり外に出て遊ばない蕾花は体力の限界。そして足がからまってコケてしまった。

「蕾花っ!!...」

ずっと走っていた足に無理矢理ブレーキをかけ、名前を呼ぶ。

手をさしのべる。蕾花は、もう泣きそうだった。

立って...。そう言おうとした時だ。視界が少し暗くなった。


見たくないのに、私は顔を上げてしまった。

「...っ!!」

白い女がいた。あの大きな鎌には、真っ赤な血がついていた。


「逃げてぇっ!!」


ほぼ、悲鳴の蕾花の声。一琥に腕を引っぱられる。

足が勝手に動き出す。


「いやあぁぁぁぁっ!!」


蕾花の悲鳴が、背後から聞こえた。

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