エリート捜査官のお二人は夫婦漫才が得意なようです

神凪柑奈

潜入捜査?

 俺とエマはとある国際組織の相棒同士だった。だった、というのは不適切かもしれない。ただ俺のミスで今は大規模な作戦に参加出来ないだけだ。


「はぁ……暇ねぇ」

「悪いとは思ってないぞ。ヘマをしたけど、おかげでエマにも休みができた」

「なによ。別にあなたが悪いなんて言ってないじゃない。おかげで楽しい休暇よ」


 そんな憎まれ口を叩きながら、エマは包丁を細かく動かしていた。


「一応聞いてあげるわ。夕飯、なにがいいの」

「なんでもいい」

「そう言うと思ったわ」

「なら私はハンバーグがいいかな」

「「っ!?」」


 咄嗟にエマを抱えて声の主から遠ざかる。同時にエマは腰から銃を引き抜き、今度は俺を庇うように一歩前に立つ。

 そんな俺たちに、彼女は笑って言った。


「誰に向かって銃を向けている」


 笑顔に似合わぬ、ドスの効いた声。その声に俺もエマも警戒態勢を解かずにはいられなかった。


「……なにしてるんですか、マーム」

「来るなら来ると連絡をください、サラ先生」


 サラ。俺たちの上官にあたり、同時にエマに全てを叩き込んだ女だ。

 俺とエマのどちらにも悟られることなく、何事も無かったかのように部屋で寛ぐ姿はさすがとしか言いようがない。そんなサラは、楽しげに笑うばかりだ。


「そんな怒らないでよ。イチャイチャしたい気持ちはわかるけど、今回はユーリでもできる簡単な仕事を持ってきてあげたんだよ」

「なるほど。それは失礼しました」

「いいよ。で、その仕事なんだけど、潜入捜査だ」

「潜入捜査……ユーリはともかく、私には無理だと思います!」


 真っ先に抗議の声をあげたのはエマ。その言葉を俺もその通りだと思った。

 確かに、俺は潜入捜査が得意だ。戦闘能力に関してはエマの方が遥かに上だが、そのうえでバディを組んでいるのは単にエマができないことを俺ができるから。

 しかし、国の警察や自治体が管理できないことだから俺たちに話が回ってきたのだろう。となれば、現状の俺が一人でというわけにはいかない。


「大丈夫。君たちならできるよ。潜入先は……劇場だよ」

「劇場……?」

「そう。お笑いの、ね」

「……はぁ!?」

「大丈夫大丈夫。エマの冗談はたまにキレがあるし、ユーリもいいツッコミしてるからいけるよ。というわけで、がんばれ」

「いやいやいや無理ですよ! 普段からとち狂った発言してるマームの方が向いてるじゃないですか!」

「そうですよ! 私やユーリよりサラ先生の方が芸人っぽいです!」

「あれ、ディスられてる? これ一回殺した方がいいやつ?」


 にっこりと笑って殺気を放つマームから、咄嗟にエマを抱えて遠ざかる。同時にエマは腰から銃を引き抜き、今度は俺を庇うように一歩前に立つ。

 そんな俺たちに、彼女は笑って言った。


「さっきと全く違わぬ動き!?」

「当然です。いくらマームとはいえ、エマには指一本触れさせません」

「同じく。ユーリは絶対に私が守る」

「……よし、それでいこう」

「は?」

「夫婦漫才だよ夫婦漫才。いつも通りの君たちでいこう。それがいい」

「……はぁ!?」


 先に声をあげたのは、やはりエマだった。


「めめめめ夫婦!? いや、私たちはパートナー! 夫婦ではありません!」

「いっそ人生のパートナーになっちゃいなよ」

「それって……だ、駄目に決まっているでしょ! 私がユーリとなんて……ふ、不釣り合い! そう! だめ!」

「それは違うだろ。エマの方が俺なんかより立派だ」

「はぁ!? いつも言ってるけど、脳みそまで筋肉な私より機転が利くあなたの方がずっとすごいわよ!」

「いいや、俺は何度お前に助けられたかわからない」

「なんでそんな事言うのよ……あなたの唯一悪いところよ!」

「なんでそんなキレながら褒め合ってるの? 馬鹿なの?」


 呆れたように首を振りながら俺たちの頭を殴るマーム。警戒態勢を解いたつもりはなかったが、やはり敵わなかった。


「うぅ……」

「エマ、大丈夫か」

「やるのかやらないのか早く決めてくれない?」

「やります。やりますよ、夫婦漫才」

「えぇ!? 本気!?」

「マームがそう言うなら間違いないだろ」


 今までサラという女が失敗をしたことは無い。ということは、俺とエマの可能性を信じているのだろう。


「私は早くこんなクソみたいな仕事をやめて君たちに幸せになってほしいんだけどね」

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エリート捜査官のお二人は夫婦漫才が得意なようです 神凪柑奈 @Hohoemi

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